コンテンツマーケティングを因数分解する
Reproでマーケティングをやっている實川(じつかわ)と申します。以前MarkeZineさんでコンテンツマーケティングをテーマに登壇の機会をいただきまして、その際に語ったことを改めて整理するnoteです。
登壇の内容について、ありがたいことにレポート記事を作っていただきました! 【理論編】【実践編】【Q&A】という3部構成です。 このnoteでは、このまとめにも収めきれなかった内容を解説していきます。
さて。コンテンツマーケティング、やってますか?
正直、ムズイですよね。
最初からぶっこみますが、世の中のコンテンツマーケティング、ぶっちゃけ6~7割くらいは成果出てないんじゃないかというのが長年関わってきての感想です。
なぜコンテンツマーケティングは失敗するのか
僕の考える失敗理由は大きく分けて2つです。
①成果が出るまでやっていない
②戦略を間違えている
これに加えて「施策の精度が低い」というのもありますが、それは当たり前すぎるのでこの際省略してしまいます。
①はよく言われる、コンテンツマーケティングは時間がかかるというやつです。これは本当にその通りです。半年でわかりやすい成果が出たらかなり早い方。しっかりコミットした状態で1年は見ておく必要があります。ただ、時間はかかっても正しい戦略と施策を積み重ねれば成果は出ます。コンテンツは資産の積み上げになるので、中長期で見れば見るほど、最高にコスパの良いマーケティング施策になります。
これに、「②戦略を間違えている」が混じっていることが厄介です。正しい目線で見なければ、まだ成果が出ないのか、そもそも成果の出るやり方をしていないのかが判断できません。
さらに、コンテンツマーケティングベンダーが、やり方の間違ったコンテンツを無理くり販売し、「時間がかかるんですよ、、」と言いながらお茶を濁し続けているというのが業界の悲劇だったりします。これ、本当に多いからつらい(もちろん真面目なベンダーもたくさんいます。前職のナイルとか)。
…………と序盤からちょっと筆が熱くなってしまいましたが、このnoteは②の「正しいコンテンツマーケ戦略とはなんなのか」を判断できるようにし、成果がでない長期投資という悲劇を避けるための記事です。
コンテンツマーケティングを因数分解する
あらゆるマーケティング手法に言えることですが、施策を成功させるためには勝ち筋を見出す必要があります。
検索ニーズが無いところにSEO記事を沢山作っても意味がないですし、情報が溢れているレッドオーシャンに当たり障りのない記事を作っても見られるわけがありません。
コンテンツがだんだん飽和しつつあるというのは、JADEの伊東さんも最近触れられていました。
また、コンテンツからのCV設計やSNSの活用方針、プラットフォームの選択、専門性の持たせ方など、様々な視点で考えるべき要素があります。こうした要素が選択されるべき理由について、分解して整理したものがこの「因数分解」の表です。
これらの項目を総合的に判断し、「こういう戦略で、こういう戦い方なら勝てる」というイメージを作り、コンテンツ作りに入っていく流れです。おそらくこの表を眺めるだけでは分かりづらいと思うので、以下で一つずつ説明していきます。とその前に、前提。
前提: コンテンツは記事型オウンドメディアのテキスト記事だけを指すものではない
これも勘違いされがちですが、コンテンツマーケティング=オウンドメディアマーケティングではありません。サービスページのコンテンツ、SNSやニュース媒体などのアーンドメディア、ペイドメディア、従業員のSNSからリアルイベントまで、全てをコンテンツとみなして取り組むほうがフラットに施策を組むことができます。狭義のオウンドメディアだけでコンテンツマーケティングを完結させようとすると難易度がグッと上がりますので、注意しましょう。
商材特性① ダイレクトCVの有無
オンラインでCVして購入まで行けるサービスなのか、ライトコンバージョンを挟んでから対面(またはWeb面談、電話等)を経て購入完了するサービスなのか。B2Cで単価の低いサービスは前者、B2Bや不動産など単価の高いサービスは後者になりがちですね。
CTA(Call to Action=アクションボタン)をどう置くかが変わってくるのはもちろんですが、取り組みに大きな影響を与えるのは社内への成果の示し方が変わるという点です。ダイレクトCVありのサービスであれば費用対効果が明確に示せることになりますので、早期から直接CVをガンガン狙っていくべきです。
