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アトツギの挑戦#4「革工房で子供とつながる!保育園アトツギが掲げる革育(かわいく)とは」

新規事業や組織改革に取り組む筑後地区のアトツギ経営者にフォーカスする「ネクストリーダーズ」
第4回は、柳川市のアトツギさんを取材しました。主人公は、保育士の資格を持つ革細工職人。一見、関連のなさそうな2つの領域を掛け合わせるユニークなビジョンを紹介します。



「最初は周りのアトツギ仲間からも大反対されました。『何がしたいの?』って(笑)」

正直なところ筆者にとっても、取材前は革製品と保育園が全く結び付かなかった。

革工房 Campana(カンパーナ、柳川市)は、西鉄矢加部駅から徒歩3分。
地元の子どもたちが通う「ひまわり保育園」の敷地内にある。

オリジナルブランドは店名と同じCampana(スペイン語で「鐘」の意味)
工房には、代表の井上史也さんが作った革製品が並ぶ。
SNSでも積極的に発信を続けており、ECサイト等を通じて全国から注文が入る。

井上さんは、ひまわり保育園のアトツギ。
大学で保育を学び、保育士として同園で働いていた時期もある。

(大学を卒業後、久留米市内で保育士に。2018年に家業へ戻り、4年間在籍した)

現在はひまわり保育園から籍を外し、Campanaの経営をメインの仕事としている。
ただ、保育の領域から完全に身を引いたわけではない。障害のある児童を対象にした「放課後等デイサービス」の施設を今月オープンさせ、施設長に就任したばかりだ。

あくまで、保育とレザークラフトの二刀流を貫く。ゆくゆくは5代目の園長として家業に戻るつもりだ。(親族内では3代目)

井上さん
「祖父が作った保育園なので戻らないといけない。高校くらいからそう思っていました」

園児の一言がきっかけで、趣味が仕事に


元々、レザークラフトは趣味の一つだったと話す井上さん。
それを事業化しようと決意したきっかけは、受け持っていた年長児と交わした何気ない会話だった。将来なりたい職業を発表し合っていた際、こんな質問を投げかけられた。

👦「先生は何の仕事をしているの?」

井上さん「先生の仕事は、保育園の先生だよ。楽しいよ」

👦「うそだ。先生の仕事、楽しくなさそう」

その言葉にハッとさせられた。

井上さん
「子供たちに仕事の楽しさを言葉で伝えてきたつもりでしたが、全然伝わっていなかった。そこで、子供たちが目で見て『仕事楽しそう』と思えるような別のことをやらなければと感じました」

ところが、働く楽しさを伝えるために始めたレザークラフト事業も、当初は周囲からの理解がまるで得られなかった。

『本業に集中しろ』『ビジネスにはならない』

井上さん
「そう言われると逆に燃えるタイプなので(笑)どうにかビジネスにしてやろうと思いついたのが、ランドセルのリメイクでした」 

休眠ランドセルを、実用品に

小学校6年間の思い出が詰まったランドセル。卒業後に使わなくなったものを、Campanaで小銭入れなどの実用品にリメイクするビジネスだ。

工房が預かってミニチュアのランドセルに作り変える等のサービスはよくあるが、井上さんは子供自身が参加し手を動かすワークショップ形式にこだわる。

井上さん
「ただ、趣味で革細工をやっている人間に6年間の想いを預けられるかというと、そうではないと思ったので、まずはブランド力をつけることから始めました」

ランドセルリメイクを始める前に、まずは自分が好きだったアウトドア用品の小物を作って販売することから始めた。

(タンブラーケースは大人気)

オーダーメイドの一点モノを作るサービスも好評で、SNSにも注力したことで全国から注文が殺到するようになった。
現在では、型が決まった既製品の製作は別のスタッフにお願いするほどに。

井上さん
「手先の器用な人が『Campanaに携わりたい!』と思ってもらえるようなブランドに育てて、柳川を盛り上げていきたい」

ついに、ランドセル企画が始動!


そして今日、目標だったランドセルリメイクのワークショップ第1回が開催され、7名の中学生が参加した。みんな井上さんが保育士として受け持った子供たちだ。

6年間の役割を終えたランドセル。井上さんのレクチャーを受けた子供たちの手で、再び革製品としてよみがえった。

3月3日・第1回では、ペンケースやコインケースを製作した。
(料金は加工費とレクチャー料合わせて2万5,000円。現在、適正価格を模索中)

井上さん
「レザークラフトを通じて卒園した子供たちが帰ってくるような保育園にしたい」

Campana立ち上げ時に描いたこのイメージは、4年目で形になった。

井上さん
「レザークラフトは手先を使うので、放課後等デイサービスに通う障害を持った子供たちに訓練の一環としても取り入れていきます」

「革育(かわいく)」


Campanaを立ち上げる際、「子供のように成長していく革ブランドに」という願いを込めて井上さんがつくったコンセプトだ。
初めは理解を得られなかったレザークラフト事業だが、「革細工が子供たちを育てる」という新たな循環も生まれてきた。

井上さん
「ランドセルリメイクと保育園を掛けていくことで『あそこの園長ぶっ飛んでる』と言われたい(笑) 遠くても預けてみたくなる保育園にしていきたいです」

型破りな保育園アトツギの挑戦は、始まったばかりだ。

モトムットは筑後地区で新しいチャレンジを続ける事業者を応援しています。


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