【小説】chapter13 渋谷にて
過去一番憂鬱で楽しみな金曜日がやってきた。エミさんとの待ち合わせは渋谷のロフト。大学は4時には終わっていて、僕は少し早めにロフトに着いて時間を潰していた。ロフトや東急ハンズは僕のお気に入りの場所で、よく一人でも行く。キッチングッズなんか大好きで一日中見ていても飽きない。一度しか使わないであろうキッチングッズを集めたキッチンを作りたいぐらいだ。そんな僕なのに、今日はあらゆる商品が目を滑って行くように流れて集中できない。ソワソワとして落ち着かなくて、ずっと階段のそばでスマホを眺めていた。
やはり15分ほど遅れてきたエミさんは、ゆったりした黒いジャケットとスカート、茶色のタートルネックという姿で小走りにやってきた。
「待たせてごめんねー」
「いえいえ、全然待ってませんよ」
「んー?それってイヤミ?」
「なんかこういう話前もしましたよね」
「そうかも」
と言って微笑むエミさんはすごく可愛い。子供っぽい笑顔に反してスーツと化粧のせいだろうか、いつもよりずっと年上に見える。なんで自分はパーカーなんか着て来たんだろうと少し後悔。
「とりあえず居酒屋に行きますか?」
「うーんとね、お店予約してるから」
「え?そうなんですか?」
「うん……行こ」
すごく自然な感じで手を繋がれた。色々考えてたことや不安が吹き飛んで、少ししっとりしたエミさんの手に気を取られてしまう。白くて、折れそうなほど細い手首と指。1/35のプラモデルじゃきっと再現できない綺麗な手だ。この手をずっと自分のそばに置いておくためには何をすればいいんだろう。とっくに諦めているはずなのに。
つづく
この物語はフィクションです
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