見出し画像

9 シンプルすぎる答え

 前回は恐怖に駆られて生きていると、気付かないうちに思考力が奪われていて犬のように反応するしかできない人間になってしまうと書きました。今回もそれに関連した事になります。

 いきなりですが、会社の会議である問題が提示されたとします。それについてどう対処するか決めなければなりません。こんな場合、会議でどんな話し合いが行われるでしょうか? 答えはそう難しくはありません。よほどの事が無い限りパターンは一つだからです。わかりますか? ある特定の人(複数人の場合もある) が、こうしたら良いと提案します。するとほぼその答えが採用されて終わります。いつものパターンです。

 こうなる原理は簡単です。それは「問題と答えは同時に出る」の法則があるからです。これは会議ならずとも、自分自身でも同じです。問題が起きると同時に頭の中に答えが用意されます。ただ、それを自分自身で自覚していないだけです。自分ではあたかも考えて出した答えのように思いこんでしまいますが、それは錯覚です。あなたは先に答えを用意してしまい、その答えが合理的であると後から理由付けています。

 答えが合理的で正しいと考えてしまう理由は、その答えが誰にも反対されない答えになっているからです。反対されないという意味ではそれを言う人にとって合理的です。しかし、実際の問題に対しては本当に合理的であるとは言えません。会社の会議で出てくる答えもそうで、何ら変わりはありません。一見、良いと思われて、誰にも反対が言えない答えが言われているだけです。それは合理的ではなく、社会性を持った答えという方がずっと相応しいでしょう。会社のようなところでいくらかでも仕事を続けていますとよくある事ですね。

 こうしたシンプルで誰にも反対できない答えを瞬時に頭の中で用意してしまうのも恐怖の中で生きて訓練されている事が原因です。これも思考ではなくて、犬が吠えるのと同じ反応と言えます。誰かがそうしたシンプル過ぎる答えを言うのは仕方ないとしても、自分自身は気をつけたいものです。

 とは言え、人間は不思議な事にシンプルな答えが大好きです。腑に落ちるという言い方があり、最近は腑落ちするというような言い方で使われますが、それもその象徴のようなものです。シンプルに理解できる時に使われます。ではそのシンプルに理解できるのはどんな時でしょうか? 最近よくあるのは、Youtubeのトーク系チャンネルを聞いた時です。最近のトークの特徴は、世の中の複雑に見えて理解し難い事を圧縮して縮めてほんの一言、二言の長さで表現しているという事。つまり、「これはこんなものだ」と断言します。これが物事の本質だというわけです。何となく納得してしまいます。

 ですが、本当にそんな事である物事が言い表せるものでしょうか? もちろんそんな事は絶対にありません。なぜならば、私の人生の中の出来事、あなたの出来事、そしてある別の方の出来事は皆同じところから発していた場合でも、悩みや考えなければならない具体的な事はそこから生えて枝分かれしている細かいヒゲのような部分にあるからです。昔から人生相談のようなものはあり、一通り悩みが出てしまえば先人の悩みとその答えを参照する事によって人類全体の悩みはもう完全に解決してしまうので無くなるはずですが、依然として人は似たような悩みを言います。人はいつの時代もそんなにシンプルではありません。

 さて、ちょっと別の話に入ります。プログラミングでは●十や●百次元の計算が今時は普通に行われます。簡単に言いますと、プログラムは何か答えを求める時に欲張ってあれについてもこれについてもあっちについてもそのまたあっちについても考慮するという事です。中には考慮してもそれほど意味が無い事もあるかもしれませんが、とにかく答えに影響しそうな事は全部考慮するという事です。同じ事を人間がするのはほとんど不可能です。人間が考慮できるのは一つ、二つ、または三つ程度でしょう。人間の能力はその程度のものです。あまり考慮しなければならない事が多くなりますと、すぐに諦めてシンプルな状態にして考えを途中で止めてしまいます。

 簡単な例になる事をちょうど今日聞きました。「Aさんがあんなに誰にも親切に接するのは元客商売をしていたからだよね」とてもシンプルでつい納得しそうになりませんか? よく考えてみればおかしな事で、Aさんが親切な理由をこれを言っている人が全て知っているはずは無いのです。Aさんの両親の育て方、遺伝的性質、外面を取り繕っているだけ、などなどいろいろ考えられますがそんな事はまるで気にせずパッと最初に考えた答えを反射的に言っただけとわかります。

 こうして人はできるだけ思考する手間を省いて反応だけで済まそうとする性質を持っているのです。


この記事が参加している募集

この経験に学べ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?