見出し画像

デヴィッド・ロウリー『さらば愛しきアウトロー』(2018)

 2010年代は間違いなくデヴィッド・ロウリーの時代である。2010年代前夜、2009年の初長編『St.Nick』で頭角を現したロウリーは、『Pioneer』などの短編で高評価を得つつ、2012年『セインツ』で早くもその名を不動のものとしたが、その後も『ピートと秘密の友達』をディズニーの下で手掛けたり、一転きわめて小規模かつ野心的な『A Ghost Story』を送り出したりと、包括しにくいキャリアを順調に築いている。そんな彼の、おそらく2010年代最後の長編作品『さらば愛しきアウトロー』(この邦題…何とかならなかったものか)が今月封切られたので、見てから少し時間は立つものの、簡単に感想を書き残しておきたい。特にまとまりはない。正直かなり忘れてしまっているところも多い。思いつきを書き連ねるのみである。

 本作『さらば愛しきアウトロー』は、実在する老銀行強盗フォレスト・タッカーを材に採った映画である。しかしその実、いざ見てみると”強盗映画”という分類には収まりがよくないように見える。もちろん強盗のプロセスはちゃんと描かれる…しかも一度と言わず何度も。だが本作における”強盗”行為は、強盗映画の見せ場として…というよりは、むしろひとりの老人の生活の根幹であるひとつのルーティーンとしてのみ扱われている。
 本作ではすべてが反復する。強盗、それに伴う警察の銀行員への聴取…etc。強盗や聴取そのものの詳細が重要というよりは、それらが反復されること、そして彼らの生活がそれらの反復で構成されていることの重要。
 ロウリーは『セインツ』の時に、インタビューでこう答えていた。「あらゆる実際の”出来事”よりも、”その前”や”その後”にこそ、僕はいつも一層興味を感じる」と。そして実際『セインツ』はまさに”男女逃避行”映画のひとつの終点 ──本人の言葉を用いるならば”その後”──を描いた映画で、脈々と続く系譜の中の強盗カップルが逃避行をやめたときどういう結末に至るのか、のひとつの形が語られていた。
 ならば、本作は?強盗ルーティーンに生きる男の”その後”の話と言えるかもしれない。男は、ある女と出会い、ダイナーでの会話を経て恋を育む。逢瀬の合間に強盗稼業も続けているが、デート中のふたりの腕輪万引…を窘められたことで、稼業は終わりへと向かう。一世一代の”最後の仕事”のあと、彼は捕まる。銀行強盗のルーティーンで構成されていた彼の毎日だが、より大きなスパンで人生全体を捉えると、逮捕されること/脱獄することもまた、彼の長い人生の中で繰り返されるルーティーンのひとつである…ということが示されて面白い。反復される逃走とバックファイア、そして逮捕のちの脱獄。すべてが繰り返している人生。
 本作で最も美しい反復は、男女の間で机の上を滑り交わされるメモである。食堂から面会室へ場を移しつつ。
 ラスト、タッカーが初めて脱獄をせずに刑期を終え、ロウリー作品に頻出する”待つ女”と共に暮らし始める。しかし強盗稼業の真の”その後”のパートはきわめて短い。すぐにまた強盗に手を染めてしまうのだ。そしてそこで映画は終わる。本作では強盗ルーティーンに生きる男の、強盗”以後”と(再発)強盗”以前”の狭間に位置するごく短い期間を描くために二時間がある。
 本作はロウリーが初めて”実話”を題材に選んだ作品であり、テクニカルな語り口の洒脱さも相まって、あえて職人に振り切って、器用さを発揮した一作のように見える。そして確かにそういう一面はあるのだろう。しかし、男の帰りを待ち続ける女(と家)、家に帰りたい男、時代を超える”レガシー”としての壁の文字…といったロウリー的なモチーフ/主題は本作にもしっかりと刻印されていて、その点では”ロウリー映画”としてしっかりと過去監督作に連なっている。
 『セインツ』『A Ghost Story』ほどの並外れた冴えはないが、それでも充分傑作だと思う。銀行強盗に始まり、銀行強盗で終わるタッカーの物語は、物語以降、”女性との出会い”まで残酷なルーティーンに含めてこれからも繰り返し続けるような気がしてくる。事実とは関係なく、永劫未来。いつまでも終わらない。

 関係ないけど、『断絶』を恋人と劇場で見る…最高。買い物に行ってすぐ帰ってくるといって、強盗欲求に抗えず再発…の気が知れない。

 ※本頁は、2019年7月に書いたブログ記事「『さらば愛しきアウトロー』(2018) 覚書」の転載(加筆なし)。


ここから先は

0字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

本文は全文無料公開ですが、もし「面白いな」「他もあるなら読むよ」と思っていただけた場合は、購入orサポートから投げ銭のつもりでご支援ください。怠け者がなけなしのモチベーションを維持する助けになります。いいねやコメントも大歓迎。反応あった題材を優先して書き進めていくので参考に…何卒