一方で実質的な購買が遠いサービスの場合は、ライトなリードを多少取ったところで大きな影響を及ぼさなかったり、ニーズが顕在化していないためCVが発生しづらかったりすることがあります。
そんなときにオススメなのが、作成したコンテンツを他の場面でも使うことで、トータルでの価値を上げる作戦です。営業や採用の現場では、自社や取り巻く環境をうまく説明するコンテンツはつねに求められています。色々な場面で利用できるようなコンテンツを作成することにより、社内に味方が増え、長く取り組むことができるようになるという考えです。
たとえば、Reproが提唱する「カスタマーエンゲージメント」について海外の文献も含めてリサーチした記事は、SNSでの反響もさることながら社内からの評判がよく、公開から数ヶ月経っても継続的にプレゼンの中でも引用される記事となりました。
コンテンツづくりはいずれにせよ手間のかかる作業ですから、他部門がいま何を顧客に届けたがっているのかという視点からリサーチしていくと良いものが生まれるかもしれません。
商材特性② 関与度の高低
「関与度」というのは、その商品ジャンルに対するユーザーの関心の高さやこだわりのことです。関与度は、次のような項目の有無が関係していると言われています。
①当該商品カテゴリーに対する興味・関心
②商品リスク(商品が期待通りの働きをしない可能性と、その損失の大きさ)
③購買リスク(誤った選択をする確率と、その損失の大きさ)
④商品に関わる喜び・愉快感
⑤自己像への影響度合い
おおむね高額商品や嗜好品は関与度が高く、低額商品や日用品は関与度が低くなりがちです。
関与度が高い商品は、失敗したくないので慎重な情報探索が発生します。必然的に検索ニーズが生まれ、SNS上でも情報発信が求められるケースが増えます。関与度が高ければ、サービスにまつわるダイレクトな情報発信が必要になります。
高関与度製品のコンテンツで忘れがちなのは、サービスサイトやブランドサイト、口コミ比較サイトなどの情報拡充です。情報があればあるほど検討がしやすくなるため、まず拡充できる情報をきちんと出すということが重要です。
また、高関与度の商品は、えてしてサービスの違いがわかりにくいということがあります。実際に使ってみなければわからないので決断がしづらいのです。そこで、サービスの中の人がインフルエンサーとなるという手段が使えます。「サービス実態はわからないけど、この人がいるならば」という新しい選択軸で選んでもらえるようになります。特にB2Bなどの狭い業界で、SNS利用が活発であれば有効です。
Reproでは、CMOの中澤をインフルエンサーに立ててYou Tubeチャンネルを公開。Twitterも連動して動かしています。(まだまだ道半ばで、登録者数もフォロワー数も少ないですがご容赦ください……! コンテンツの面白さは保証します。)
一方、関与度が低い商品は、わざわざ調べたりということがないので能動的なコンテンツ接触は期待できません。こうした場合、一般的にはマスマーケティングによるアプローチが効果的ですが、デジタル上ではSNS上のキャラクターに人格をもたせることにより、軸をずらして興味を持ってもらうなどのアプローチも考えられるでしょう。
三井住友カードさんも、Twitterアカウントの人格がとても出ていますね。
関与度が低いサービスでの注意点は、サービスに近いけれども直接関係のないキーワードでSEOをひたすら行ってしまうことです。例えば、「衣替え」というキーワードで上位表示はできたけれど、衣替えの目安時期を伝えたところで満足して離脱されてしまった……とか。
アクセス数は増えたもののブランドには関心を持ってもらえない、というのは悲劇ですが、このパターンは本当によく見かけます。やるのであれば、増やしたトラフィックをブランドの興味に転換するためのうまい仕掛けもセットで考える必要があります。
商材特性③ 継続利用の重要性
いわゆるサブスクリプションサービスや、リピート重視のサービスにおいて該当します。「所有から利用へ」という消費の移り変わりを背景に、ユーザーの活用を促進し、継続利用してもらうという観点は、急速に重要度が増しています。
継続購入系のサービスであるにも関わらず、新規獲得にのみ注力して継続利用者向けのコンテンツが用意できていない企業は多いのではないでしょうか?
