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【インドに初めていく人必見!!】一晩中、騙され続けて詐欺にあった話『#1渡れない橋』



俺と友人は、地元の広島から中国を経由して、インドの首都ニューデリーに着いた。空港に到着したのは午後10時。その日に泊まる宿も決めてなかった。夜遅い時間に着いて、宿も決めていない。いま思い返せば、この事が最初の間違いだった。


「空港のwifiに繋いで、ブッキングドットコム(宿泊アプリ)で探せばいいか」と俺は楽観的に考えていた。預けた荷物を受け取った後、空港のロビーに向かいスマホをwifiに繋ぐ。しかし、接続できない。


ニューデリー空港のフリーwifiを利用するには、電話番号の登録や、キャリアとの契約が必要なようだ。日本でいうところの、ドコモwifiとかソフトバンクwifiのようなものだ。もちろん俺はインドの番号なんて持っていない。ネットは諦めて、中心部の宿街で直接歩き回って宿を見つけることにした。


そして空港からインドらしくない先進的な地下鉄に乗り、20〜30分ほどで中心部のニューデリー駅すぐ近くの駅に着いた。(地下鉄とニューデリー駅は繋がっていない)地下から地上に上がる。地上に出ると、近代的な空港の面持ちとは対照的な夜のインドの姿がそこにはあった。



地べたに座るたくさんの人。広場で商いをする多くの露天商。鳴り止まないクラクション。『喧騒』という言葉がふさわしい。この時間にバックパックを背負った外国人旅行者は本当に目立つようで、たくさんのインド人の目線が俺たちに向いていることがすぐにわかった。少し危険な雰囲気だ。なるべく早くこの人混みを抜け、宿に向かう方が賢明だ。


今、俺たちがニューデリー駅の北側にいるとするなら、宿街は駅の南側にある。宿街に行くためには、駅を通り抜けないといけない。そして、駅には南側に行くための鉄橋がある。駅舎の上を跨ぐように設置された大きな橋だ。俺たちはその鉄橋を渡るべく、橋の入り口となる上り階段に向かった。


早足で人混みを掻い潜り、鉄橋入り口のがばがばなセキュリティゲートを通った。そして、階段を上ろうとした矢先、警備員らしきインド人に呼び止められた。彼は少しだぼついた黒のスラックスをはいたビジネスカジュアル風の格好だった。年齢は30代なかばくらい。右胸には警備員の証らしい緑色のバッチが付いている。格好からして少しは信用がおけそうだ。




「君たち、橋を渡るのかい?」彼は笑顔で陽気な雰囲気を出しながら、俺たちに歩み寄り尋ねてきた。

「そうよ、この橋を渡って宿街に行きたいんじゃ。」

「そうなのか!インドは初めてかい?日本人かい?いつインドに着いたんだい?」矢継ぎ早に質問が飛んでくる。

「日本人よ!。そうじゃねさっき着いたばっかり。」

「そうか、実はこの橋を通るにはパラサイト・パスという許可証がいるんだ。」

「パラサイト・パス?何それ?」

「外国人用の許可証なんだよ〜。政府が発行しているパスだ。僕たちインド人は無くても通れるんだけど、外国人には必要なんだ。」

「どこで手に入るん?」

「政府のオフィスに行かないといけない。もちろんフリーだ!政府の許可証だからな。DTTDCというオフィスがこの近くにある。」

「え、なんて?ディー・ディー・しー??」

「DTTDCだよ。D・T・T・D・C!!政府のオフィスだ。そこで無料で手に入るよ。今、インドではムスリムの暴動が起きていて危険なんだ。だから僕たちは外国人を守らないといけない。そのために、政府がパラサイト・パスを発行しているんだよ。」

一見筋の通った説明をした後に、彼はメモ帳にDTTDCと書きそのページを渡してきた。

「そうなんか。知らんかった。教えてくれてありがとう!じゃあ、そのDTTDCにはどうやったら行けるん?」

「僕がトュクトュクを手配してやるからこっちについてきて!」

「オッケー!センキュー。」

彼は俺たちを駅前のタクシー乗り場まで案内してくれる。

「いいか?君たちは外国人だ。だから、もしかすると運転手が騙してくるかもしれない。本来なら20ルピーでオフィスとここを往復できる。でも、彼らは100とか、150ルピーだと言ってくるだろう。だから、僕が代わりに交渉してやるからな!」そう言って、彼は手馴れた様子でトゥクトゥクを呼び止め、俺たちの代わりに運転手と値段交渉をしてくれた。

「OK!20でいける。乗って乗って!気をつけてな!グッバイ!」

最後に彼と握手をして礼を伝えた。俺たちはトゥクトゥクに乗り、DTTDCとやらに向かう。車内で、俺と友人は、「あれが嘘だったら面白いよな」「アイツは多分、普通に良いやつそうじゃね」なんて、のんきに談笑していた。


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↑(東南アジアなどでタクシーとして使われる三輪駆動車トゥクトゥク)


