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家族と、甘くない現実「チャーリーとチョコレート工場」感想

め~め~。

ティム・バートン監督と、ジョニー・デップのコンビといえば、手がハサミになっている男を描く「シザーハンズ」や、「アリス・イン・ザ・ワンダーランド」等が有名ですが、それと勝るとも劣らない人気の作品として、「チャーリーとチョコレート工場」があります。

かなりの有名作であり、好きな映画として名前を挙げる人も多い作品ですが、一方で、どこが面白いかよくわからない、と納得しかねる人もいるのではないでしょうか。

どういう風に見ていくことができるのかを含めて、本作品について、感想&解説をしてみたいと思います。

イギリス児童文学

原作は、1964年に書かれた「チョコレート工場の秘密」を基に作られており、既に映画化もされたことがあった作品です。

本作品をみるにあたって、前提として頭に入れておいていただきたいのは、児童文学である、という点と、ティム・バートンが監督である、という2点がポイントとなっております。

児童文学といえば、その名前の通り、大人ではなく、児童に向けた作品となっております。

そのため、寓話的な物語が基本となっております。

「チャーリーとチョコレート工場」で考えると、チョコレート工場にでてくる装置や、衛生観念が気になりすぎて、うまく物語に入っていけない方もいるかもしれませんが、これは、寓話的な物語であるという前提のもとにみたほうが、物語に入っていきやすいと思います。

ちなみに、イギリスの児童文学といえば、「不思議の国のアリス」や、「ナルニア国物語」なんかを思い出すところではないでしょうか。

「ナルニア国物語」は、ファンタジーな世界と、世界大戦の影響で疎開した現実とが描かれていたりして、児童文学といっても、生臭い現実が透けてみえる作品でもあります。

様々な寓話性を持たせつつ、子供にも、もちろん、大人にもわかる内容となっているのが児童文学の魅力ではありますが、「チャーリーとチョコレート工場」は、ティム・バートンが監督をするこによって、監督らしい変化が加わることになります。

ティム・バートン映画

合う合わないというのはあるかもしれませんが、心に刺さる映画というのは、いわゆる作家性が強い作品に多いものだったりします。

スカッと爽快な気分になる作品もいいですし、B級映画で泣かされるというのもいいものだったりしますが、ティム・バートン監督の作品というのは、良くも悪くも、ティム・バートン映画となっているのがポイントです。

特に、父親との和解というのは大きなテーマとなっておりまして、映画「ビックフィッシュ」においては、嘘つきだと思っていた父親のことを知ることで、父が自分に対してどれほど愛情を抱いていたのか、話していたことが真実であったのか、ということがわかっていく、という作品になっています。

何より、真実と嘘であれば、どっちがいいのかという問いかけになっているのも面白い作品となっております。

「チャーリーとチョコレート工場」においても、その姿勢は発揮されておりまして、ジョニー・デップ演じるウィリー・ウォンカは、幼少期の父親との関係が原因で、「両親」という単語を言えなくなっていたりします。

そのため、不思議なチョコレート工場を経営するウォンカが、自身の後継者を決める為に子供たちを選ぶみたいな物語だと思ってみると、腑に落ちない点がでてくると思います。

基本的には、ティム・バートンの作家性によってかなり変更が加えられた設定です。余計なことは考えずに、自分自身もまたチョコレート工場にいったうな気分で楽しむのが大事な点ではないでしょうか。

勧善懲悪ではない

5枚のゴールデンチケットによって選ばれた子供たちは、かなり個性的に育ってしまっています。

主人公のチャーリー以外は、両親にかなり甘やかされて育っており、それぞれが、大変プライドが高い子供たちとなっています。

それぞれの子供たちは、自分の欲望に負けて、というよりか、したがって痛い目にあいます

チョコレートまみれになってしまうもの、全身が紫色になってしまうもの、ぺらぺらの体になってしまうもの。

親たちは、それに対して子供をまともに注意しません

その結果、子供たちはひどい目にあうのですが、勧善懲悪という考え方をもちながらみてしまうと、このやりすぎとも思える仕打ちに違和感を覚えるかもしれません。

たしかに、子供たちがしたことは悪いことですが、10歳前後の子供たちがしたことです。

その割にはしっぺ返しがひどいのですが、この辺りは、イギリス文学的だと思って頂けると、違和感は減るかもしれません。

イギリスにおける作品では、恵まれているものがひどい目にあったとしても、それに対して可愛そうというよりは、背徳的な喜びを見出すという部分があったりします。

「ハリーポッター」におけるハリーもまた、同級生がひどい目にあっているのを笑ってみていたりすることもありまして、必ずしも、勧善懲悪が全てに適用されるわけではない、という文化的な違いもみてとれる内容となっています。

