実は可愛い動物もの。映画 LAMB/ラム
公 開:2021年
監 督: ヴァルディミール・ヨハンソン
時 間:106分
ジャンル:ホラー/ファンタジー
見どころ:動物たちの演技全般(特に羊)
アイスランドの山奥で牧羊を営む夫婦。
夫婦はある日、生まれた羊を、自分の子供のように大事に大事に育て始めます。
明らかに、人間の子供ではないのに。
映画をみる前は、「ローズマリーの赤ちゃん」のようなサイコ・ホラーなのかと勝手に思いながら見た作品でしたが、単に、頭がおかしくなった夫婦の物語ではありませんでした。
好き嫌いはわかれるかもしれませんが、「ヘレディタリー」や「ミッド・サマー」のようなホラー作品が好きだけど、極端なグロテスク表現は苦手な人であれば、むしろ「LAMB/ラム」のほうが、絶妙なバランスのもと作られていますので、本作品が気に入るのではないでしょうか。
そして、本作品は何よりも、圧倒的なまでに、動物映画です。
動物の可愛さ
出てくる犬の、猫の、羊たちのなんと可愛いこと。
羊が明らかに演技をしているように、演出されているところも見逃せません。
我が子をとられて、探す羊。
やがて、恐ろしく見えてくる羊。
そんな中、可愛いからしょうがないな、と思わせてしまう羊の子供アダ。
映像表現としても、脚本としても大変優れた作品です。
とはいえ、羊を我が子のように扱うっていうのは、傍から見ていますと、かなり奇妙な光景といえます。
とはいえ、特に現代社会において、個人的な考えが優先されることが多いです。
隔絶された場所で生きる夫婦が、ちょっと変わった羊の子を、我が子のように育てることに、どれほど非難することができるでしょうか。
人それぞれの考えがあるわけで、ぬいぐるみを我が子のように扱う人もいれば、愛猫を口の中に入れてしまう飼い主もいるわけですから、その愛情を否定することは誰にもできないはずです。
本作品は、基本的にホラー作品となっているのですが、音楽もセリフもかなり少ない作品となっており、そうでありながら、かなり意味深なセリフがあって、心を乱されたりするので、その点だけは注意が必要です。
当記事においては、簡単なネタバレ記事も掲載しますので、ネタバレが気になる方は、本作品の動物たちの可愛さを堪能してから、記事に戻ってきていただければと思います。
ネタバレはここから
「時間旅行が可能になったらしい」
事前情報なしに本作品をみたときに、まずひっかかるセリフです。
近未来設定の物語なのか、と先入観を抱いてしまいながらみてしまうところですが、そうではありません。
羊のような半獣が現れたとしても、未来ならしょうがない、という伏線だったらどうしようと思ったりしましたが、もちろん、そんなこともなく、本作品は、寓話的にみれば、母親から子供を奪った母親への罰を描いた、という見方もできると思います。
母親であるマリアは、幼い娘を亡くしています。
そして、お墓のシーンでは、アダの墓以外にも二つの墓が見えており、旦那の両親とかでなければ、おそらく、名前すらつく前に亡くなった水子の墓なのだと思われます。
(完全に余談ですが、未来少年コナンにおいて、残され島には、主人公意外にも生まれ、そして亡くなった子供が、墓の存在によって示されており、映画ラムも同じような演出意図と思われます)
ようやく授かった子供が死んだことで、夫婦に見えない亀裂が入った中、半獣の羊がやってきたことで、夫婦の時間が動き出す、といったのは内面的な流れとなっています。
夫婦は、特に何も言わないのに意思疎通を終わらせ、羊を我が子のように育て始めます。
口に出してしまうことで、違和感の塊のような存在を認めることになってしまう、という複雑な思いがたまらない演出です。
弟が帰ってくる意味
その後、突然、元ミュージシャンの弟が帰ってくるわけですが、これには二つの意味があると思われます。
夫婦二人の中では納得していても、第三者からすれば、羊を我が子として扱うというのは、あまりに違和感がありすぎること。
その視点によって、物語の緊張感をあげる意味があるでしょう。
そして、第三者もまた、アダという羊の子を認めることで、夫婦二人の妄想の産物ではないことも示唆することができます。
物語が、たんなる夫婦の妄想でした、ではあまりに切ないですからね。
最終的に、マリアは羊のアダを守るような流れとなり、罪も背負っていこうとするところで、物語は、まさかの結末を迎えます。
アダは誰の子か
羊のアダの首から下を執拗に見せないのが、物語冒頭での面白い演出です。
そして、いざ見せた時には、明らかに違和感のある身体、背中からお尻が見えます。
突然変異で、というのはいくらでもいえますが、その変異のきっかけがあるはずと考えるのが当然です。
少なくとも、妻であるマリアからすれば、羊から、羊ではない子供が生まれたことに当然疑問を抱くはずで、その原因を夫に求めないのは少し不思議でした。
大航海時代のコロンブス交換をひも解くまでもなく、動物に対しての性的な行動は、隔絶された世界では往々にして起こるものだからです。
少なくともマリア自身の子供では絶対にないのに、羊と、旦那の子かもしれない羊を、なぜ育てる気になったのは少し疑問には思うところでした。
とはいえ、子宝に恵まれなかった夫婦に訪れた、愛情の対象。
彼らの行動を否定することもまた、できないはずです。
物語のオチについては、夫が鍵だろうな、とうすぼんやり思いながらみている人が多かったと思いますが、そこを、大きくどんでん返しされる驚き。
ついつい、都合よく突然変異の羊が生まれたと考えてしまいがちです。
しかし、物語の冒頭の演出、そして最後に現れた存在によって、突然変異よりは、まずはそういう可能性から疑ってもよかったのかもしれない、と納得してしまう脚本の意外性と説得力。
本作品は、トリッキーなホラー作品にも関わらず、圧倒的な映像美とあわせて、高品質な作品となっておりまして、事前の予想と、良い意味で大きく裏切られる作品となっています。
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