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一度は訪れたい場所が見つかる、カフェライブラリー

皆さんは旅行をしようと思ったときに、行き先をどうやって決めますか?
行ってみたい場所ができるきっかけは様々ですよね。雑誌やインスタグラムで見かけた印象的な写真、テレビや映画に出てきた美しい町、友人から聞いた素晴らしい旅話。

リラックスした雰囲気のカフェで、その時の自分だからこそ刺さる風景とお話に出会ったらどうでしょう? 一度はそこを訪れたい、そんな気持ちが沸き起こってくるのではないでしょうか?

例えば、この物語に登場するようなカフェで。

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 紫の小さなお花がぎっしり詰まった小さなカンパニュラのポットが3つ、ピンク色の花びらの回りにふくよかな蕾が集まったペチュニアのポットが4つ、白く小さな花弁が太陽のように広がるマーガレットのポットが5つカフェの入り口に並べられている。お花のポットの横には、アンティーク風のバスケットやかごが置かれている。

「あら、こんなところにお花屋さんがあったかしら?」

 そう言って立ち止まった女性の左側には、10歳の女の子、桃音ももねが立っていた。いつもの散歩コースに物足りなさを感じた二人は、新しいものを求めて別の道を歩いてきたのだった。

「ママ、あそこにかわいい写真があるよ。入ってみようよ」

 店内を指さす桃音ももねに促されて、二人は中に入った。中にはベランダに置くような、木造りの小さな丸テーブルと椅子のセットが4つ配置されていた。

「あら、ここはカフェだったのね」

 戸惑っている女性をよそに、桃音は真っ先に壁の近くにある立て看板へ駆け寄った。そこには、まるで木の一部であるかのような造りの、芝生で覆われた屋根の家が映ったポスターが飾られていた。

「こんにちは。どうぞお好きなところへおかけください」

 奥から40代後半くらいの女性が現れた。お腹にある大きなポケットから顔を出しているようなネコが描かれた、モスグリーンのエプロンをかけている。

「あ、はい。あ、いえその、カフェだと思わずに入り口に可愛いお花があったので、てっきりお花屋さんかと思って入ってしまっただけなので」

 家に帰ってからやらなければいけない仕事がまだ残っている。カフェでゆっくり時間を過ごすつもりなどなかった女性は、言い訳をするように慌てて答えたが、その言葉を遮るように桃音が言った。

「ママ、見て。この写真、すっごく可愛いよ」

「ここは、カフェでもあり、ライブラリーでもあるのですよ。こちらには主に旅行雑誌や旅のエッセイ本、旅先が舞台になった小説など色々な本がありますので、どうぞご自由にご覧になってくださいね」

 エプロンをかけた女性は笑顔で答えると、桃音の方へ近づいた。 

「このおうちが気に入ったかしら」

 桃音は普段は人見知りをする方だが、この女性に話しかけられても驚かず、嬉しそうに答えた。

「うん。これおうちなの?」
「そうよ」

 そう言うと、女性は本棚から1冊の本を取り出した。表紙にはポスターと同じ家のイラストがあり、『星おばさんと桃音ももね』というタイトルが書かれていた。

「えっ、桃音? 私と同じ名前だ」
「あら、それはまた嬉しい偶然ね」

 いつの間にか桃音はテーブルから椅子を引き出して座っており、女性がめくる本を夢中で見ていた。桃音の母親もまた、本に引き寄せられるように桃音の前に腰をかけた。エプロンをかけた女性は、隣のテーブルから椅子を移動させ、二人と同じテーブルについた。

「このお話はね、桃音ちゃんっていう10歳の女の子が主人公なの。この表紙のおうちに住む”るり”っていう名前の40代の女性とお友達になって、このお家に遊びに行くようになるのよ」

「桃音も今10歳だよ!」
「あら、それはまた驚きね」

 女性は少しわざとらしく驚いてみせると、話し続けた。

「この家では不思議なことが起こるのよ。桃音ちゃんが、るりが焼いたクッキーを食べていると、『私にもちょうだい』って、言いながら誰が現れたと思う?」
「えっと、近所に住む男の子?」
「ブー。人間じゃないの。2階から細い螺旋階段を伝って、ウサギのぬいぐるみが降りてくるの」
「え、ぬいぐるみが動いたり話したりするの?」
「そうなのよ。それだけじゃないの。桃音ちゃんは、このるりさんのお庭づくりのお手伝いもするの。そして、桃音ちゃんが植えたお花が綺麗に咲くと、お花たちは嬉しそうに歌い出すの」

 女性が話す物語に、今はすっかり桃音のお母さんまでも魅了されていた。女性は本を桃音とお母さんの方へ向けて、立ち上がった。

「何かお飲み物をお出ししましょうか?」
「あ、じゃあいただきます。えっと、こちらがメニューですね。私はカフェオレを。そして桃音には、オレンジジュースをお願いします」
「はい、かしこまりました」

 桃音とお母さんは二人で楽しそうに本をめくり、物語の世界へ入っていった。飲み物と一緒に添えられたクッキーを、美味しそうに頬張りながら。

「新しい世界に出会えて、すっかりリフレッシュしました。桃音もあの物語をとても楽しんでいましたし。ご紹介いただきありがとうございました」

 支払いをしながら言うと、桃音の母親の目に先ほどのポスターの家が映った。

「この家、実際に存在しているのですか?」
「ええ、あるんですよ。実はこのカフェの近くにね」
「桃音行ってみたい!」
「それじゃあ、今度ご案内しましょうね。是非またお立ち寄りください」

 カフェの女性は名刺を差し出した。そこには、

『ステキな旅をお探しですか? ー カフェライブラリー るり』

と書かれていた。

「まあ、ここはステキな旅探しのお手伝いをしてくれるカフェなのですね」
「はい。それと、お花と雑貨も好きなので、それらも一緒に扱っています」

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まだウィーンに住んでいた頃、たまたま新聞の記事でこのステキな家の写真を見つけました。

新聞記事に掲載されていた写真の季節は秋でした。

森の中で、自然に溶け込んでいるような家。一目惚れをし、切り抜いた記事は今でも持っています。調べてみると、その家はイギリスの西ウェールズにありました。

そこは、エコビレッジと呼ばれており、自然の素材を使って家をセルフビルドし、自給自足をモットーに暮らしています。見学もできるようです。

https://lammas.org.uk/en/welcome-to-lammas/

私はすっかりその写真に魅了されてしまい、イギリスからその小冊子を取り寄せ勉強しました。

そして、この家を舞台に、児童向けの小説を書いて懸賞に応募しました。タイトルは、『星おばさんと桃音』。結果は落選。それ以来、このストーリーはもう何年も埋もれていました。

けれど、あの写真を見た時に感じたワクワクする気持ちは、今でも蘇ります。私の中で、一度は行きたい場所なのです。


その時、ピッタリと刺さるような旅行先が見つかるストーリーが集まるカフェ。ちょっと不思議な力を持っている女性が、旅先の紹介をしてくれて、相談にも乗ってくれる、そんなところがあったらステキだと思いませんか? 皆さんにも、一度は行きたい場所が見つかるかもしれませんよね。

この「カフェライブラリー るり」を訪れて、一度は行きたい場所を見つける人が、この後もまた現れるかもしれません!


本日も長文記事にご訪問いただきありがとうございました。
ストーリーの中に登場する写真は、文中記載のウェブサイトよりお借りしました。




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