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春節記念! 『春江水暖〜しゅんこうすいだん』グー・シャオガン監督次回作『草木人間』製作発表全文

今年1月10日(旧暦12月8日)に『春江水暖〜しゅんこうすいだん』グー・シャオガン監督の新作「山水図・第二巻・草木人間」の製作発表がありました。春節を記念して、スタッフが頑張って翻訳しましたので、グー監督からのメッセージと共に製作発表全文をご紹介します。

なお、同時に発表されたコンセプトポスター(中国ではこういうのを作るんですね)を手掛けたのは中国で最も有名な映画ポスターのデザイナー黄海さん。中国版『千と千尋と神隠し』のポスターが日本でも話題になった方です。黄海さんが関わっていることからも、グー監督の2作目がいかに期待されているかがわかります。
撮影は今春から、2023年の完成を目指しています。

草木人間ポスター-

↑『草木人間』コンセプトポスター

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(グー監督から日本の皆さんへのメッセージ)
こんにちは。今日は釈迦が悟りを開いた日。皆さんのお智慧が海のように広からんこと、そしてお身体が健やかであることを祈っています。

中国では、今日は伝統行事の臘八節。この日には臘八粥を食べる風習があります。この節句を借りて、私たちは映画の製作を公式発表することにしました。新しい映画の名前は『草木人間』。お茶と関係のある物語です。一つ目のコンセプト・ポスターを発表し、新作の構想や題名への思いについて語りました。皆さんに共有します。

皆さんの2022年が新たな気運に満ちたものとなりますように!
                   2022年1月10日(旧暦12月8日)

*中国語の「人間」は人の世、この世の中、というような意味。
*旧暦12/8は中国では臘八節と呼ばれる節句。中国仏教では、釈迦が苦行を中断して粥を食べ、元気が回復したところで悟りを開いたのがこの日と言われており、臘八粥という雑穀粥を食べる風習があります。
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『草木人間』製作発表(全文翻訳)

皆さん、お久しぶりです。今日は中国の伝統的節句・臘八節 。釈迦が悟りを開いた日でもあります。まずは皆さんが喜び多く、平穏無事でありますように。どうぞ一杯の旨い粥を食べて胃を整え、この冬の日に精神に力を蓄えて、新しい春を迎えてください。
春江水暖〜しゅんこうすいだん』を撮り終えた後、私はずっと二作目の映画に向けて力を蓄えていました。それだけのために、今日までずっと。今、とうとうこの新しい作品の進捗を、注目してくれている皆さんに共有することができます。
新しい映画の名前は『草木人間』 。シリーズとしての完全な名前もあります。

山水図・第二巻・草木人間

人は草木の間に在り
 『春江水暖〜しゅんこうすいだん』を観た観客は、最後に「巻一完」とあるのを見て、しばしば私に第二巻は『春江水暖〜しゅんこうすいだん』の第二部になるかと尋ねます。しかし実際には第二巻は完全に新しい物語で、完全に新しい地理空間が舞台です。巻一の中で伏線を張っていたように——「春江は銭塘を経て東海に入る」。巻二の空間設定は銭塘杭州 。西湖、茶山、運河をめぐる物語です。
 そう、これは茶に関係した映画です。人が草と木の間にあるのが「茶」の字。この映画の題名の由来でもあります。茶といえば、「アヘン戦争」は歴史的に「茶葉戦争」とも呼ばれています。アヘンと茶という2種類の草木は一国の運命を変えました。茶は中国人の生活において、「柴米油塩醤酢茶」 の一つでもありますし、「琴棋書画詩酒茶」 の一つでもあります。「茶」が市井のものでありながら、同時に文人のものでもあることが分かるでしょう。また「茶禅一味」というように、茶は禅宗の文化と思想を伝えるものでもあります。
 巻二の物語の中で、主要な登場人物は一組の母子です。息子は「目蓮」、母は「苔花」。彼らの名前はどちらも草木の属性も持っています。
 息子の名前のインスピレーションは、『目蓮救母』と呼ばれる中国の伝統的な民間故事 から来ています。言い伝えによると目蓮は釈迦の十大弟子ですが、その母親は生前悪事を働いたため、死後地獄に入りました。目蓮はそれを知ると、地獄に行って母親を救い出そうとします。努力を経て、ようやく母親は人間界に戻ってきましたが、そのとき彼女は犬になっていました。目蓮は再び数世にわたって感化に努め、とうとう母親を人として人間界に戻らせることができました。
 だから今回の我々の映画は、物語の類型的には家族の情愛というベースの上に犯罪要素を加えたもの。現代社会のリアリズム的題材によって、母と子の古典的伝説を翻案する試みです。

