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【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』⑬公開前日。明日は春節。人事を尽くして…「天地」に祈る!

明日は2月11日。映画『春江水暖〜しゅんこうすいだん』がBunkamuraル・シネマでついに封切りとなるのである!この映画は『鬼滅の刃』のような「全国一斉400館公開!」というメジャー作品とは違うので、まず東京が開き、そこから全国へと広がって50館位を巡回するような公開形式。なので東京のヘッド館が初日を迎えても仕事はまだまだ続くのだが、東京の初日が一つの大きな区切りになる。

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*金曜日の新聞に出す広告です

そんなわけで今日は初日前日。以前は初日が近づくと心臓バクバクだったが、最近は「やることはやった」という心境にだいぶ近づいてきた。(もっとも年のせいで忘れっぽくなったので、そういう意味でやり忘れがないかアワアワしていることも多いですが)。でもとにかくやれる事はやったので、残る大事なことといえば「神頼み」だ!我が家には神棚があり仏壇があるせいか、毎日神棚と仏壇に手を合わせるのが習いになっている私は「神頼み」常連なのである。

さて『春江水暖』のグー・シャオガン監督と話していて面白かったのが「中国では神という言葉は使わないのですが、神の意志的なことを“天地”というんです」と言ったことだった。

えっ、中国では「神」って言わないの? 彼はさらに続けて「山水画、水墨画は元々天地の全てや宇宙観を表そうとしているもので、そこにいろいろな視点を加えて二次元の絵にしています。見えざる天地によって人々は導かれているということが潜在的に、市井の人々には根付いています。天地っていうのは科学的に証明されたものではないですが、人々をいい方向に導いているという意味で存在していると信じられています」と言った。

『春江水暖』はシャオガン監督が山水絵巻を映画にしたかったと言うところから映画表現が生まれているので、聞けば「なるほど」と思う。それでもまだ、中国では「神」って言わないの?と言う疑問が頭から消えない。おぼろげな記憶だが、フィギュアスケートの羽生結弦選手の演技に「神」と書いている中国の新聞を見たような記憶があったからだ。

グーシー

*美しいグーシーちゃんの横顔で「神頼み」

モヤモヤしたので後日、上海出身の中国人通訳の方に聞いてみた。するとこんな答えが返ってきた。「儒教が生活に根付いている中国では、古代から人知を超えた存在や概念のことを“天”と呼んでいました。“神”という単語も漢字もあるのですが、圧倒的に“天”が重要な単語として扱われます。“神”という単語にはどこか西洋やキリスト教的なニュアンスが含まれてしまうので、中国文化を語る上ではあまり使われないように感じます。ただ、今では欧米や日本のカルチャーの影響で“女神”とか“神作品”のように使われることが多くなってきて、外来語やスラングのような感覚で定着している印象があります」。

今度こそ「な〜るほど」と思った。そうだったのか。同じ漢字を使っていても、背景にある文化や歴史の違いで受け止め方は違ってくるものだ。ちなみに監督はなぜ「天」だけではなく「天地」と言ったのだろう?答えはとてもシンプルで「“天”だけよりも“天地”という言葉の方が、僕の心の中で“神”のことを指しているんですよ」とのこと。なるほどそれが山水画の宇宙観に結びつくようだ。

富春山居図

*監督の発想の源「富春山居図」

明日は2月11日。中国は明日から春節、中国のお正月だ。シャオガン監督は「春節に僕の映画が日本で始まるなんてスゴイです!それを知っていて決めたんですか?」と目を丸くしていた。いやいや私が初日を決められうわけじゃないから偶然ですよ、と答えたけれど、なんだか私も天地の導きだという気分になってきた。よし、明日のためにこれから「天地頼み」!

Bunkamuraル・シネマは明日から 連日10:20/13:25/16:30 で上映

オンライン予約もできます!
https://www.bunkamura.co.jp/cinema/

みなさん、ぜひ映画館で『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の天地をご覧ください。

2021年2月10日 ムヴィオラ 武井みゆき

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