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映画感想文「どですかでん」 大人の絵本のよう

黒澤明監督の「どですかでん」を配信で鑑賞しました。
感想を書いてみようと思います。

黒澤作品はひと通り観ています。
モノクロの作品から、後期のカラー作品まで。
この「どですかでん」(1970年)は黒澤監督の初カラー作品なので、氏の年表的には中期ぐらいの作品になるのでしょうか。

一般的に氏の代表作といえば、戦後のモノクロ作品になるんだと思います。
「羅生門」「生きる」「七人の侍」「用心棒」「天国と地獄」「赤ひげ」といった錚々たる名作が並びます。
すごいラインナップだ。1人の監督がこんなに数多くの名作を撮ってるなんて、ほんと信じられないです。
(個人的には「悪い奴ほどよく眠る」も好きです)

一方カラー作品はというと、「影武者」「乱」あたりは有名だけど、他作品はそこまで有名じゃないかもしれません。

で、今回の「どですかでん」ですが、知名度はかなり低い方だと思います。
黒澤作品を語る時にほぼ上がってこないタイトルで、自分も名前は知ってたけどなんとなく敬遠していて、今まで観てこなかった。

で、今回観てどうだったか?

好きかも。
ただ当時の人はきっとびっくりしただろうな、ダイナミックで力強い活劇・ドラマが持ち味の黒澤氏がこのようなちょいとヘンテコな作品を撮るなんて。

タイトルにも書きましたが、「大人の絵本」のような作品です。
ゴミが積み上げられた架空の街で暮らす人たちの群像劇。
なので、ストーリーの縦軸はなくて、一風変わった登場人物たちのお話があっちこっちとスケッチ風に描かれます。

カラー作品に「夢」というのがあるけど、あれは1エピソード完結のオムニバス。
でも「どですかでん」はスケッチだから、もっと話の展開が曖昧なんですよね。
ただ最初戸惑うけど、なんとなくそのリズムがつかめてくると逆に何が始まり何が終わるか分からない予測不能さを楽しめました。

普段の映画なら登場人物と一緒に話のすじを追っていくのだけど、この作品はすじがないぶん、お話を丸ごと受け止めることになります。
こういう映画体験って、なかなかないなと。
子どもが絵本を読むときって、こんな感じなんじゃないかなと。

むしろ公開当時より、今の方が観ると思うところあるんじゃないかと思います。
一周回ってちょいとファンタジーとしても捉えられるし、「多様性」を煮詰めたとも言えなくもなくもない。
あんがい知名度は低くても射程の長さでは上位に入るのでは。

ちなみに「どですかでん」とは、六ちゃんという男性が想像上の電車を走らせるときの擬音。
そう、セリフの響きだったり、画面の色彩感覚だったり、ほんとに大人の絵本のような作品です。
ちょいとビターなとこもあるしね。

総合評価 ☆☆☆+☆半分(☆5が最高)

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