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同族嫌悪

「今日も怒鳴られた。ムカつく。」
オフィスのトイレの個室。
ここだけが私の憩いの場。誰も入って来れないし、誰も私に干渉出来ない。
居たとしてもトイレの神様くらいだ。そもそも神様なんてこれっぽっちも信用してない。

いつも私のイヤホンからはフーファイターズが流れている。小さい時から母の影響で聞いていたニルヴァーナ。でも私はカートが嫌いだった。なぜかは今でもわからない。
母を含めみんながカートに熱狂している時、私の視界を彩ったのはドラムのデイヴ・グロール。それからというものフーファイターズは私の人生を彩り続けている。
いつも否定されてばかりの私を唯一真正面から肯定してくれる。デイヴの歌声が私を認めてくれてるみたいだ。

あぁ私はデイヴみたいになれるだろうか。
自らの才能を誰かを支えるために使う。
そんな素晴らしいことができるだろうか。
私は私が嫌いだ。荒んだ私の人生が嫌いだ。
全部嫌いだ。世の中も。上司も。社会も。
全てが狂ってる。私は除け者にされる。

────その時、気づいた

私の心には何も成し遂げることの出来ないカートが居た。
社会不適合者でしかないただのOLのカート。
更に涙が溢れた。もう昼休憩が終わる。
ハンカチじゃ拭ききれない涙を一生懸命拭って外に出る。精一杯下を向く。

外し忘れたイヤホンからは憎らしいカートの歌声。母が1番好きだった「リチウム」だ。
さっきまでの感情が嘘のように、理由も分からずに口角が上がる。まだ涙は滲んだまま。
その時の私はさながら墓地に留まる一羽の鴉のようであった。



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