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16 皆おなじ、皆ちがう

 高校生の時の事です。学園祭という催し物がありました。理由はわかりませんでしたが、クラス毎に出し物をやる事になっているそうでした。従順な私はクラスでの話し合いによくわからないなりに参加していました。

 クラス委員という人が教室の前に立ってどんな出し物をやろうかと言い、皆からアイデアを募りました。どんなアイデアが出たかは忘れてしまいましたが、歌を歌うとか演劇とか映画を撮るとかそんなものだった気がしますけれども、たくさんのアイデアが出てなかなか決まらなかったのは覚えています。話し合いはかなり紛糾しました。自分の意見が強くて引かない人やグループで主張する人たちがいたからです。

 私自身は特に何がしたいという事もありませんでしたが、こう考えました。「皆、そんなに自分でしたい事があるのならば、個別にそれをやってまとめて発表すれば良いのでは?」と。映画でオムニバス作品というのがありますが、それと同じ事です。ある共通のテーマを決めておいて(決めなくてもOK)別々のアイデアで個別にやりたい事をやるというものです。小説でも複数著者による短編集のようなものもあります。私はそれを提案しました。もちろん結果は却下でした。

 彼らは何しろ全員で同じ事をしなければならないと固く決めていましたし、その日に1日しか使わないのにお揃いの色で通し番組付のユニフォームまで作ってしまうのです。皆が別々の事をやるというのが認められるはずはないわけです。結局、その学園祭で何をしたか覚えていませんが、多数決で一つに決めて、大半の人が自分でやりたいと思わなかった事をしなければなりませんでした。

 その学園祭と全く対照的な経験もありました。私が海外のある工場で働いていた時の事です。その会社では折に触れて会社を挙げてのパーティーのような催しがありました。その日は創立記念日か何かで工場の倉庫の前に仮設の舞台を作ってグループ毎の出し物を披露し、その前の駐車場ではバーベキューが行われました。普段は大して仕事をしない総務のマネージャーが、現場のリーダーを集めて部署毎にまとめさせました。仕事そっちのけです。会社に認められた休憩時間のようなものですからそれは一所懸命やります。

 そこで起きた事です。ベトナム人作業員のグループが仕事でないのなら参加しないと言い出したのです。リーダーたちは説得したようですが、無駄でした。ベトナムから来た人たちは無料でバーベキューが振る舞われるより、下手な歌や踊りを見せられるよりも、休みにして普段会えない友達に会いに出かけた方が良かったのです。彼らにしてみれば、1日に12時間労働(残業が通常の事としてあります)、1週間に6日労働、そして立ちっぱなしで手を動かしていますから、仕事でないならそんなイベントよりもいつもはできない事をやりたいわけです。会社は慰安の意味で開催するのでしょうが、作業員は別に会社への思いは無いのです。何年そこで働いていてもです。

 ベトナムの方たちと自分の高校時代を比べますとずいぶんと違います。私は従順に好きでもない事をクラスという自分で決めたのでないグループの中でやりました。ベトナムの人たちは平気で拒否しました。出ればお金も食事も貰えるにも関わらずです。私はその時のクラスメイトと今は完全に断絶しています。いく人かは顔が思い浮かびますが、名前などは完全に忘れています。一緒にやっても結局その程度の仲だったわけです。

 コロナの問題で学校へ行けず、遠隔授業となった事が問題視されました。せっかく入学したのに皆と一緒に授業を受けられなくて可哀そう。集合教育は社会性を養うものであるから絶対に必要。そんな意見が多く出ていました。それは確かに否定できません。そうした側面はあるはずです。ただ、本当にそんな事を考えて、つまりは社会性の為に学校や教育のシステムは組まれているのでしょうか? 後付けの考えではないのでしょうか? そしてそれ本当に考えて計画されているのなら過去にどんな成果を上げてきたか評価されているでしょうか? 残念ですが、あり得ないと考えます。学校が1クラス30〜40人で設定されているのは単に生産性の問題です。先生1人に生徒1人では効率が悪いというだけです。つまり経済の問題のはずです。そして、クラスはまとまって同じ事をやるのがイベントとしても効率が良いのです。

 私が失業していた時、小さなホテルで会ったアメリカ人のおばさんが、私が仕事が無くて時間があるので英語の学校に通っていて次にやる事を探していると言った時、「それは良かったわね!」と言いましたので驚きました。失業していて良かったと言われるとは思いもしませんでしたから。同じ時、私の母はこう言いました。「昼間からいい歳した男がふらふらしているとみっともないから家から出ないでちょうだい」皆が働いている時に一人だけ何もしていないのが恥ずかしいという事です。

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