音楽に心動かされた新年のはじまり
皆さんは自宅でなにか作業をする際に、BGMをかけますか? 私はかけることが多いです。音楽は、作業の内容やその時の気分によって選びますが、昨年末私の中での流行りは、ショパンの音楽でした。はい、10月に行われたショパンコンクールの影響です。ショパンの美しいピアノの旋律を、音楽ホールでライブで聴くことはもちろん素晴らしいですが、パソコンに向かって座っているときにBGMとしてかけても、心が落ち着き集中できるのです。
すでに何度か同じ曲を聞いているはずなのですが、タイトルを言える曲は数えるほどしかありません。ショパンは39年という短い人生の中で、200曲以上もの作品を残しています。ノクターン、エチュード、スケルツォ、マズルカなどそれぞれの楽曲の中にも数々の作品があり、一つ一つの作品番号や音階まで言えるようになるまでには、かなり聴きこなす必要があると思われます。
このように、はじめから正式名称を覚えようという努力を怠っていた私ですが、心の中に響いてきた曲がありました。クリスマスから年末にかけて、偶然に何度か続けて耳にし、流れるような美しい旋律が頭から離れなくなったのです。
その曲のタイトルは、
ショパンの『エチュード op.10 no.1』
日本語で言うと、『練習曲 作品10 第1番ハ長調』
昨年のショパンコンクールで、2位に入賞した反田さんも弾いていました。
エチュードは練習曲なのですが、もはや練習用の曲などではなく、完成された素晴らしい楽曲です。例えば、『別れの曲』や『革命』などもエチュードなのです。私のお気に入りのop10 no.1は、英語では「Waterfall」という名前がついているようですが、日本語ではこの曲のことを「滝」とは呼ばないようです。最初から最後まで、右手で奏でる流れるような旋律は、まさに穏やかな滝のようなのです。
この曲を自分の手でも弾いてみたくなり、インターネットでフリーの楽譜を検索して印刷しました。すると、そんな浮かれた私の姿を見ていた夫が、スマホで調べた結果を見て言いました。
「その曲、かなり難易度高いみたいだよ」
それはそうでしょう。ハ長調でシャープやフラットも無し、2分という短い曲であり、弾けるかもしれないなどと勝手に思ってしまった私が大間違い。左右に大きく流れるようなスピードで動く16分音符の連続技、たやすく習得できるはずはありません。私は無駄な印刷をしてしまったのでしょうか。
こうして2021年が過ぎて行き、2022年を迎えました。まずは日本の家族とオンライン通話。そして、イギリス時間の朝10時を過ぎると、テレビをつけます。1月1日には、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団によるニューイヤーコンサートを見ることが、我が家ではもう何年も定番になっているのです。
ウィーンに住んでいる頃は、仕事でニューイヤーコンサートのチケットや、このコンサートを見にウィーンにいらっしゃるお客様の旅行手配を扱っていました。お客様が楽しみにしているコンサート、自分でもこのコンサートをテレビで見ずにはいられなくなってきたのです。
ニューイヤーコンサートは、毎年1月1日、現地時間11時15分から楽友協会 黄金の間で行われます。世界90カ国以上に生配信され、日本でもNHKで放送されます。曲目はほとんどがヨハン・シュトラウス父子の曲。ウィーン・フィルが奏でる軽快なワルツやポルカが新年の気持ちを盛り上げてくれるのです。このコンサートは、指揮者が誰なのかということもとても重要です。今年はダニエル・バーレンボイムさんでした。小澤征爾さんが指揮をしたこともあります。
このニューイヤーコンサート、チケットの入手は容易ではなく、なにより驚くほど高額です。なので、もっばらテレビで見ることが当たり前となっています。それに、テレビで見なければ楽しめないこともあるのです。コンサートは第一部と第二部に分かれており、その間に休憩があります。その休憩の間に、テレビではオーストリアの宮殿や景勝地などの映像が流れます。今年はオーストリアの世界遺産の映像が流れました。ウィーンのシェーンブルン宮殿、ドナウ川沿いのバッハウ渓谷、湖水地方のザルツカンマーグート、そしてザルツブルなどの美しい景色を見ながら、やっぱりオーストリアという国は素晴らしいところだったなあと改めて感じました。
第二部は、大好きな曲であるオペレッタ『こうもりDie Fledermaus』の序曲から始まりました。一緒にメロディを口ずさみながら体を揺らし、すっかりご機嫌です。
そしていよいよコンサートも終わりが近づき、残すは定番の2曲。
『青き美しきドナウ』
ちょうど2014年にバーレンボイムが指揮をしたニューイヤーコンサートの動画がありました。
この曲の始まりには、指揮者が新年の挨拶をすることが恒例で、今年も例に漏れず、バーレンボイムと楽団のみなさんからの、「Prosit Neujahr 明けましておめでとう」の声が響き渡りました。
そしてその後、バーレンボイムがスピーチをしました。この苦境で仲間が一つに集まることが難しい状況の中、私たちはこうしてみんなで一つになって素晴らしい音楽を作り上げることができました、世界中の人たちにこの素晴らしい音楽をお届けしたいと。彼の言葉は心にしみました。2021年、ムーティが指揮するニュイヤーコンサートは、無観客で行われました。そして、今年は人数を限り、ワクチン接種証明と陰性証明、そしてFFP2マスクの着用を条件に観客を迎えることができたのです。この音楽とスピーチを聞いて、元気付けられた人たちが世界中に溢れていたのではないでしょうか。
コンサートの最後は、『ラデッキー行進曲』。
この曲では、会場中の観客みんなが楽団と一緒になって、手拍子をしながら曲を奏でるのです。私ももちろんテレビの画面越しに手拍子を合わせました。
1月2日、ふと思い出して1冊の本を手に取りました。数年前に夫からクリスマスプレゼントでもらった本。『YEAR of WONDER-classical music for every day』
365日毎日1ページに1曲、クラッシックの曲が紹介されているのです。この本を手にした当初、毎日その日の曲を聞いて、英語の説明を読もう、と意気込んでいましたが、あっという間に時間に追われ、本は開かれなくなりました。けれど、今ならきっとまた始められる、そう思い立ち、まずは前日の1月1日のページを開きました。曲は、バッハのミサ曲でした。ネットで検索し、再生しながら説明を読みました。
そして、1月2日のページをめくりました。そこに書かれていた曲は、あの、ショパンの『エチュードop10 no.1』だったのです。世の中に溢れる数多のクラッシック音楽の中から365曲が選ばれたこの本、そして最近とても気に入ってハマっていた曲が、ちょうど本を手にした1月2日に取り上げられているなんて、なんという偶然でしょうか。
本には、練習曲以上に完成されたこの曲は、ショパンが尊敬するバッハやモーツアルトへの敬意が表されている、そして、1月2日という日に新年の新たな夢や希望を思い起こすことに相応しい曲と書かれていました。
かなりハードルが高い挑戦ですが、やっぱりこの曲を弾いてみよう、そんな気持ちがわきおこってきました。
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遅くなりましたが、皆さま、明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
そして、今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。
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