脱出もの映画のオススメも紹介。「プリズンエスケープ 脱出への10の鍵」感想
「脱出・脱獄もの」というのは、名作その他を問わず、結構な量があるジャンルとなっています。
有名なところでいえば「ショーシャンクの空に」なんかは、知らない人がいないのではないか、というぐらいパロディにされてみたりする作品でもあります。
個人的に脱出ものは、ドラマ「プリズン・ブレイク」でやり尽くされてしまったのではないか、と思っていたりしますが、近年においては、歴史的事実に基づいて作られた作品があったりしていまして、脱出ものの作品の光の当たり方も変わってきたのではないかと思ったりするところだったりします。
さて、今回は、ハリー・ポッターシリーズでお馴染みであり、且つ、近年では変わった役柄を抜群の演技力でこなすようになったダニエル・ラドクリフ主演による、「プリズンエスケープ 脱出への10の鍵」について感想・解説を書いていきたいと思います。
これは、実話をもとにした作品でありますので、「アルカトラズからの脱出」でのクリント・イーストウッドのようなタフな男がゴリゴリ脱出するような話ではなく、ひょろりとしたラドクリフ演じる男が、地道な作業を、確実にこなしていくことで、脱出に近づいていく、というところが見どころになっていますので、そのあたりも含めて、語ってみたいと思います。
レッツ、め~め~。
アパルトヘイト政策時代の南アフリカ
時代は、1978年。
日本でいえば、空前のディスコブームであり、ピンクレディが紅白の出場を断ったりと、時代的には、だいぶ緩やかな時代ではあるわけです。
しかしながら、南アフリカにおいては、人種隔離政策がいまだに続けられており、それに対して抗議をしていたティム・ジェンキンが逮捕・監獄入りとなってしまいます。
人種隔離政策まわりにおける活動といえば、キング牧師やマルコムXなんかは、映画の題材として取り上げられている内容ではあるものの、南アフリカでアパルトヘイトが撤廃されたのは、1992年を待たねばならなかったというのは、改めて考えるとすごい話だったりします。
そんな政治的な不均衡が生まれているところに、白人であるラドクリフ演じるジェンキンは、投獄されてしまうわけですが、タイトルである「プリズンエスケープ 脱出への10の鍵」というだけあって、その刑務所から脱出するまでを描いています。
さて、内容に入る前に、冒頭でも書きました「脱出もの」について、おさらいしてみたいと思います。
脱出ものの映画
映画「大脱走」なんてのは、収容所からの脱出ものとなっており、スティーブン・マックイーンの代表作の一つでもあります。
また、スティーブン・マックイーンでの刑務所脱獄ものといえば、最近リメイクもされました「パピヨン」は外せないところです。
さらには、「暴力脱獄」なんていう作品も名作でありまして、こちらは、ポール・ニューマンが主演し、巨大な権力に対して決して屈しないという形で、自分の信念を貫く男の物語となっています。
このあたりは、古典的な名作といっていいと思いますし、「ショーシャンクの空に」もまた、脱出ものとしては金字塔といってもいいぐらいの作品となっています。
「ショーシャンクの空に」は、さんざん語り尽くされているところではあると思いますが、こちらも地道な努力を重ねて脱獄までの道筋をつけていく、という点で面白い作品となっています。
当時の大女優であったリタ・ヘイワースのポスターを脱出のための穴を隠すのに使うと同時に、そこに映っている南の島に脱出するぞ、という意気込みと未来像を植え付けるための道具としてつかっているという演出のうまさが際立っています。
また、刑務所で長く行き過ぎたために、刑務所の外でうまく生きていくことができない男の救いの話にもなっており、文学的にも、刑務所という場所が、我々が生きている塀の外とも共通していることが示されているところも、面白かったりする名作です。
冒頭でも書きましたが、個人的には「プリズン・ブレイク」が、脱出ものの面白いエッセンスをすべて詰め込んでしまった感じがあるので、ほかの脱出ものをみても、その緻密さにはかなわないな、と思ったりしておりました。
アーノルド・シュワルツェネッガーと、シルヴェスター・スタローンがでてきくる、最新の刑務所からの脱出もの「大脱出」なんてのもありましたが、面白いのは面白いですが、もはや、脱出するのを見るだけであれば、過去の名作がすでにやり尽くしてしまっている感は、否めないところです。
ただし、もう、よくもこんな脱出思いつくものだ、というところは、相変わらず脱出ものの面白さの一つではあります。
史実に基づく脱出法
さて、そんな中、脱出もののジャンルに見せかけつつ、政治的・歴史的な側面をのぞかせる「脱出もの」が注目のしどころではないでしょうか。
純粋に脱出もの、として見るには、「プリズンエスケープ」におけるラドクリフ演じる主人公が考えた脱出方法は、あまりに地味です。
なにせ、木の端材で鍵を複製して、脱出するという、意外にもまっとうなものだからです。
「プリズンエスケープ」では、人種隔離政策による抗議活動によって投獄されて、脱出するというものであり、本作における脱出は、史実に基づいている、というところが一番のポイントです。
肉体的な強靭さでもなく、小さな釘で壁に穴をあけたとか、そういうものでもありません。
しかし、この作品は、実際に起きた事柄であり、その中で、地味な事柄を一つ一つ積み上げたことで脱出した、という事実は、ノンフィクション要素があるからこその重さといえるでしょう。
