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グレタ・ガーウィグ『レディ・バード』(2017)

グレタ・ガーウィグ『レディ・バード』(2017)

 以下の感想は、2018年に『レディ・バード』が日本で公開された際に、大学二年次の課題として提出されるために書かれた。当時のメモを見返すと、公開二日後──6月3日──に本作を見に行った私はの感激はどうやら二ヶ月ほど持続したらしく、7月23日の課題締切日の前夜に「本作を扱う」と決め、火事場夜間進行で一気に書き飛ばされたらしい。
 正直なところ、いま読み返すと稚拙な部分は山ほどある…というか、爪の甘さ

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クレール・ドゥニ『ジャック・リヴェット、夜警』(1990)

クレール・ドゥニ『ジャック・リヴェット、夜警』(1990)

 「第3回 映画批評月間:フランス映画の現在をめぐって」で上映された『ジャック・リヴェット、夜警』(1990)を念願叶ってやっと見た…のは、もう3ヶ月も前(!)のことになるが、今更ながら覚書を残しておくことにした。”覚書”とはいっても、正直なところ今や全然覚えていない。厳密にいえば、もはやあらかた忘れてしまっている。そもそもぼくは、俗にいう”忘れっぽい”水準より輪をかけて記憶保存が壊滅的なので、3

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ニコラス・レイ『エヴァグレイズを渡る風』(1958)

ニコラス・レイ『エヴァグレイズを渡る風』(1958)

 ※本頁は、旧ブログに2020年1月に書いた同名記事の転載(加筆ゼロ)。
クリストファー・プラマーが亡くなり、彼の主演作の中では個人的に最も思い入れのある本作の感想をサルベージしてきた…というわけ。

ぼくは現在大学4年で、いま卒業論文を急ピッチで書き進めている。一月の頭に提出せねば、卒業はない。卒論の題材はニコラス・レイ…なのだが、レイには日本未公開/未ソフト化作があり、外国語を解さない身として

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ジョナサン・デミ『クリストファー・ウォーケンのアクターズ・ラブ』(1982)

ジョナサン・デミ『クリストファー・ウォーケンのアクターズ・ラブ』(1982)

 ただひたすらに素晴らしい…惚れ惚れとするような映画を見た──ジョナサン・デミが監督したわずか53分のTV映画『クリストファー・ウォーケンのアクターズ・ラブ』(1982)がそれである。カート・ヴォネガットによるたった13頁の短編「こんどはだれに?」(早川書房刊『モンキーハウスへようこそ』所収)を原作に、「原作を大きく凌駕した」と断言できる豊かで優れた幸福な映画化を成し遂げた。

 本作『クリストフ

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デヴィッド・ロウリー『さらば愛しきアウトロー』(2018)

デヴィッド・ロウリー『さらば愛しきアウトロー』(2018)

 2010年代は間違いなくデヴィッド・ロウリーの時代である。2010年代前夜、2009年の初長編『St.Nick』で頭角を現したロウリーは、『Pioneer』などの短編で高評価を得つつ、2012年『セインツ』で早くもその名を不動のものとしたが、その後も『ピートと秘密の友達』をディズニーの下で手掛けたり、一転きわめて小規模かつ野心的な『A Ghost Story』を送り出したりと、包括しにくいキャリ

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アラン・ドワン『善良なる悪人』(1916)

アラン・ドワン『善良なる悪人』(1916)

 自らが父なし子であったためか強盗をしては未亡人や孤児に財産を分け与える義賊的カウボーイ"パッシン・スルー"は、保安官に追われる道中で立ち寄った町で父と暮らす女性エイミーと恋に落ちる。だがそんな中、強盗稼業でとうとう捕らえられてしまった彼は、母の知人であったという連邦保安官から、自らの父が殺された事件の存在を聞く…そしてその犯人は、想い人エイミーに町でしつこく言い寄っていたギャングの首領"ウルフ"

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リック・アルヴァーソン『The Comedy』(2012)

リック・アルヴァーソン『The Comedy』(2012)

 裸の中年男たちが、酒を飲み、酔っ払いながら踊り、取っ組み合う。口に含んだ酒をお互いに吐きかけ、お互いの下着を脱がし合う。そんなファーストシーンに面食らっていると、次の瞬間、主人公であるその中の一人が翌日病院に佇むシーンになっている。どうやら主人公の父親は意識不明で、近々主人公には莫大な遺産が転がり込む予定であるらしい。主人公はそれをアテにして、働くこともなく、毎日悪友と酒を飲み、ナンパし…と無為

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アレックス・ロス・ペリー『The Color Wheel』(2011)

アレックス・ロス・ペリー『The Color Wheel』(2011)

 映画の情報をチョロチョロ調べていれば、アレックス・ロス・ペリーという名前には覚えがあるはずだ。第一作『Impolex』(2009)でピンチョン『重力の虹』の非公式映画化を果敢に試みて以降、小規模な映画作りを貫いているインディーズ映画作家である。2018年現在、既に長編は5作ある。しかし作品は一本も日本語環境で観ることはできない[*1]。
 今回見たのは、長編2作目『The Color Wheel

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クシシュトフ・ザヌーシ『結晶の構造』(1969)

クシシュトフ・ザヌーシ『結晶の構造』(1969)



 人里離れた田舎町(?)、一面雪景色の中で夫婦が来訪者を待っている。「寒いわね…いま何時?」「三時だ…そろそろだろう」などと二人言っていると、車が一台やってきて、男が一人降りてくる。どうやら男は夫の旧友で、休暇で夫婦宅に滞在することになっているらしい…。

 そんな冒頭場面で幕を開ける、ポーランドの映画作家クシシュトフ・ザヌーシの長編デビュー作『結晶の構造』(1969)はとんでもない傑作である

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