【読書】これは一つの人類史!青羽悠『幾千年の声を聞く』

私はだいたい年に80冊~100冊程度小説を読んでいます。
本の選び方は様々で、書店を回って、
「これ気になる!」
って本をジャケ買いするときもあるし、Twitterで読書垢の方々の読了ツイートを見て購入することも。
あとは、なにか賞を取った作品もよく読みます。
新人賞を取った作品を読むことが多く、特に小説すばる新人賞は一気に12作品読みました。

青羽悠さんという小説家

青羽悠さんはそうやって読んだ小説家の一人ですね。
デビューは16歳のとき。
小説すばる新人賞を歴代最年少で受賞したんです。
『星に願いを、そして手を。』という作品でした。
なんか、自分の夢とか大切にしたいものとかを問い直させるいい小説でした。
そこから気になっていたんですが、学生さんだからか、なかなか本が出てこない。
2022年の現在で、たぶん22歳くらいですもんね。
まだ大学生です。
2017年に二作目となる『凪に溺れる』がでてからしばらく間が空きます。
でも今年は、7月に、『青く滲んだ月の行方』が、10月にも、今回読んだ『幾千年の声を聞く』が発行されました。

ざっくりとしたあらすじ

『幾千年の声を聞く』は、地球とはどこか違う世界。
読み始めたところでそんな雰囲気を感じます。
この世界には、〈木〉というものが存在します。
それは、通常で考えられる木の大きさをはるかに凌駕し、人々は枝の上に家を建て暮らしてるんですね。
きっと幻想的ですごい光景なんだろうなと、ちょっと行ってみたい気もします。
そんなあり得ないような〈木〉が存在するのだから、その〈木〉はいつしか神聖なものとして扱われるようになります。
そして、〈木〉の声を聞く聖女が誕生し、サフォ教という宗教が生まれる。
さらには、そのサフォ教を中心とした守護国として、アズディアが誕生する。
物語は、最初の聖女が誕生する9608年から始まり、10813年、11368年、11622年、12851年に起きた出来事を描いていきます。

これは一つの人類史

上記したように、プロローグとエピローグを除くと、『幾千年の声を聞く』は、5つの時代を描いた小説となります。

1話目の「宿命」は9608年。
ここで最初の聖女が誕生。
「贖罪」ではそこから一気に1000年以上時代が進み、10813年に飛びます。
その間に、〈木〉と〈聖女〉を中心としたサフォ教という宗教が生まれ(9613年)、サフォ教の守護国となるアズディアが誕生(10463年)します。
「贖罪」では、アズディアの中心であるサン帝が、敵対しているイル国との関係を。
宗教と政治のからみも出てきて、本当にそういった歴史が過去にあったような気持ちにもなります。
さらに、11368年、11622年、12851年と3つの時代の物語があるわけですが、人類にとって、大きな転換点となる部分を描いています。
これだけ、完成された一つの世界観を作るのってすごいことだなって感じます。

出だしよりも、中盤から手が止まらなくなる

正直なところ、青羽悠さんのイメージが青春小説だったので、読み始めたとき、
「あれっ?」
という感想を持ったんですね。
ちょっと想像していたのと違う……と。
農耕を中心としたような、少し原始的な雰囲気な世界で始まり、
「なんだかなー」
と思いながら1話目を読み進めていました。
でも、話が進み、2話、3話と来ると、どんどんおもしろくなっていくんですね。
時代を思いっきり飛ばしている分、1話目からいったいなにがあったんだろうと、想像力を刺激されるし、次の話に入る前に、どれくらい年数が経っているのかを確認して、
「きっとこんな話だ!」
と予想して読み始めたり。
途中からは、
「いったい、どうやってこの小説を終わらせるんだろう」
と気になって仕方なかったです。
もしかしたら、序盤で、
「自分には合わないかも」
なんて思う人もいるかもですが、そこはもう少し読み進めましょう。
途中から読みたくて仕方なくなるでしょう。

宗教をもっと深堀しても良かったのかも

『幾千年の声を聞く』は、すごく私好みでおもしろかったです。
欲を言うのであれば、もうちょっと宗教的な部分を見せてもよかったのかも。
「宿命」は宗教としての入りみたいなところでしたし、「贖罪」は、宗教と政治・国家との関係みたいなところでした。
「逃亡」も、聖女が重要な役割を果たしつつも、あまり宗教色は出てきません。
あえてこれくらいのところでとどめていたのかもしれませんが、熱烈な信者がいるはずのサフォ教。
もっと、いろんなエピソードを見てみたい気もしました。
実際に、この世界観があれば、それだけでいろんな話が出てきそうなきがしちゃいます。

おわりに

ということで、青羽悠さんの『幾千年の声を聞く』の感想でした。
デビュー作の『星に願いを、そして手を。』がかなり好きだったので、そのあとの二作はそれに比べると、それなりな印象でした。
でも、ここにきて、一気に読みごたえのある小説を読ませてもらえたなと感じました。
この先の進路ってどうするんでしょうね。
作家としてこれからもどんどん素敵な小説を世に生み出していただきたいなって思います。
ではではまたー。


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