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アメコミ感想① The Hood:Blood from Stones (2002)

Who the hell is The Hood?(ザ・フッドって誰なんだよ?)

 ヴィランといえば何が思い浮かぶだろうか。宇宙の征服を目論む悪役もいれば、銀行強盗をする悪役、キャラクターによっては、ヒーローに都合よく倒されるのために登場する悪役もいる。今回紹介する作品の主役はそんなヴィラン、ザ・フッドだ。

 ザ・フッドことパーカー・ロビンスは、悪魔から盗んだフードつきのマントとブーツを駆使して悪事を働く犯罪者である。マントは姿をくらますことができ(その間は息を止めないといけない)、ブーツには浮遊能力がある。この魔力の源となっているのが、闇の次元の支配者ドルマムゥだ。パーカーは強大な後ろ盾があるにも関わらず、裏社会を牛耳ることを企んでおり、あくまでも悪魔の力を使うギャングという立ち位置だ。

 今ではすっかり小悪党としてのイメージが染み付いてしまったザ・フッドだが、彼のデビュー作品はなんと、自分自身の名前がタイトルのコミック『The Hood:Blood from Stones』である。ライターのブライアン・K・ヴォーンとアーティストのカイル・ホッツらによって、2002年にMAXレーベル(成人向け)で刊行された。窃盗をして稼いでるチンピラの青年パーカーが、悪魔の品を盗んだことをきっかけに裏社会を成り上がろうとするという物語だ。

ヴィランによるヴィランの物語

 特徴的なのは、今作にはヒーローが物語に絡んでこないということである。そのため、パーカーは悪役としてではなく、1人の人間として深掘りされる。物語は、虚ろな目でよだれを垂らしたパーカーの母親の表情から始まる。彼の母親は認知症を患っており、自分の息子の名前さえ思い出すことが出来ない。さらに、彼の恋人は妊娠しており、母親の医療費と将来の子供の療育費の両方に追われる毎日を送っている。亡き父親はキングピンの手下で、劣悪な環境で育ったパーカーは、犯罪で金を稼ぐ方法しか知らない。親友のジョンとともに、泥棒をしてなんとか生活をしている。

普段は「かませ犬」的な扱いをうける小悪党でも、今作を読むことで、そんな小悪党も実は、過酷な生活状況の下で苦労しながらヴィラン業に勤しんでいるということに改めて気付かされる。小悪党ヴィランの滑稽で笑える側面だけでなく、シリアスで残酷な側面も映し出してくれる。むしろ別のコミックで見かけた際には応援したくなってしまうほどだ。

 そんな主人公に立ちはだかるのは、ポーランドからやってきたゴレムスキというマフィアで、ショッカーやジャック・オー・ランタンなど、ザ・フッドにとっては先輩のスーパーヴィランたちを雇っている。スラム街のチンピラだった青年が、いかにして他のヴィランたちと肩を並べるようになるのか、悪魔の道具と悪知恵を活かして、どう裏社会で生き抜くのか。とてもスリリングなクライムものに仕上がっている。

アートについて

今作はアートとキャラクターの親和性が高く、アーティストのカイル・ホッツが描くポップで濃いタッチのアートは、内容とも相まってグロテスクな雰囲気を漂わせている。陰影が細かく、はっきりと描かれており、煙などは躍動感のある”うねり”や”ぐるぐる”が特徴。そのため、ザ・フッドのビジュアルとしての主役ともいえるマントの描かれ方は、非常にカッコよく、おどろおどろしさまで感じさせる。細かい陰影はまるで血管のように浮き立ち、”うねり”や”ぐるぐる”はマントに常に動きを持たせている。一目でそれが悪魔のマントであることが分かるし、生きたモンスターのようにも見える。

最後に

ハードカバーの表紙に魅せられて、たまたま購入した本作だが、非常に面白く、結果として推しキャラが増えることとなってしまった。正直、ザ・フッドについてはまだまだ知らないことばかりなので、今後の活躍もチェックしていきたいところだ。ちなみにカバーを脱がせると、魔導書のような表紙が露になる。拾ってはいけない何かを読んでいるような没入感も堪能できるかもしれない(笑)



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