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読書の記録(25)『レペゼン母』 宇野碧

手にしたきっかけ

新聞の書評か何かで見て気になっていた本。梅農家?ラップバトル?という組み合わせが想像できず、ドラマ化したらおもしろそうな話かなあ、というぐらいの認識でした。かあちゃんが意外な才能を発揮して、息子にラップで勝つ!みたいな…。

読んでみてこの思いは見事に裏切られます。

心に残ったところ

途中までは、へっぽこな息子にかあちゃんが振り回され、その苦労をラップにのせたら思いのほかバズッちゃった…みたいな感じかなあ、と勝手に想像していました。第16回小説現代長編新人賞受賞作品がそんな単純なわけないですよね。ごめんなさい。

真ん中あたりまでは母(明子)に感情移入して読んでいたのですが、息子と向かい合うあたりから雲行きが変わってきます。あたりまえだけど、一つのできごとでも母の側から見るか、息子の側から見るかによって、それぞれの思いは違っています。それが少しずつ明らかになってきます。母が息子のことを思ってよかれと思ってやっていたことが伝わっていなかったり、息子も母に伝えることをあきらめていたり…。それをお互いが言葉にして伝えあう場がラップバトルなのです。

ほとんど知識がなかったラップの世界。腰パンのいかつめの若者がマイクを片手に独特のリズムでyo!yo!言ってる、ぐらいのイメージでした。

読んでいて、これって和歌を贈りあうのと同じでは?と思ってしまいました。和歌の世界は雅な感じでけんか腰ではないけれど、言葉の奥にある相手の気持ちを推し量ったり、返歌を送ったりするのは似ている。相手の言葉に対してアンサーをするのって、返歌そのもじゃない?

五七五七七のリズムで歌を詠むというのと、リズムに乗って韻を踏むというのも似ている。日本人って万葉のずっと昔から、普通にやってたんじゃないの?と思いました。

分かり合えないと思っていた親子がお互いを理解していく過程は読んでいて涙が出そうになりました。それぞれが思っていたことを言葉にしてぶつけることで、傷つきながらもお互いの本心に気づいていきます。

子どもが幼い時に親に求めることって、それ!?と思いながらも、そういうことが大事なのよね、と納得もします。仕事が忙しかったり、家庭の事情で難しいこともあるかもしれない。けれど、ある時期だけはその時間がやっぱり必要なのかと、はっとさせられました。

親子関係を一から作り直しているようにも見えました。かつて子どもだった人、子育てをした人、すべての人に響くところがある本だと思います。

まとめ

読んでいる途中で何気なく表紙を見ると、左手にマイクを持ってる!
読み始めたときは、腰につけている収穫した梅の実しか見えていませんでした。

レペゼンの意味も文中に説明があり、なるほどなあと納得。このタイトルも深いなあ。


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