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【レポート】日本唯一のアピチャッポン研究家・中村紀彦さんによるオンラインレクチャーを開催!

ただいまシアター・イメージフォーラムで開催中の「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2022」(全国順次公開)。アピチャッポン・ウィーラセタクン監督のタイ時代の傑作を上映する特集上映です。その公開を記念して、先日4/3(日)に「日本唯一のアピチャッポン研究家・中村紀彦さんによるオンラインレクチャー」を開催。200名もの方が参加申し込みをしてくださいました。簡単ではありますが、当日の様子をレポートでお届けします。

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映像・映画理論研究者の中村紀彦さん。アピチャッポン監督作品を研究するようになったのは、監督の長編デビュー作『真昼の不思議な物体』(2000)を観たのがきっかけ。この映画は山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞を受賞するなど「ドキュメンタリー(括弧つきドキュメンタリー)」とされているのですが、この作品によって「ドキュメンタリー」の概念がひっくり返され、研究しようと決めたそうです。

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「森、ジャングル、光、記憶、瞑想、クィア、精霊、仏教……などなど、アピチャッポンについて語る際のキーワードはとにかく多い。だからこそアピチャッポンを語る人が沢山いるのだと思う」と中村さん。その中でも今回は「儀礼」や「記憶喪失」などの切り口に絞ってお話してくれました。


■『国歌(The Anthem)』や『光りの墓』は“儀礼”へのアンチテーゼ

「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2022」で上映されている『アピチャッポン本人が選ぶ短編集』の中にある短編作品『国歌(The Anthem)』(2006)。上映される際は、必ず一番最初に上映します。その理由は、タイでは、映画館で本編上映前に必ず国王の映像&国王賛歌が流れ、その間観客は直立不動でいなければいけないという習慣があるため。しかしアピチャッポン監督の『国歌』は直立不動とは程遠い作品。「せめて自分の映画が上映される前には自由でいてもらいたい」という思いが込められたという解説がありました。

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タイの映画館の“儀礼”の風景は『光りの墓』(2015)の中で描かれていて「映画館だけでなく、タイにはそういった国王や王族といったものを国民に意識させる“儀礼”がいくつもあって、アピチャッポンはそれらに映画の中で抵抗している」と中村さん。「この“儀礼”そのものが、国内で今起こっている厳しい状況を一旦忘却させるような機能をもっている。そういった、日常にごろっと横たわっている“違和感”に気づかなければいけない、と監督は言いたいんじゃないでしょうか」とのことでした。

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■アピチャッポンと“記憶喪失”

アピチャッポンを語るとき、よく出てくるのが「記憶」というキーワードですが、中村さんは、今は「記憶」ではなく「記憶喪失」と結び付けて考えているといいます。

ブンミおじさんの森』(2010)のモデルになった“前世を覚えている男”をアピチャッポンがリサーチをした際のエピソードを紹介。「私たちは実は誰もが前世の記憶を持っている。でも自分が今を過ごしやすくするために“儀礼”や“習慣”を受け入れた結果、前世の記憶を敢えて“喪失”してしまっているのではないのではないか?という疑問が、彼自身が“記憶”と対峙するうえで根底にある部分だと思う」と説明。

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世紀の光』(2006)は前後半の2パート構成で、前半と後半で同じ物語を“語り直す”のは、「映画そのものが“記憶喪失”という身振りをしている。アピチャッポンの映画は、「記憶」ということよりも、その「記憶」が抑圧されてきた時間の厚み、つまり「記憶喪失」の時間を浮かび上がらせようとしている」というお話でした。

その他、新作『MEMORIA メモリア』の話のほか、参加者からの質問にもたくさん答えてくださいました。中村さん、ありがとうございました!

★このオンラインレクチャーのアーカイブは、当日の参加者のほか、ムヴィオラ・メンバーズ会員にも特別に公開することになりました(公開は4/22(金)23:59まで)。ムヴィオラ・メンバーズにご登録のうえ、ぜひアーカイブ本編をお楽しみください。

「ムヴィオラ・メンバーズ」会員登録(無料)はこちら→ https://forms.gle/MwxndzgbTN8ffawH9


★「アピチャッポン・イン・ザ・ウッズ2022」は4/22(金)までシアター・イメージフォーラムにて開催中(全国順次開催。各劇場の上映日程はこちら→https://note.com/moviola/n/nfb82a5a618ba)。

アピチャッポン監督のタイ時代の作品をスクリーンで味わえる貴重な機会。ぜひご来場ください!


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