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読書の記録(19)『ゴリラ裁判の日』 須藤古都離 講談社

手にしたきっかけ

学校図書館司書の研修で、YA向けにおすすめの本をリーフレットにまとめることになった。他校の司書さんが提案してくれた1冊。タイトルを聞いて、あらすじを聞いたときに、「あっ、これ、絶対私の好きなやつ!」「読みたい!」と思った。

我々は、ゴリラへの数々の非礼を心から詫びるべきである。 ー京極夏彦氏
第64回 メフィスト賞満場一致の受賞作

ローズはとても賢く、特別なゴリラだ。言葉を理解し人間と「会話』ができる。やがて「声」も手に入れた。

これからもっと楽しい生活が始まる。そんな時だった。

人間の子供を助けるために、という理由で、夫ゴリラが、突然、射殺される。

許せないー。

そしてローズは、人間に戦いを挑む。力でなく、知恵と勇気を武器に。法廷で。

本の帯より

心に残ったところ

書き出しから設定の妙というか、面白さでグイグイ引き込まれた。
何より、ローズが魅力的。知的でチャーミングでユーモアのセンスも抜群。

ローズが自分の声を獲得するところは読んでいてワクワクした。自分の声を自分で選べるという体験はそうない。それを疑似体験できて、自分を表現することの喜びというか、自分が自分であることの喜びというか、そういう感覚が伝わってきた。

ローズとリリーが仲良くなっていく様子もいい。そのままの飾らないローズをワイルドでクレイジーだと認めてくれる。ローズの感性をもまるごと受け止めてくれる。リリーといる時のローズは幼い子のようにとても素直で愛らしい。リリーの存在は大きい。

ローズが転身?するくだりも、面白い。名実ともに一流の人が今までの経歴とは違う分野で活躍する、というのはよくある。政治家に転身するのも、あるある。えっ?ゴリラが?と初めは思ってしまったけど、読んでいくとありかも…と思えてくる。自分の価値を認めてくれるところで生きたいと思うのは当たり前だし、自分のよさを活かして活躍できる場があるならそちらへ行くというのもわかる。

ありえない設定だとは思いつつ、読めば読むほどローズに共感していく。ローズの願いが叶いますように、と応援しながら読んでしまう。
ゴリラなのに?ゴリラだから?いや、ローズだから?
こんがらがりつつも、読めば読むどローズは人間だという気がしてくる。その一方、ローズは人間界から離れて自然の中でゴリラとして生きる方が幸せなのかな、とも考えてしまう。

読み進めるにつれ私が持っている価値観を激しく揺さぶられた。
そもそも人間らしく生きる権利ってなに?
動物にも人権(動物権?)ってあるの?
正義って人間だけのもの?
動物と人間の違いってなに?
人間の思考や感情を理解できれば人間?
他の人に手を差し伸べることができれば人間?

ゴリラが語るという設定だからか、文体のせいか、外国のミステリーやSFを読んでいるような感覚で一気に読み終えた。『アルジャーノンに花束を』を読んだ時の感覚に似ている感じがした。

まとめ

私が2023年に読んだ本の中で、確実にベスト5に入る。
自分の価値観を揺さぶられる作品は強く印象に残る。数年後に読んだら今回とはまた違うところが自分のアンテナに引っかかる気がする。



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