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立ち行き、立ち返り、立ち登る

オフシーズン中の祝日ということでプライベートな予定を入れてみた。気心の知れた仲間で登山にいくことにしたのである。東京と新潟のおよそ中間地点に位置する2,000m級の山に行くことにした。無論、雪山である。予報によると天気は良好。予定通り行けそうだ。はじめての雪山に半分ワクワク、残りは不安が心を支配する。

厳冬期の登山は初めてなので適切な装備を揃える必要がある。まずは都内で登山グッズ専門店が密集しているエリアへ行く。このエリアは大学など教育施設が多く、自分も学生時代はよく通っていた。カレーが有名なエリアである。コスト対カロリー&腹持ち具合においてパフォーマンスが良いという理由から、学食のカレーを食べていたのはもはや遠い昔のように感じる。実際は10年も経っていないのだが。

事前調査によると、厳冬期に2,000m級の山にチャレンジするには、

  • 10本歯以上、且つ、前爪のあるアイゼン

  • アイゼンがつけられる靴

  • ハードシェルのウェア

  • 手袋

  • ピッケル

が必要なようだ。全てを有名なメーカで揃えようとすると200,000円は余裕で超えてしまうということが現地調査で判明した。つくりの良さそうなものは高い。良いことなんだけど、お財布には大打撃だ。もっと稼がなければ、と心に誓ったのであった。

結局、アイゼンと靴、ハードシェルのパンツと手袋だけを購入することにした。お値段約80,000円。今年は積雪が多いのできちんとした装備じゃないとしんどいですよ…と忠告する店員をよそ目に、必要最低限だと思う装備を購入した。予想される気温、風速、積雪量、高低差、距離に対して、似たような気温、風速、高低差、距離を歩いたときの記憶を引っ張り出す。そこに雪があることを想像する。うん、もともと悪天候やトレース(前の人が歩いて踏み固められた雪の道)がない場合は引き返す予定だし問題なかろう、と判断した。

諸々登山計画を考えるに当たって、なぜこんなに苦労してまで厳冬期の雪山に行こうとしているのだろう?とばかばかしくなってきた。なぜだ?

登山が好きな理由は、もちろん景色がキレイだとか野花が美しいといったこともあるけれど、いちばんは自分と向き合えるからだと思う。ひたすら無心で歩き続けることは、意識の深いところで自分に質問を投げかける。自分はどうしたいのか?どこに行きたいのか?どのルートを選ぶべきか?正しい方向に向かっているのか?登るペースは十分か?リスクをどう評価するか?リスクをどう回避するか?予定通り頂上に届くのか?などといった問いかけは、登山という枠組みを超えて己の生き方にまで迫ってくる。思わず、おののく。特に厳冬期の雪山は自分を意識の深いところまで運んでくれる気がする。

友人曰く、登山の良いところはどんなにキツくても必ず頂上に着くところだ、らしい。うん、全くもって同意だね。とても示唆に富むメタファーだと思ったのであった。

写真は某半島先端部にある灯台。静かだけどたくましく海を見守る姿はいつ見ても美しい。自分は海と山が好きなようだ。


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