ハーマイオニーも脱出済
さて、ダニエル・ラドクリフといえばハリー・ポッターにおけるハリーですが、同じくハリー・ポッターの有名な女優といえば、ハーマイオニー役でお馴染みエマ・ワトソンではないでしょうか。
実は、エマ・ワトソンも脱出ものの映画に出演しておりまして、本noteでも解説しております「コロニア」が、2015年に公開されています。
こちらもまた、実際にあった出来事をベースに作られた作品となっておりまして、チリの軍事独裁政権下で行われていた、宗教組織との癒着によって起きていた残酷極まりない「コロニア・ディグニダ」での事実を映画化したものとなっています。
拷問宗教施設にとらわれた恋人を救うため、自らその宗教施設に行く主人公を演じており、異常な軟禁状態の中で、どのように脱出していくのか、というところが見どころの作品となっています。
それぞれの戦い方
さて、脱出ものの雰囲気がわかったところで、「プリズンエスケープ」では、どのようなところがほかの作品と違うのか、ということをもう少し掘り下げてみたいと思います。
歴史的事実に基づいているという点はもちろんですが、その内容において、よくある「脱出もの」とは違う点があります。
それは、本作品は、政治犯が大半の刑務所という点です。
だいたいの脱出ものの映画においては、刑務所の主のような人物がいて、その人物が刑務所の権力を握っていたりすることが多かったりします。
その人物が、主人公の脱出を妨げてみたり、今までの秩序を保たせるためにいじめを行ってみたりするのは、この手の作品の通過儀礼じゃないかと思っていたのですが、本作品では、それがありません。
長年投獄されていたデニス・ゴールドバーグという男がいるだけで、特に妨害してくることはありません。この方も、実在の人物です。
どちらかというと、主人公たちとは違うやり方で戦い続けている人物でもあり、同時に、脱獄することのできない人たちの総意でもある人物となっています。
また、過去にいろいろな人たちの脱獄をみて、もう脱獄することすらあきらめてしまった人物でもあります。
何重もの扉
「プリズンエスケープ」では、歴史的事実がベースとなっていることもありまして、看守の目も厳しくありません。
もちろん、実際の現場では、映画の比ではないでしょうが、いわゆる「脱獄ものの」映画に登場するような、性格が悪く、陰湿で、囚人をいじめることに快楽や利益を得るようなタイプの看守はでてきません。
もちろん、見つかってしまえばすべてが終わりになる、という点は間違いないのですが、あくまで、この作品は、扉を開ける、ということにその脱出のメタファーをのせているところにポイントがあります。
入所するときに、あえて強調するように幾重にも、重そうな扉が開かれて奥に入っていく、というのは、主人公たちの絶望とシンクロして実に重々しいものとして映ります。
だからこそ、初めて木材でつくった鍵で鉄の扉が開いた瞬間は、快感があります。
二つ目のドアあたりが緊張のピークとなっていますが、ハラハラドキドキは、銃でドンパチする映画とは全然違う面白さとなっております。
10の鍵と書いてありますが、最終的には38ぐらいまで増えているところが、気が遠くなる努力を想像させるところです。
それぞれの戦い方
「一緒に、脱獄しよう」
ラドクリフ演じるジェンキンが、囚人たちに声を書けます。
ですが、もっとも長くいたデニスが、それに反論します。
「私も、二人の子供の成長をガラス越しに見てきた」
20年以上刑務所に入ってきた人物がいうと重みが違います。
幼い息子が、自分が刑務所に入っている間に成長してしまう焦りで、精神的に不安定になるキャラクターがいる中で、その言葉はより重さを増して聞こえるところです。
「誰しも代償を払わなければ。逃げてはならない」
「逃げはしない」
「なら戦え!」
「これが、俺たちの戦いだ」
デニスは、今までさんざん脱獄に失敗してきた人たちをみてきたからこそ、あきらめてしまっている部分もありますし、他の刑務所にいる仲間たちもいるため、良心の囚人として、勤め上げることもまた、戦いの一つとなっています。
一方で、脱獄へのあこがれや希望も持ち合わせており、その想いを、ジェンキン含む主人公たちに託すあたりも、よい演出となっています。
脱出ものの楽しみ方
最後に、脱出・脱獄ものの楽しみ方について、書いて終わりにしたいと思います。
脱出ものは、基本的には、脱出して終わります。
そのため、主人公がどんな苦境に立たされたとしても、必ず、脱出できるというところにカタルシスがあります。
多様性があるのも映画の魅力ですが、必ずしも、見ている我々が納得するようなエンディングにたどり着くとは限りません。
時には、もやもやする終わり方、なんてものもあったりするでしょう。
しかし、脱出ものは、ほぼ脱出します。
閉そく感からの脱出は間違いありません。
また、刑務所が、我々にとっての日常のメタファーであったり、日ごろの閉そく感そのものを象徴していると思えば、今という現実を抜け出すための方法を教えてくれるのも、脱出・脱獄ものの見方・面白さだと思います。
少なくとも、「プリズンエスケープ」をみた後、木で鍵を作るような地道な作業を笑うことなんてできませんし、そんな地道なトライ&エラーの中にこそ、脱出の糸口が待っていることがわかるはずです。
以上、脱出もの映画のオススメも紹介。「プリズンエスケープ 脱出への10の鍵」感想でした!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?