「数学は暗記科目か?」時代遅れな議論に終止符を

結論から言えば、数学は暗記科目であり、そして思考する科目でもある。
こんな当たり前なことを、どうして受験業界では今もなお真顔でこんな下らない議論を繰り広げているのだろうか。

しかしながら、この問題は現代の「情報」に関する議論のテーマとして、非常に類似的なものがある。
どんな情報でもすぐに調べられるような世界にいると、何でもかんでもわざわざ記憶する必要があるのか?という疑問が浮かんできてもおかしくない。しかし、記憶する必要があるかと問われればその答えは「イエス」だ。

重要な情報を頭の中に入れておくと、時間が節約できる。試験、面接そして人との付き合いのとき、困って立ち往生している姿を晒さずに済む。しかし、「イエス」の一番の理由は、理解を深め、難しい問題を解くためには、ある程度の記憶量が欠かせない、ということだ。

つまり、成果をあげるためには、自分の頭の中から情報や手順をすばやく簡単に引き出すことが求められる。すなわち、肝心な情報に関して、長期記憶の領域に構築されるはずの強力な連鎖を用意しておかなければならない。こうした連鎖をあらかじめ用意しておくことによって、作業記憶が解放され、高いレベルの思考ができるようになる。
▶️Freeing up working memory helps you think more easily about complex topics: Sweller, et al.,2011.

たとえば、「フランス革命とロシア革命を比較対照せよ」といった試験問題に答えるとしよう。この問題では、より高度な順序思考が要求されている。つまり、求められているのは細かな事実の羅列ではない。
とはいえ、両方の革命のタイムフレームやそれぞれの国民の主要な問題や不満といった些末に思える事項も含めて、フランス革命とロシア革命両方の核心を長期記憶の中に取り込めていないとしたら、そのときは、回答をどのように系統的に組み立てればよいのだろうか?
▶️French and Russian revolution example from: Agarwal and Bain, 2019.

化学の分野では、さまざまな酸の式を記憶していれば、それらの酸にまつわる情報の分析理解が簡単になる。 物理の分野では、ベルヌーイやポアソンの方程式を記憶していることが、それらの方程式が表しているさまざまな関係を理解することに役立つ。

この記憶と理解の間には相互作用が働いている。
つまり、情報をよく理解したときには記憶するのが簡単になる一方で、記憶した情報を理解することもまた、簡単になる。
▶️Conceptual understanding, procedural fluency: Karpicke, 2012, Rittle-Johnson, et al., 2015.
▶️Hippocampal pattern-making: Schapiro, et al., 2017.

●まとめ
情報の肝心な部分を記憶することによって、考える力の負担が軽くなり、より複雑な概念を理解し、一層次元の高い問題を解けるようになる。


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