数分後、運転手は小さな二階建ての建物の前でトゥクトゥクを止めた。


「ここがDTTDCだ。着いたぞ。僕はここで待ってるからオフィスに行ってこい。」

俺たちはトゥクトゥクを降りて、改めて建物を見た。二階につづく階段の入り口の上にに小さく『DTTDC』と描かれた看板がぶら下がっている。どうにもおかしい。その時、俺ははじめて不審に思った。政府のオフィスがこんな小さい事務所なはずがない。明らかに、個人の経営する事務所だ。俺は少し警戒しながら、階段を上がり事務所に入った。

事務所には大きめのデスクが置かれ、無粋な様子のインド人男性が一人、どんと腰掛けている。そしてデスクにはインド地図が敷かれている。明らかにツーリスト・オフィス(旅行案内所)だ。俺はより警戒心を強めた。

「はろー。パラサイト・パスが欲しくてここに来たんじゃけど、どうやったらいいん?」

「OK。その前にまず、お前はインドにいつまで滞在するんだ?」彼は質問を流し、少し高圧的に尋ねてくる。

「約一ヶ月じゃ。今日から4/6までインドを旅行するつもりよ。」

「どこに行く?旅行プランを教えろ。」

「まだ決めてないで」

その後も、どこに行きたい?、どこに泊まる?、移動手段は?と関係のない質問を立て続けにしてきた。明らかにおかしい。俺はパスを取りに来たのに、コイツは俺のプランばかりを気にしている。信用できない。


「ちょっと待って。俺はパラサイト・パスを取りに来たんよ!俺たちがどこに行くだのは関係ないじゃろ!俺が必要なのはパスだけなんよ。」俺は痺れを切らし、話を元に戻そうとした。

「そのためにプランを聞いておかなければならない。そもそも、お前は今日どこに泊まるんだ?予約確認書はあるのか?」

「はぁ!? まだ決めてないし。じゃけぇ宿街に行くためにパスが欲しいんじゃって言いよるだろ!」

「予約確認ができなければ、パスは渡せない。」彼は呆れた様子で、嘲るようにそう言った。

彼の主張は矛盾している。しかも、それがさぞ当たり前かのようにふるまう態度に腹が立ってきた。

「意味わからんのんじゃけど!俺は今から宿に行くためにパスが必要なのに、なんでパスを発行するために予約が必要なんや!」

「パスが欲しければ、今予約しろ。この電話を使え。」そう言って彼はデスクの上に置かれたダイヤル式の黒電話を指さす。

だが、猜疑心が高まっていた俺は、その電話を使いたくなかった。なにか細工がしてあるかもしれないからだ。

「wifiをかしてくれ。その電話は使いたくないわ。今すぐブッキングドットコムで予約するけぇ。」

「ダメだ。wifiはない。」

彼はそう言ったが、スマホのネットワーク設定には明らかにwifiの表示があった。しかし、彼は譲らない。俺は仕方なしに、電話を使うことにした。事前に調べていた日本人宿サンタナ・デリーの電話番号を入力する。

プルル…プルルルル…
ガチャ…

インド人らしき英語が聞こえてくる
「Hello?」

「ハロー。そちらはサンタナ・デリーですか?日本人に代わってください(英語)」そう伝えると、たどたどしい日本語が聞こえてきた。

「イマ、オーナーハイマセン。サンタナ・デリーハイッパイデス。キョウハムリ。」

ツー…ツー…ツー……

日本人らしい愛想が全くない、気怠そうなカタコト日本語が聞こえたかと思うと、すぐに切られた。怪しすぎる。おそらくどの電話番号でもここにしか繋がらないのだろう。

「どうだった?予約は取れたか?」見透かしたような、眼差しで彼は尋ねてくる。

「取れとらん。いっぱいだったわ。」

「そうか。俺が代わりに別の宿を予約してやる。その前にプランを組め。さぁどこにどうやっていく?」彼はしてやったりといった表情だ。おそらくここまで計算通りなんだろう。

「いやじゃ。絶対に組まん。パスだけ無料でくれ!」

「なに?無理だ。さっき電話で予約できないと言ってたんだろ?だから俺が別の宿を紹介する。そのためにプランを組め。」

こればっかりだ。イライラしてきた俺は机をドンと叩いた。

「嫌って言いよるだろ!お前がパスを渡してくれんのんだったら出て行く!」

「お前頭おかしいのか?なぜわからないんだ?プランを組め!」彼の態度はより高圧的になる。

「嫌じゃ!」

俺は隣に座る友人に、取り敢えずここを出て行こうと伝え、荷物を背負う。

「じゃあの!お前が頭おかしいで。」

最後に彼にそう言って、出口に向かう。後ろからFuck Off と聞こえた。階段を降りると、待っていた運転手に、ニューデリー駅に戻るように伝えて、トュクトュクに乗った。

車内で友人に、オフィスでのやり取りを説明した。おそらく、パラサイト・パスとやらも嘘だ。そんなもの初めから無かった。駅の警備員もさっきの事務所もグルだ。

「してやられたな…油断しすぎたわ…」

それにしてもかなり巧妙だ。信じてしまう人もいるだろう。幸い、俺たちはなんとか切り抜けれた。取り敢えずは、駅に戻ってもう一度橋を渡ろう。

しかし、これだけじゃまだ終わらなかった……

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▽次の話▽

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