チャーリーとしてみた場合

本作品は、チャーリーの視点と、ウォンカの視点。それぞれから考えられる作品となっています。

また、その二人が出会うことによって、ウォンカの父親の和解に繋がっていく、というところも、ティム・バートンらしいつくりとなっているところです。

チャーリーは、町の状況からみて、際立って貧乏です。

周りの家が比較的現代的な家に対して、チャーリーの家は、屋根はぬけているし、そもそも、傾いています。

まわりの状況と比べて、明らかに異質な家です。

貧しいけれど、ものすごく心の優しいチャーリーと、それ以外の裕福だけれど他者に対する優しさがない子供たちが、これでもかと対比させられています。

チャーリーの家族は仲がよく、貧しいながらも頑張って生活しているのがわかります。

チャーリーも、誕生日のときにもらえる1枚のチョコレートを、すぐにみんなに分けてしまったりと、家族思いです。

ここまで家族思いであるからこそ、チャーリーに家族を捨てろと言われたときに、断固として彼の誘いを断るということに繋がります。

ウォンカのチョコ

さて、話はすこし逸れますが、作中ででてくる「ウォンカカバー」なるチョコレートは実際に存在したチョコレートとなっています。

「キットカット」でお馴染みのネスレがだしており、もう終了してしまいましたが、劇中のようにゴールデンチケットの入ったチョコレートも販売されていました。

劇中と同じようなチョコレートが食べられるという点は、当時はわくわくしたことでしょう。

「チョコレートがわくわくするのは理屈じゃない」

チャーリーは言います。

工場内は、子供からすれば夢のような光景が広がっています。

チョコレートが湧き出す滝と、チョコレートの川。

木や花、草にいたるまですべてお菓子でできていて食べることができるということになっています。

実際に、食べれるようにパティシェに作ってもらったそうですが、おとぎ話のできごとが映画のセットで再現されるということ自体が、大人の狂気といえるでしょう。

映画ネタ

本作品は、映画ネタもふんだんに盛り込まれています。

ウンパ・ルンパなる小柄な民族が工場で働いているのですが、地元の住人をウォンカが雇わなくてもやっていける理由にもなっています。

ちなみに、ウォンカの工場が地元の人を雇わないせいで、地元が不景気ということが匂わされているところが、ファンタジー的な世界の裏側から漂ってきます。

本作品は、科学的な雰囲気を装いながら、ファンタジーな装置がいくつもでてきます。
その装置をつかって、ウォンカのチョコレートをテレビの中に送り込むということもやっています。

なぜか、2001年宇宙の旅の冒頭の、サルがモノリスをみつけるところが、ウォンカのチョコレートに差し替えられてしまっていたり、ヒッチコックの「サイコ」そのまんまの場面がでてきたりと、オマージュがかなりささげられています。

「ベン・ハー」の船のシーンであったり、「サタデーナイトフィーバー」であったり、映画ファンであれば、にやりとしてしまう演出が多数です。

知らなくてもまったく気にする必要はないのですが、ちょっとしたお遊びだと思っていただければいいのかと思います。

親子の和解

ティム・バートン映画らしく、本作品も親子の和解が描かれます。

歯科医をやっている父親が、虫歯にさせない為に、幼いウォンカ少年に矯正器具を付ける等、過剰に支配下に置こうとした結果、正反対のほうにいってしまったというのがウォンカと父親との問題となっています。

父親は父親で、ウォンカの顔や姿ではなく、歯が特殊な形をしていることで息子だとわかる、っていうのは、面白い演出です。

また、ウォンカ自身もまた、歯の手入れをかかさなかったことで、父親への愛情を失っていなかった、ということの証明にするあたり、常人にはわかりずらい愛情の深さが感じられます。

この部分が余計だと思う人もいるかもしれませんが、ティム・バートン映画であれば、これをはずすわけにはいかないですし、こんなやり取りがあるからこそ、家族や、特に親子の関係がおかしくなっている人間がわかりやすくなっているところです。

ちなみに、チャーリー以外の4家族は、お互いの愛情がうまくかみあっていません

物語のラストでは、ウォンカ含むチャーリー一家で疑似的な家族をつくり、甘い生活を送りました、となっており、寓話的であり、ティム・バートン映画としてまとまった作品に仕上がっています。

このラストの違和感があるハッピーエンドは、スタジオジブリ「ハウルの動く城」を彷彿とさせるエンディングとなっています。

有名作品過ぎてみたことがなかったという方もいるかと思いますが、子供の時に見るのと、大人になってから見るのとでは、違った印象になる作品となっているのが、「チャーリーとチョコレート工場」となっています。

以上、家族と甘くない現実「チャーリーとチョコレート工場」感想&解説でした!


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