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気をつけ!前へならえ!!

今回は備忘録として最近読んだ本の要約や共通点について色々と書いていきたいと思います。もしかしたら解釈にズレががあるかもしれませんが、出来るだけ事実に沿ってお伝えしたいと思います。

今話題の本を二つ紹介いたします。安宅さんの『シン・ニホン』と宇野さんの『遅いインターネット』です。

ざっくり私の主観で分けると、『シン・ニホン』は日本の経済、『遅いインターネット』は政治をどうするかという内容でした。

では、順番に紹介していきたいと思います。

シン・ニホン

まずは『シン・ニホン』から。

概要
AI×データの発展により、時代は多面的に「確変モード」に突入した。目まぐるしく動く社会の中、本書は以下の問いをひとつなぎにして答える。産・官・学の全領域を横断しファクトベースで切り込む、著者渾身の書き下ろし!意志なき悲観論でも、現実を直視しない楽観論でもない、建設的(Constructive)な、「価値ある未来のつくり方」。
目次
1章 データ×AIが人類を再び解き放つ -- 時代の全体観と変化の本質
2章 「第二の黒船」にどう挑むか -- 日本の現状と勝ち筋
3章 求められる人材とスキル
4章 「未来を創る人」をどう育てるか
5章 未来に賭けられる国に -- リソース配分を変える
6章 残すに値する未来

どちらの本でも平成はぼろ負け・もしくは失敗したプロジェクトと評価しています。その理由は世界中がここ数十年アップトレンドの中、日本はずっとGDPを伸ばせずにいるからです。

一人あたりGDPランキングは30位前後で(G7中6位)、1960年頃の水準に戻ってしまっている。-P68

2019年の世界の時価総額ランキングでは、GAFAをはじめとする米国のテクノロジー企業が上位を占め、その次にテンセント、アリババと中国企業が連なります。日本のNo.1はトヨタですが、世界ランキングはなんと47位。なぜそうなったのか。。
経済を牽引する富の方程式が変わったと安宅さんは指摘しています。

2017年春、Teslaが世界最大級のクルマ会社GMの企業価値を追い抜くというニュースが流れた。(中略)販売台数でいえば、GM、トヨタ、VWの3大グループの130分の1以下なのに。-P53

資本力(モノ・カネ)を持つオールドエコノミーは、構想力×テクノロジーで勝負するニューエコノミー (GAFAetc.)に変わりました。何かを持っている時代から「妄想し、カタチにする」ことが富に直結する時代になったと述べています。

私が気になったのは、日本と米国の産業別GDP成長率です。日本は全セクターの衰退を情報通信産業が穴埋めしてかろうじてGDPを保っていたのに比べ、米国は8-9割のセクターがGDPの伸びに寄与していたことです。米国は情報通信に限らず多くのセクターでイノベーションが起こり、成長しています。つまりソフトの時代に突入したと言えども、ハード系産業の伸び代はまだまだあるんですね。

さて、この20年で日本は後塵を拝していますが、1853年の黒船が到来してから驚異的なスピードで欧米の文化や技術を取り込み、世界の列強に肩を並べたように、日本は巻き返しのチャンスはまだまだあると言っています。

攻殻機動隊、ドラえもん、鉄腕アトムと日本の妄想力はピカイチ。あとは「カタチにする力」が揃えばこの先まだまだ成長の余地?

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若い天才を育て、応援する仕組みを作ることがこの先の日本の成長の鍵となります。天才とは上記のような枠に当てはまらないが何かに突き抜けている人材です。

確かに高度成長の際には徹底的に標準化して品質の良いものを作っていればGDPは成長はしましたが、富の方程式が変わった現在ではこれまでの勝ちパターンは通用しません。

これからの未来に必要な能力=言葉の力(語学力+弁論術)×問題解決能力×データリテラシー(テクノロジーを使い倒す力)。この力が「妄想し、カタチにする」力の根幹です。そのためには産学官連携のエコシステムの整備が必要です。

ここからザクっとまとめますが、エコシステムを作るためには、現状の国家の予算配分を少しいじる必要があります。社会保障や年金に使われているお金(これまでの日本を作ってきた人のための費用)をこれからの日本の未来を作る人に投資すべきだと。

