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【退職エントリ】32歳、編集者に転身します。

こんにちは。岡田基生です。

2024年5月より、ビジネス&実用系出版社の「クロスメディア・パブリッシング」に入社します。ポジションは書籍編集者です。

岡田基生(おかだ・もとき)
編集者・独立研究者。修士(哲学)。1992年生まれ、神奈川県出身。ケルン大学哲学部への交換留学を経て、上智大学文学部哲学科を首席卒業。同大学院哲学研究科で京都学派を研究。修了後、IT企業を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(株)にて代官山 蔦屋書店 人文コンシェルジュ 兼 人文・ビジネス フロアマネージャーを経験。2024年5月よりクロスメディア・パブリッシング(株)に入社。

前職は蔦屋書店のコンシェルジュ

これまではカルチュア・コンビニエンス・クラブの社員として、代官山 蔦屋書店で働いていました。最初の担当は建築・デザインフロアで、のちに人文・ビジネスフロアに異動しフロアマネージャー兼コンシェルジュを務めました。

店頭では生活提案のプロフェッショナルとして、書籍の仕入れと展開、接客販売、選書フェア、企業コラボ、イベントの企画運営、蔦屋書店のPodcastやイベントでのトークを行っていました。

とりわけ任されていたのは企画のプランニングです。フェアやイベントを計画する段階で、著者、編集者、コラボ企業の方々と「何のために、誰のために、どんな体験を提供する企画なのか?」じっくり話し合いを重ねながら進めました。

「¿Es dorada? JINS 2020 Spring/Summer」(2020年)ディレクション&選書 担当

こうした「対話を通じたコンセプト構築」を行うことで、並べる本のセレクトや展開ディスプレイが変わってきます。抽象的なアイディアを具体的なコミュニケーションに変換していくプロセスは、大学院で哲学を専攻していた環境を思い出させます。

また、お店の外では雑誌への寄稿やWEBメディアでの連載、イベント登壇、課外授業などを通じて「本の読み方」を広く提案してきました。

蔦屋書店を離れる理由

蔦屋書店での仕事は肌に合っていたようで、夜間のフェア設営や短期間での企画ローンチも楽しく行っていました。ですが、だんだんと「ここに置ける本を一から作りたい」という気持ちが高まっていきました。

どうやったら一冊の本の良さが伝わるか、立ち止まって手に取ってもらえるか、フィットする読者に届けられるか……。日々、コンシェルジュとして考えながら過ごしていました。そしてついに、これからの時代に向けて書店の可能性をより一歩進んで探究するために「本を作る仕事」に就こう、と決心しました。

それでも本が大切

ただ、書店業界や出版業界はますます厳しい状況にあるのも事実です。今後のキャリアを考え始めたときには、これまでの企業コラボの経験を活かしてコンサル業界や広告業界に移ることも検討しました。

それでもやはり本に携わる仕事にこだわったのには、理由があります。

大学院を卒業したあと、新卒で就職したのはIT企業でした。私は基本的に新しいもの好きで、情報伝達のスピードや効率も重視します。WEBメディアで連載をしていたときも、「いま必要な情報をいま届ける」を意識していました。

しかし、インターネットの時代、AIの時代だからこそ、「本が担うべき情報伝達の役割」も浮き彫りになってきた実感があります。

SNSやWEB記事の特色は短さです。読むときのスピードや手軽さが求められる場面では、電子媒体が適しています。それに対して本は、200~300ページほどのボリュームがあります。ひとつの体系がまとめられていることで、まるで半年間の「講義」のように私たちにその分野の知識を与えてくれます。

インターネットもAIもない時代、本は多くの役割を担っていました。今はそうではありません。しかし「新しい視点を自分にインストールすること」を目指す読者にとっては、本を読むことの価値はむしろ上がっていると言えます。

本は、自分の思考や行動のシステムを刷新していくための「ツール」です。デジタルメディアと本が提供する価値の差異は、今後さらに際立っていくでしょう。どちらかを排除するのではなく、これからは「棲み分け」が大切です。AIがさまざまなプロセスを代行してくれる時代でも、そのAIに問いかけを行い、AIのアウトプットを吟味するのは私たちの仕事だからです。そこで必要になるのは、自分自身の「生きたシステム」のアップデートではないでしょうか。

未経験から編集者デビュー

これまで毎日のように新刊に触れる仕事をしてきたとはいえ、32歳でまったく未経験の職種につくには覚悟が必要でした。

けれども、「編集者」という仕事はきっと自分の天職になる、という確信があります。さまざまな業務を受け持った経験をふり返ってみて、私の一番の強みは「システムを構築する力」だと気がついたからです。

新卒で入ったIT企業で担当した法人向けソフトウェア企画。それより前の大学時代、修士課程まで研究した哲学。私がもっとも意欲をかき立てられるのは、「知の体系」を構築するプロセスを思考することでした。蔦屋書店で働いていたときも、棚づくり、選書、フェアやワークショップの設計をしながら、どれも「気づきが生まれるシステム」の体験を提供する仕事だと感じていました。

これをよりいっそう突き詰めていこうと決めたとき、祖父の顔が思い浮かびました。かつて旅雑誌の編集長として山登りブームを巻き起こした祖父がやってきたことは、編集を通して「社会のシステムを編み直していくこと」だったのではないか。そう思い当たったとき、自分の関心と能力が結び合わさって像をなしたように感じました。

どんな本をつくるか

これからは編集者として、「社会をもっと面白くする、もっと豊かにするためのツールとしての書籍」を届けたいと思っています。

例えば、こんなテーマの本を考えています。

・社会課題にアプローチする事業を考えるとき、「哲学」が役に立つポイントは?
・「スーツにネクタイ」の時代が終わりつつあるいま、なにを着て働く?
・ひとの心に働きかける「ストーリー」を描く方法を文学から学ぶ

経営者、現場スタッフ、思想家、研究者、アーティスト、デザイナー、エンジニア……。さまざまな人たちとコラボレーションしながら、ジャンル横断的なビジネス&実用書を編集していきます。

その他やりたいこと

会社の外では、独立研究者として活動しています。最近のメインの研究対象は宮沢賢治です。

宮沢賢治の作品や生き方には、エコロジー、リベラルアーツ、ウェルビーイング、地域文化など、現代の社会課題にアプローチするためのヒントがつまっています。

しかも、実はおしゃれなグルメが大好物で多趣味だった宮沢賢治。たくさんの「幸せ」を周囲とわかちあう、「ともに楽しむ人」としての人物像にフォーカスを当てた単著を準備中です。

また、哲学の大学院では「京都学派」の研究をしていました。現在は、日本の哲学・思想を最先端の組織論やブランディング・メソッドに活かす研究を行っています。

人文書院の『批評の座標』に寄稿した文章「「戦場」から「遊び場」へ――西田幾多郎と三木清の関係性を手がかりに「批評」の論争的性格を問い直す」は書籍化予定です。

ご連絡先

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イベント、講演、ラジオ、寄稿などのご依頼もお待ちしております。

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