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【中世欧州料理試作】(1)サンボケード

もうすぐ食欲の秋に突入するということで、過去試作してご紹介した中世ヨーロッパのアレンジ料理についてちまちまご紹介します。
全部実試作つき&単純に自分の感想や所感なども書きなぐってます。基本的に全部美味しいんですけど、一部「?!!?(なんともいえない味)」ってものもありますので、そのあたりも正直に書いときます。



中世ヨーロッパ版チーズケーキ「サンボケード」

英名「Sambocade」。リコッタチーズと純白の初夏の花・エルダーフラワーやローズウォーターなどを混ぜ合わせて焼き上げる、中世ヨーロッパ版チーズケーキといった感じの一品です。
原典となる料理指南書は、14世紀末イングランドで編纂された「Forme of Cury」。その中にレシピが記されています。現代のように分量とか書いてないので、もう!そこは!料理人の腕次第!かと(毎回泣いてます)。

SAMBOCADE . 
Take and make a Crust in a trape. & take a cruddes and wryng out þe wheyze. and drawe hem þurgh a straynour and put in þe straynour crustes. do þerto sugur the þridde part & somdel whyte of Ayrenn. & shake þerin blomes of elren . & bake it up with curose & messe it forth.

「Forme of Cury」より原著抜粋。当時の料理レシピは基本的に古英語~中英語です


現代のチーズケーキの食材でよく使われるのが「クリームチーズ(Cream cheese)」ですが、そもそもクリームチーズは牛乳とクリームを混ぜ合わせたナチュラルチーズの一種になりまして、誕生したのも約150年ぐらい前と比較的新しめです。詳しくはクリームチーズで有名なメーカーさんの解説をご覧になった方が早いので以下ペタリ(その方が分かりやすい(*ノωノ))。

一方「リコッタチーズ(Ricotta)」は、古代エジプト/メソポタミア時代から使われていたといわれる大変歴史の長い食材で、チーズ製造の際に浮き出てくるホエー(乳清)を固めたものを指し、乳製品ではありますが厳密にはチーズの種類に入らないみたいです。元々柔らかかったり、チーズ独特の香りなどがあまりないからというのも理由として挙げられます。
原料は牛乳の他羊乳、水牛乳などさまざまなミルクから作ることができるため、原材料の種類によって多少のコクや味わいが異なるのも大きな特徴です(でもってまた他サイトへ解説をお任せするコース(*ノωノ))。

リコッタチーズは市販品も出回っておりますが、元々日持ちのしないホエーで作るのが本来の作り方なので、販売食材としてのリコッタチーズは少し長く保存できるように原材料を調整しています。自分の場合は最初から作るので、出来上がったら翌日までには生地を作って焼き上げちゃってますね。それぐらい新鮮さがウリなのでございます。ちょっと作るのめんどいんですけど(=本音でた)。


純白の小さな花・エルダーフラワー

サンボケードに必要な食材はこのリコッタチーズの他に、エルダーフラワー(セイヨウ二ワトコ)の花が必要となります。近年エルダーフラワーのシロップがやたらと人気なのもあるのか、お名前を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?

エルダーフラワーの花。純白の小さな花をたくさんつけるのが特徴で、古来から「聖なる花」ともいわれてきました。薬用の他、食用、魔除けとしても使っていたそうです。開花は5月頃。

ヨーロッパでは森や町の郊外に出ればどこでも咲いているぐらい身近なものなんですが、日本ではあまりこのような姿をお見かけする機会がありません。自分だったら一目散に摘んでいるんですが、最近日本も暑いし生育自体も難しいので、大半はエルダーフラワーの花を乾燥させたものを生地に練り込んでいます。合わせてエルダーフラワーのシロップ(コーディアルとも)も少し足して、ほんのり甘味を出す感じですね。

中世アレンジのパイクラストで焼いた自家製サンボケード(14世紀末 イングランド/アレンジ)。
茶色いプチプチはドライエルダーフラワーです。生花だともう少し見た目が白っぽくなります

肝心のお味なんですが、比較的さっぱり+少し甘みのある感じです。リコッタチーズ・エルダーフラワーの他に卵白やグラニュー糖を使っています。なので、基本的に白いモノばかりなんですが、ドライエルダーフラワーを使うとどーしても茶色くなるので、そこはあまりに気にせずでいいかなと思います。焼き上げる前にローズウォーターを少し加えると、ふんわりとしたバラの香りが漂ってくることがあります。

現在も人気スイーツであるチーズケーキですが、500年以上前にはその原型ができていたことを考えると、料理人の知恵はすごいなーと改めて感心します。とはいえ、中世当時はジャンルとしてのスイーツはないに等しかったので、これもれっきとした料理だったのかもしれないですね。


歴史あるチーズケーキをご賞味頂けるブックカフェ

そんなサンボケードですが、愛知県高浜市にありますめっちゃステキー♪なブックカフェにて常設メニューとしてご提供されております。オーナーの手作りですが、こちらは少し現代向けのアレンジでして、クリームチーズとエルダーフラワーのシロップ(だと思う)を使った仕様となっております。まー、美味しいんですよコレが(めっちゃ楽しみでド平日の午前中に突撃した初回訪問の記憶)。

中世ルネサンスブックカフェ「テューア」さんのお手製サンボケード。
見た目はベイクドチーズケーキですがこれも立派なサンボケード。
そして美味(涎)。

たぶん、自分が知りうる上ではこちらしかノーマルメニューとしてお出ししてないと思います(他に出されているとこあればぜひご教示を!)。他にもステキー♪な歴史や世界の郷土にまつわるスイーツなどをご用意されておりますので、もしお近くにいらした際はぜひ立ち寄ってみてください。今年の春にオープンしたばかりのブックカフェ然り、中世ルネサンス系のご本もたくさんありますヨ。
嗚呼、どうしておうちの近くにないのかちら…(たぶん入りびたっておやつエンドレスで食べてる確定(*‘ω‘ *))。


サンボケードの作り方は拙著商業本『中世ヨーロッパのレシピ(新紀元社)』に収録されておりますので、もしご興味ありましたらパラパラご覧頂ければと思います。

作り手のアレンジは十人十色ですので、見た目や味が少し異なるのも、全然アリかなー、と。その料理に少しでも歴史の欠片を感じて頂ければ、個人的にこれ幸甚でございます。


最後までお読み頂き、ありがとうございました(^-^)//。

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