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「さいゆうきを よむときに」...我が家の伝説のプレゼント

一昨日、本のことを投稿したら、
かれこれ15年も前の
「しおり」にまつわるエピソードを思い出した。

赤いランドセルが肩に馴染んできた5月。
初の授業参観にイソイソと出向く。

白髪交じりの髪がふんわりと可愛いまり子先生が教壇に立っている。
眼鏡の奥からニッコリ子供たちを見渡して:
「今日は、みなさんのお母さんに、
しおりを作ってプレゼントしましょう。」

お母さんにプレゼントを作るんだって!
子供たちの目が輝く。
教室の後ろに居並ぶ「お母さん」を振り返る顔、顔、顔。
そこには笑顔がダダ洩れ。
「お母さん」たちもくすぐったそうに目を見かわす。
なるほど、母の日企画なのね。

まり子先生:
「この色がようしに、お母さんへの
メッセージを書きましょう。
絵も描いてもいいですよ。」

みんなイソイソと鉛筆を手に取る。
娘も何か思いついたらしく、
満面の笑みで振り返り、意味ありげに目くばせすると、
しおり大の水色の画用紙に向かって
何やら熱心に書き/描きつけ始める。
水色が、当時の娘の一番のお気に入りだった。

それにしても、描くそばから笑いが止まらない様子。
きっといいことを思いついて
それを早く誰かに話したくて仕方ないのだろう。
幼稚園の頃からいつもそうだった。
たとえば親子でボール隠しをして遊ぶとする。
私が「あれ~、どこに隠したのかな~?」と
ウロウロしていると、娘はその横をついて回り、
「あのね~、そっちの方ではなくて~」
「もうちょっとだけどっち側か知りたい?」
「教えてあげよっか?」
さして何もない日焼けした6畳の間で
ピンクのボールの影が透けたカーテンの前を
右往左往してみせるこちらも
宝の隠し場所という秘密を抱えて必死にこらえる娘も
額の前がムズムズするぐらい
くすぐったい症候群に陥ったものだった。

そんなことを思い出していると
手の早い娘はサッサと作品を仕上げ
ピョコンと立ち上がってまり子先生に見せに行く。
ニコニコがあふれ出すところを
無理にすまして口を閉じようとするから
お口がノンタンのようなVの字になっている。

次の瞬間、まり子先生の顔に特大級の笑みがはじける。
そして何やら娘に声をかけると、
しおりを手際よくラミネートで仕上げてくれる。
きっと褒めていただいたのだろう、
娘は得意げにまたしてもこちらを振り返る。
くすぐったい症候群が更に進行しているのか、
もはやノンタン口を通り越して
明らかなニヤニヤが止まらない。

件のしおりをプレゼントされたのは
授業参観、懇談会が終わり、
まり子先生とのお約束通り
一緒に帰宅した直後のこと。

そこには、得意のうさぎの絵とともに
こんなメッセージが書かれていた。

「お母さん、このしおりを、西ゆう記を よむときに つかうよ!」

そう来たか!!!

母の日近くに「お母さんへのメッセージ」とくれば、
大人は「お母さん、いつもありがとう!」に
バリエーションをつけるぐらいが関の山だが、
子供の頭は、
しおりとお母さん、という関係を見て
ゼロから「お母さんへのメッセージ」を
ひらめくことができるのだ!

「うわー!!!ほんとね!
これ、西遊記を読むのにちょうどいいね!
嬉しい!毎日使わせてもらうね。ありがとう!」

当時、娘は西遊記の読み聞かせにはまっていて、
毎晩布団に入っての楽しみにしていた。
奇想天外で愉快な冒険だから、というのはもちろんだが、
分厚い2冊組の本なので、
ワクワクが永遠に続きそうなところも
気に入っていたのかもしれない。
でもお母さんは毎晩、ちょっとしょぼしょぼした目で
本に付いた細いしおりひもを引っ張り出しては
「えーと、今日はここからね」と
どうも頼りなかった、、、のかもしれない。
そこでノンタンが、名案を考えついてくれたのである!
「お母さん、このしおりを、西ゆう記を よむときに つかうよ!」

こんなにタイミングのいいプレゼントとなれば
一刻も早く教えたくなるのが人の性だから、
娘がくすぐったい症候群にもなるわけだ!
そしてこのメッセージを見た途端、
今度は私にくすぐったい症候群が伝染して腹筋が攣り、
帰宅して話を聞き、実物を見せられた夫も
同じ症状を発症したのは言うまでもない。

そう言えば、まり子先生も、
ラミネートを終えた後、肩をぴくぴくさせながら
眼鏡の奥を拭いていたような気がしないでもない。

他人が見れば意味不明の一片の紙切れ。
でもそこには、ワクワクを共有した
かけがえのない思い出が詰まっている。
我が家ではいまだに折に触れて話題に上り、
親子3人で大笑いする伝説のプレゼントである。

本当にありがとう。。。
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そんな娘も今や大学4年生。
時の経つのはあっという間ですね。
あなたが今学んでいる化学システム工学の本たち、
この母にはもうチンプンカンプンになりました。
でも、本を読んでいるときや
くすぐったい症候群のときや
夢中になっているときに開かれる
あの、一瞬であっても永遠のような感覚へのチャンネルが
いつまでも、いつまでも、
あなたの心の中にあり続けますように!
これが、お母さんからあなたへ
今、しおりにしたためたいメッセージです。
***********
あ、また さいゆうき よむ?


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