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移り気な春

2週間ぐらい前から古着屋でアルバイトを始めた。名古屋では有名な昔ながらの商店街にあるお店だ。名古屋では古着といえばこの街で、たくさんの古着屋とおばあちゃんがやってる老舗、オシャレなカフェがこの街、この商店街には所狭しと並んでいる。この商店街には平日でも人通りがあるのだが、如何せん、お店が大通りから一本入った道にあるのと、2階にあるという最悪の立地条件、今月からオープンしたばかりで知られていないという条件が重なり、お客さんが全然来ない。平日には1,2組ぐらいしか来ない。笑(もちろんこれから宣伝活動はしていくのだが)今日、初めてお客さんとまともにしゃべった。

なので、バイト中はいつも一緒に入る年下の女の子としゃべっているか二人とも黙ってスマホをいじって時間を潰す。もちろん、やるべき仕事はこなしている。最近では、みなさんのnoteを拝見したり、自分のnoteを書くのに多くの時間を充てている(スキしてくれた方のnoteはもれなく見に行く)。

些細なことでもnoteに書いていく。なんせ時間がありすぎるのだ。


出勤してから昼過ぎになった頃、突然の空腹感。前回出勤したときの昼食は、丸亀製麺で済ませたので、今日は牛丼チェーンで腹ごしらえしようと決めた。金欠フリーターの頼もしい味方たちだ。

先に同僚を昼休憩に送り出し、1時間気楽に一人の時間を過ごす。もちろんお客さんは来なかった。

1時間後、同僚が帰ってくると、「餃子の王将でラーメンを食べてきた」という報告を受ける。「ラーメン?餃子の王将…?」

その言葉を聞いた途端、私の脳の回路はすぐさま反乱軍を結成し、みるみるうちに、「すき家、吉野家、松屋」の三国同盟を蹂躪し始めた。「餃子の王将」、諸葛亮孔明の生まれ変わりとはお前のことだったのか…!!次の瞬間には、私の脳は「餃子を食すこと」以外のことは考えられなくなった。私の脳は、攻め落とされたのだ。

同僚に「口が臭くなって帰ってくる」と宣言し、バイト先をあとにする。これはマスク必須のコロナ社会の数少ない恩恵と言えるだろう。

舌の下から湧き出る水を何度も飲み込みながら、商店街を勇み足で進む。通りのよくわからないケバブ屋の客引きの外国人の声など、耳に入る余地もない。そして、諸葛亮孔明とのご対面。

自動ドアをくぐり、カウンター席に腰掛ける。実は、餃子の王将に来るのは人生2回目で、しかも一人で来るのは初めてだった。いつも食べてるみたいな空気感出しててごめん。久しぶりの対峙だったので、少し緊張していたが、席につくと両サイドにはアクリル板が立て掛けられていた。自分のパーソナルスペースが確保されているみたいで、緊張感は安心感へと姿を変えていた。忙しい中、「メニュー決まったら教えて下さい」と、優しく言ってくれたカウンター越しのおじさんも好印象。

餃子を注文することは決めていたが、残りはどうしよう。メニュー表のデカデカと書いてあるランチメニューが目に飛び込んで来るが、大ボリュームのため少々値がはる。私は金欠フリーターなのだ。単品で攻めよう。ご飯ものも欲しいし、チャーハンが第一候補に躍り出る。しかし、メニューのページをパラパラめくっていると、私の欲求を掻き立てる妖艶な彼女の姿に目が留まる。彼女、そう、ニラレバ炒めだ。妖艶な姿とは対照的に、物憂げな顔をしている。こういう女に男は弱い。そして、彼女は私に語りかけてきさえした。「はやく、はやく、入れて……私を口に入れて…」と彼女は、私の耳元で語りかける。私は神妙な面持ちでうなずき、「じゃあ…入れるね」と応える。そしてカウンター越しのおじさんに「餃子一人前とニラレバ炒め」と伝えたのだった。

注文前に餃子とニラレバ炒め…こんな濃い味×濃い味の組み合わせ、クッションは必要じゃないかという一抹の不安を覚えた。米は多いし…ビール?という邪な考えが浮かんだ。「さすがにそれはマズいだろ。」私の中にほんの少し残された、社会性が踏み止まらせる。最近酒を飲んでいない。もし、その時に三種の神器が揃っていたら、私の幸福度は全ブータン国民の総量に並んでいただろう。恐ろしい。

15時前ということで、お客さんも少なく、すぐに私の前に餃子とニラレバ炒めが到着する。餃子を2口で食べる。まず一口、弾ける肉汁、うまい。即座に二口目を口に運ぶ、うまい。次はニラレバ炒め。レバーの柔らかい口当たり、ニラのシャキシャキ感、中華の味噌味が口に広がる。食べ進めていくにつれ、注文時の一抹の不安は杞憂に過ぎなかったと思い知る。濃い味×濃い味バンザイ!

そのまま私は、恍惚とした表情を浮かべ、彼女に貪りついた。彼女も満更でもない表情だった。その横で、餃子が「私が本命じゃなかったの…?」という表情で私をじっと見つめていた…

ふと顔を上げるとサラリーマン時代の昼食をなぜか思い出した。月1500円を払って、ほぼ毎日会社の食堂で用意してくれた決して美味しいとは言えない冷めた弁当を食べていた。現在は週3のバイトの昼休憩で、自分が好きなものを選んで、暖かくて美味しいものを食べている。ワンコインちょっととはいえ、格段に今のほうが生きている心地がする。昼食だけだが、QOL爆上がりだ。

そして、気がつくと餃子を全て食べ終わっていた自分がいた。あとは二人だけの時間だ。彼女が再び唇に触れる。惜しげもなくニラレバ炒めをたいらげる。満足し、水を飲み干し、お会計を済ませ店を出る。

まだまだ夜までは時間があったが、彼女と私は一つになったのだった。この上ない充実感だった。そして、店に戻る私のニンニク臭い吐息は、マスクの隙間からこぼれ、春風と共に空高く舞い上がったのだった。




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