数%程度のリソースのバランスの話であり、経営努力いによりQOLを下げるコトなく(できれば上げつつ)、未来を生み出すリソースを張ることは可能なはずだ。財布は1つだ。現状のリソース投下をみんなで直視しよう。-P334

そして最後は、安宅さんの未来構想へと話が進みます。これから避けられない未来、つまり人口減少による経済成長の終わりに対する新たな選択肢として『風の谷構想』を提案しています。

『風の谷構想』とは、一局都市集中に頼らない、地方分散型のテクノロジーを活用した自然との共存をベースにした街づくりです。環境に配慮しつつ、人間らしい豊かな暮らしの実現をすること。これが新たな局面に突入する課題解決国家の未来のあるべき姿だと結論づけています。

未来は目指すものであり、創るもの。-P348

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『遅いインターネット』

概要
インターネットによって失った未来をインターネットによって取り戻す。
インターネットは世の中の「速度」を決定的に上げた。しかしその弊害がさまざまな場面で現出している。世界の分断、排外主義の台頭、そしてポピュリズムによる民主主義の暴走は、「速すぎるインターネット」がもたらすそれの典型例だ。インターネットによって本来辿り着くべきだった未来を取り戻すには、今何が必要なのか。気鋭の評論家が提言する。

さて、次は『遅いインターネット』です。こちらは『シン・ニホン』に比べるとファクトが少なく、あくまで著者の主観的な世界の中で話が展開し、論理の飛躍が大きいなという印象でした。

平成の30年で、この国の経済は相対的に大きく減退している。(中略)経済的な豊かさの国際指標とされる1人あたりのGDPにおいてこの国は恐るべきことに世界18位までに転落しているのだ。-P12

安宅さんと同じように平成については、失敗したプロジェクトと結論付けています。またその一例として今回の東京オリンピックを挙げています。1964年のオリンピックは新幹線の開通や都市高速の実現など、未来を描くグランドビジョンがありましたが、今回の東京オリンピックでは、ロゴの盗作問題から始めり、様々なプロジェクト変更を余儀なくされ、これから未来を予感させるワクワクした構想がまるでありません。

この優秀な、と言ってよい、一見過不足のないクロージングに対して僕が物足りなさを感じるとすればそれは、未来のなさ、だ。(中略) 僕にはあのクロージングが、同時にもはや日本には過去にしか語るべきもののない国になってしまったことを告白しているように思えたのだ。-P23

リオデジャネイロで行われた夏季オリンピックの際に、次回東京開催オリンピックの引き継ぎ式(クロージング)の印象を上記のように振り返っています。

いまこの国のインターネットは、ワイドショー/Twitterのタイムラインの潮目で善悪を判断する無党派層(愚民)と、20世紀的なイデオロギーに回帰し、ときにヘイトスピーチやフェイクニュースを拡散することで精神的な安定を図る左右の党派層(カルト)に二分されている。-P20

愚民は、フォローしている人や知識人の意見をあたかも自分の意見としてリツイートするような人々。自分の意見を持っているようで実は何も考えていない。情報の内容を確認するとこなく、「人」で判断しているような感じでしょうか。

カルトは、例えば韓国嫌いのネトウヨやバランスにかけたスピ系論者です。多角的で客観的な視点を欠如した情報取得による偏った考え。フィルターバブルの罠に陥った人々です。

ちょと話は変わりますが、何年か前に、カルト的な自己啓発セミナーに参加したことがあります。内容は知らず、仲の良かった友達がどうしてもというので、その友達を信じて参加しました。外部との接触を絶たれた閉鎖的な状況で、暗闇の中お互いを罵倒したり、徹底的に怒られたり。セミナーの最後、暗闇で目を閉じるように指示されました。そして再び目を開けた瞬間、誘ってくれた友人が「おめでとう!」と花束を持って目の前に立っていました。私はパニックになり、逃げました。あの時あそこに集まっていた人たちは何か見えない呪いを掛けられたように盲目的にセミナー講師の話を有り難く聞いていたのをふと思い出しました。

現在のインターネットは人間を「考えさせない」ための道具になっている。-P184

インターネットによって多くの情報が解放され、いつでもどこでも知を共有することが可能になりました。しかしながら共有された情報を何も考えずに鵜呑みにしてしまう。検索アルゴリズムは私たちにとって都合の良い情報を運んできてくれます。何かついて悩んだら、自分で考えることよりも、ネットの中の「答え」を読んで安心を得る。果たしてそれでいいでしょうか?