母親の名前はといえば、昔の詩から取られています。銭塘の詩人・袁枚 の「苔」。中に次のような二句があります。

「苔花は米の如く小さきも、また牡丹を学びて開く」

 私が思うに、草木はたいてい人に喩えるのに適しています。長いこと、自分のことを荒野原に生える野草としてイメージしていました。いつも考えていたのは、人間はいかに脆いものかということ。身体の病気、他人の裏切り、仕事の挫折、愛する人との別れ、願いが叶わないこと、無常の天災。心が沈むことは避けられません。でもこんなに脆い人生が、こんな弱々しい草木が、どういうわけか毎回の灰燼の中からいつも新たな生気を放つ。毎回生まれ変わって、太陽に向かい、辛抱強く生長しつづけるのです。
 草木は自分で生まれ育つ土地を選ぶことができません。人も自分の出自を決めることはできません。生命の種がどのようにしてか生み落とされたそのときから、私たちが決められるのは光の方向を必死に探ることだけ。とどまることなく伸びていくことだけです。もし運悪く苔に生まれて、日の光が届かない場所にあるとしても、私たちは花開く勇気を失くしたくない。そう願います。
 だから、草木を人に喩えて、『草木人間』という名前をつけました。生命に希望を託す意味もあるし、中国文化を探索したいという意図もあります。

山水映画
 今回私たちの映画では幸運なことに、たくさんの業界トップレベルの創作者に一緒に映画を作り上げてもらえることになりました。例えば、共同脚本の郭爽(代表作『月球』『正午時踏進光焰』 )が加わります。彼女は才能あふれる若手小説家です。そして栄えある茅盾文学賞 を受賞した王旭烽先生が私たちの文学顧問(代表作『茶人三部曲』)。皆さんご関心の俳優陣と撮影・制作スタッフについては、少しだけもったいぶらせてください。しかるべきときが来たら、真っ先に皆さんにお伝えします。
 ともかく、こんなに優秀なスタッフやプロのパフォーマンス・アーティストと初めて一緒に仕事をすることができて、私はプレッシャーを感じています。このエネルギーをちゃんと使うことができるか分かりません。でも一方では、映画界の皆さんの信頼に感謝しています。皆さんと一緒に山水映画の新たな可能性を見てみたいという、抑えきれない野心がありますが、最終的には前作から進歩するということが私の心の中の一番の願いです。
 「山水」といえば、私たちは遺伝子的に「菊を採る東籬の下、悠然として南山を見る」 の桃源郷生活をすぐに思い浮かべます。山頂に立てば、身体は広大な天地に向かって大声で叫びたいのを抑えられません。深遠な学問なんていらない、精神はいつも簡単に、自然と現実を超え出ていき、思いのままに人生への感慨を発します。私たちにとって「山水」とは、中華の文明と情感、気風が沈澱した哲学の媒体であり、宇宙観なのです。
 「山水図」のシリーズを作るのは、第一に世界の映画の中で自分の映画美学を見つけだしたいという思いからです。技法的には、このシリーズの中核となる考え方は「絵画を映画に導入する」こと。しかし決してそれを一本の映画の特徴として考えているわけではなく、あくまで一幅の「長巻絵画」の特質を用いて映画を表現したい、ということです。『春江水暖〜しゅんこうすいだん』ではいくつかのモンタージュ技法や映像言語を模索しました。その原理は必ずしも映画という技法自体に由来するものではなく、中国の伝統絵画の時空観念から来たものです。第二に、映画という道を通して中国の伝統文化に深く入りこんでいきたい。巻一で、私たちは『富春山居図』に取り組みました。巻二では、「茶」に力を注ぎます。しかし映画の主流は通俗文化にありますから、やはり物語自体をしっかり作らなければいけない。通俗と文化の間にどうやって均衡を保つか、これが今回私たちにとって最も難しい挑戦です。観客に背を向けるのか、観客に向き合うのかという創作上の方向において、私たちはやはり観客に向き合う方を選びます。

初暁、夜を照らして白し
 2010年、大学二年生のとき、私は映画に興味を持ちはじめました。そのとき映画という芸術が私の心を動かした最大の原因は、映画がこの世界をたった少しでも良くする助けになると思ったからです。たとえたった少しであるとしても。だから私は映画の世界に身を投じました。その後職業監督として研鑽を積む中で、私は自分に、将来チームと一緒にどんな映画を撮りたいだろう、と問いかけました。ちょっと考えて、私たちが撮りたいのはある種の温度感がある映画だ、と思いました。その温度感が、明け方の日の光のように暗い夜を霧消させ、温もりをもたらし、天地を目覚めさせるのだと。


ポスター
 最後に皆さんに、私たちの映画の最初のコンセプト・ポスターをお見せします。黄海先生がデザインし、許静先生が書を書いてくれました。両先生はこのポスターのためにたくさん考えてくれました。皆さんにも気に入ってもらえるといいなと思います。


春江、水暖かなる時、草木人間の処。
暖かくなり、花が咲くのを静かに待ちましょう。皆さんの日々が素晴らしい、平穏なものでありますように!

インタビュー_IMG_1629

顧暁剛 2022年1月10日

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【配給会社ムヴィオラの映画1本語り】『春江水暖〜しゅんこうすいだん』①停電とロウソクと扇子

『春江水暖~しゅんこうすいだん』公式サイト

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