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映画感想文「SHE SAID その名を暴け」 トーンに共感

配信で「SHE SAID その名を暴け」を鑑賞しました。
感想を書いてみようと思います。

2022年(日本公開2023年) アメリカ
監督 マリア・シュラーダー

ニューヨーク・タイムズ紙の記者ミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターは、大物映画プロデューサーのワインスタインが数十年にわたって続けてきた性的暴行について取材を始めるが、ワインスタインがこれまで何度も記事をもみ消してきたことを知る。被害女性の多くは示談に応じており、証言すれば訴えられるという恐怖や当時のトラウマによって声を上げられずにいた。問題の本質が業界の隠蔽体質にあると気づいた記者たちは、取材対象から拒否され、ワインスタイン側からの妨害を受けながらも、真実を追い求めて奔走する。

映画.comより


ミートゥー運動に火をつけた事件を映画化した作品。
自分は、今作の最大の良点は映画全体の「トーン」だと思う。
画面が明るくない。
かといって暗いわけでもないのだけど、抑えた色調になっている。これに共感します。

なぜ共感するのか?
この映画は、新聞社の女性記者2人が大物男性映画プロデューサーの性加害を告発する記事を世に送り出すお話。
こう書くと、いかにもジャーナリズム的高揚感に満ちた感じがしませんか?
巨悪の悪行を日のもとにさらし、ジャイアントキリングを達成したような。

でもそうじゃないのです。
この映画は被害に遭った女性たちの声、そして話す姿をきちんと捉えています。
ジャーナリストが立ち向かう姿勢を描きつつも、誰のための何のための告発なのか、ってことをちゃんと理解してる。

それを分かってるから、ジャーナリズムの自己満足的な描き方を極力排除してる。
ワインスタインの90年代からの加害、そしてそれに伴う示談の秘密保持条項に縛られ、声を出せずに尊厳を蝕まれてきた被害者の心情を慮ってる。
スクープしてやったぜ!っていう話じゃない。
抑えめなトーンになるのは自然な流れだと思う。

なので、タイトルの邦題「その名を暴け」はジャーナリズムの自己満足的な方にミスリードしてると思う。。。
ま、タイトルだからそう表記したけど、ここはないものとして、「SHE SAID」だけを見つめればこの映画が誰のためのものか自ずと分かる。
複数称ではなく個人称なのも、被害者ひとりひとりに思いを寄せるため。

もちろん、産後鬱に苦しみ、取材妨害にあいながら告発記事を世に送り出した記者は素晴らしい。
でもこの映画の良きところは、そこを殊更強調してないこと。

また性被害の直接的描写がなかったり、ワインスタインの後ろ姿しか映らないのも良い。
それがはっきり描かれていたら観てる方はどうしても「なんて酷い奴だ!」って感情が高まって、対象が加害者に向いてしまう。
悪の追及は当然なされるべきだけど、悪が倒されることで溜飲を下げてしまって、大事なことが置き去りにされてしまう。

この映画では被害者が身の上を語るシーンが印象に残る。
何をされたかっていう事実は重要。そして、それを受けてどう感じたか。
「怖い」「怯え」「侮辱」。
事実と違って真実には感情が含まれる。
「SHE SAID」に続く言葉(真実)に耳を傾け、被害者の尊厳を取り戻すこと。
それがこの事件で最も大切なことだと痛感しました。

これはジャニーズ問題も同じだと思う。日本のマスコミの人に観てもらいたいな。

総合評価 ☆☆☆+☆半分(5つが最高)

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