そこに対して筆者が提案するのが「遅いインターネット」です。

この国を包み込むインターネットの(特にTwitterの)「空気」を無視して、その早すぎる回転に巻き込まれないように自分たちのペースでじっくり「考えるための」情報に接する場を作ること。-P185

自分で考えて、書く技術を習得する場を作ることで、インターネットや生きる上でのリテラシーを身につけようと提案しています。この時代に生きる上で自由を獲得するための手段です。

この自由を行使することで僕たちは既に存在している問いの答えを探すだけでなく、あたらしく問いそのものを生み出すことができる。-P205

多角的な視点で、正しい情報を取捨選択し、自らの経験や思考と掛け合わせることで、新たな問いを生み出す。答えが飽和している時代に求められることは、自ら問いと生み出す能力という結論は、近年のアート系ビジネス書でも多く取り上げられています。

今回は便宜的に問いと結論の中間部分をごっそり抜いて要約しました。メディアの変遷による「モノ」から「コト」、「他人の物語」から「自分の物語」、「仮想現実」から「拡張現実」へという中間の流れの部分は、現代の現象を把握する上で非常に有効な考えでした。断定的で、ツッコミ箇所は多くありましたが、独特な視点で時代を切り抜いく内容は一読の価値はあると思います。

気をつけ!前ならえ!!

令和という新しい時代を迎え、もうすぐ一年。これまでに異常気象やパンデミックに伴う世界株価の暴落など、予測不可能な事態が連続で起こっています。それらの事象から「これからどう生きるのか」を問われてるなと日々感じます。

3/11にこちらの動画を見ていた際に安宅さんと落合さんが「気をつけ!前になれえ!!」という日本の教育を即刻変えたほうがいいと声高に叫んでいました。まさに現状の日本教育は徹底的に品質管理されたロボットを生み出すための仕組みであり、ご多分にもれず、私もその中で生産されたロボットの1人です。

私はこれをある種の「戦後の呪い」だと感じています。小学校から大学までの13年間はまさに「気をつけ!前へならえ!!」の連続でした。問いを立てるより答えを埋めることに必死でした。

宇野さんは、「インターネットが人間を考えさせなくしている」と指摘していましが、そもそもの日本の教育が考えさせないための制御システムだと私は考えています。

私の脳と身体に染み付いている画一的な発想や答えを求め失敗を恐れる思考は13年間徹底的に思想統制をされた結果です。それはなんとなく自覚していますし、人と違うことが価値になる時代において、その「呪い」は足枷になると危惧しています。

こんなことを言うと、「気をつけ!前にならえ!!」と言った時にちゃんと指示に従う人がいるから組織がちゃんと回るし、指示に従わずに自分勝手な人が大多数になったら国はめちゃくちゃんになるじゃないか!!、とご指摘を受けるでしょう。

しかしながら、冷静に考えてみると、そのご指摘自体が私たちの中にある統制教育の賜物である危険性を孕んでいるのです。

「気をつけ!前へならえ!!」を毎日させられたら、なぜしないといけないのか考える隙もなく骨髄反射で動くようになります。恐らく私たちを取り巻く環境の中には多くの「気をつけ!前へならえ!!」が存在しています。

イノベーションや世紀の発見は、当たり前すぎて透明になっている前提条件を疑い、問いを立てることで初めて発見できるのかもしれません(解像度の荒い表現になりますが)。

ただ日常に溶け込んだ偏見や固定概念を疑うのはそう簡単ではありません。そこで私から3つ、ご提案したいと思います。

一つは旅。自分たちが普段住んでいる環境から飛び出すことで初めて自身を取り巻く文化や常識に疑問を持つことができます。

一つは人。特に変わった人。自分では理解できない人はそれだけ自分の世界を揺さぶってくれる人です。これが多様性の価値でしょうか。突き放すではなく、違いを理解しようとするその先に自分の偏見が見えてきます。

そして最後は、リベラルアーツです。特にアートや哲学は常に世界を疑ってみています。世界が盲目的に信じている常識に対して自らの問いをズバッと表現するのがアートであり、そもそも疑うことから世界を見つめるのが哲学です。その方法論をなぞることに何かヒントはあるかもしれませんね。


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