目に見えない、ナポリタンの旨さ「still dark」感想解説
公 開:2022年
監 督:高橋雄佑
上映時間:40分
ジャンル:ドラマ
見どころ:調理シーン
映画「still dark」は、高橋雄祐監督・主演による、たった40分の作品でありながら、盲目の青年であるユウキが食べたナポリタンがあまりにおいしかったため、そこで料理人として働こうとする、という物語となっています。
何らかの障害がある人を主人公にする場合によくあるパターンとして、障害を持ちながらも心優しい主人公が、周りを変えていく、というような構成が思いつくかもしれません。
知的なハンデもので言えば「アイ・アム・サム」のように、自分の子供に知能がぬかれていってしまう切なさをヒューマンドラマとして描いたり、サヴァン症候群の兄と暮らしてみたりと、やや美化してしまう傾向にあります。
また、それを逆手にとって「メリーに首ったけ」でお馴染みの監督ファレリー兄弟なんかは、あえて、性格の悪い人たちとして障害を持つ人をだしてみたりと、変に特別扱いしない、ということを押し出していたりします。
映画「still dark」では、ユウキという主人公が、目の見えない中にありながら普通に生活している姿を描きます。
「特別扱いしないし、ダメなやつは辞めてもらうぞ」
と、店長も釘をさします。
本作はあくまで、主人公に対してみんながフラットに対応するところがポイントです。
店の同僚であるケンタもまた、裏表のない男であり、チャラい奴かと思いきや、仲間想いないい奴であることが伝わってきます。
普通に冗談を言いますし、障害を茶化すような真似もしません。かといって、存在しないような扱いをすることもありません。
映画である以上、日常の一部分を切り取ってはいますが、特別なことはないのが、本作の特徴です。
ただし、盲目であるユウキが、どうやって日常生活を送り、料理人として働く、という状況を乗り越えていこうとするのか、という点が気になるところです。
お店は狭く、すれ違うだけでも大変な中、ユウキは皿洗いをします。
手で表面をなでて感触を確かめ、皿を洗い、特定の場所に戻す。
「タマネギを切れ」
と言われて、切ってみても分厚くなってしまい、商品としては使えません。
一ヶ月以内に店のナポリタンを作ることができなければ、採用されないという試用期間の中で、ユウキは、ナポリタンをつくることができるのか、というのが40分の中で凝縮されたポイントとなっています。
盲目の人の日常も勉強になりまして、看板とか標識の視覚情報があれば、なんなくわかることも、改めて考えてみると不思議に思うことが多いです。
目が見えない中、どうやって点字ブロックとかもないごちゃごちゃした町から、特定の店にたどり着くのか。
そこには色々な工夫がありまして、お店までの歩数を数えてから曲がったり、特徴のあるものを覚えたりしつつ、電車に乗って家から通う、というのを、毎日のように行うというのは、想像を超える大変さです。
しかし、そんな日常を送っている方々がいるということがわかりますし、何より、目がみえるう見えないにかかわらず、ナポリタンがおいしかったから、そこで働いてみたいという衝動は、誰しもが共感できるところです。
ここから以下は、若干のネタバレをしますので、気になる方はごらんになってから戻ってきてもらえればと思います。
一応ネタバレ
ネタバレするのは、物語のラストについてです。
主人公のユウキは、一ヶ月後の試験において、パセリをふり忘れて不合格となってしまいます。
あの店では働けなかったのかな、と思ってしまうところですが、おそらく、そうではないと思います。
お店の全景がわかりづらく、常に左から右に向かってお店が撮影されているため、余計にわかりづらいですが、物語の本当のラストで主人公が、扉を開けようとしている店は、やっぱり、主人公が通った同じ店です。
鞄の中からとりだした、履歴書在中の封筒。
目が見えないのにも関わらず、道幅の狭い下北沢付近を歩いて通い、不合格になったとはいえ、店長と同僚がきちんと食べていたナポリタンを作れるようになった主人公が、そんな簡単に諦めるはずありません。
それに、ユウキは、あの店のナポリタンを食べたから料理人になりたかったのであって、それ以外の店で働いたら、そもそもの意味がなくなってしまいます。
日数がどれだけ経過したのかはわかりませんが、彼は再び、あの店に行ったに違いありません。
履歴書すらもたないで衝動的に雇ってくれと言った日と異なり、今度こそ、正式に雇ってほしいと伝えるために。
ちなみに、本作品を見ると、ナポリタンが無性に食べたくなりますので、深夜に見る場合は、注意してください。
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