Reproでは、Plutoというユーザーコミュニティを運営し、その中でReproの活用事例や相互のノウハウ共有を行える場を用意しています。こうしたイベントや相互共有の場も、コンテンツと捉えて良いかもしれません。
ユーザーコミュニティ「Pluto」の様子(コロナ前)
コンテンツの展開は基本的には新規獲得が優先で良いですが、どこかのタイミングで獲得会員むけのコンテンツを発信していっても良いでしょう。あるいは、新規向けの記事だと思っていたコンテンツが、実は既存会員も求めている情報だった……なんてこともあります。メールでコンテンツを配信するだけでも満足度は上がるかもしれません。コンテンツの活用面を増やすという観点は、ここでも役立ちます。
ターゲットの環境① 情報の希少性
続いてターゲットの環境です。そのジャンルにおいて、情報の希少性があるかどうかを考えます。例えば新宿の美味しいランチに関する情報は山ほど存在するので、後発で価値を出すのは難しくなります。なので、極端ですが「ランチ情報をまとめてユーザーを集めよう!」みたいな戦略はいくら頑張っても実りづらいと言えます。
一方で、例えば中国の最新DX情報とかは(最近発信者も増えていますが)情報の入手が難しく、発信者のバリューは高くなります。もしあなたがDX支援を行う立場などであれば、こうした情報発信ができれば有望なリードを集めやすくなるかもしれません。
情報の溢れたジャンルではコンテンツマーケティングはやりづらいですが、その環境の中でもターゲットに届ける方法はあるのでしょうか? 例えば、新宿のランチをネタに考えてみると次のような取り組みが挙げられます。
・切り口をずらす(例: 新宿の飲食店の歴史的変遷を追う)
・プラットフォームをずらす(例: You Tubeやstand.fmで発信する)
・ターゲットを絞る(例: 歌舞伎町深部で美味しいランチ)
・ファクトのレベルを上げる(例: 新宿でランチしている1万人にアンケートを取った)
・圧倒的にわかりやすくする(例: 新宿のおすすめランチマップをインフォグラフィックにまとめる)
・発信力を高める(例: 有名人と一緒に取材する)
例は適当です、、、新宿ランチというテーマに限界がありましたねw
ポイントは、こうした工夫を凝らして届けることが、継続してできるかどうかという点です。後発がレッドオーシャンで戦うなら、圧倒的な工夫アイデアか、ひねりを持続するだけの体力が必要になるということは知っておきましょう。
ターゲットの環境②③ 検索ニーズの有無、SNS利用の有無
これはそのまま集客経路をどうすべきかというテーマに繋がります。当たり前ですが、検索ニーズがない領域でSEOでは戦えませんし、ターゲットがSNSを活発に使っていなければSNSマーケティングは厳しくなります。
検索であれば、できる限りプロダクトに近いニーズが検索キーワードとして存在するか。すなわち、直接的なCVに引き込めるチャンスがあるか、ブランド認知につながるような強い課題感がキーワードのなかに存在するか。ふわっとした検索キーワードだけを集めても、あまり効果は出ないことが多いです。
SNSであれば、人々が関心をもって口コミを書き込むような商品・ジャンルであるか。極端な例では、コンプレックス商材はSNSとは明らかに相性が悪いですね。自分のコンプレックスは発信しにくいため。
検索がされにくい領域であればSNSで、SNSで戦いにくい領域であれば検索で、それぞれのやり方を考えてみましょう。もちろんどちらも相性が悪い商材ジャンルは存在します。その場合は無理にコンテンツマーケティングをするよりも、マスマーケティングやオフラインのダイレクトアプローチを磨き込んだほうが良いかもしれません。
マーケティングの軸 ブランディング重視か獲得重視か
ここは結構重要で、「いま、その企業として重視すべきマーケティングの軸はどこにあるのか」というポイントです。たとえば上述した低関与商材の場合、コンテンツからの直接CVなどは期待しづらいため、実施する施策はどちらかといえばキャラクターを立てた「ブランディング重視」になります。
一方、直接CVが発生する商材でも、獲得をやりきってCPAの改善に限界が見えてきたときや、サービスとしてのブランディングを強めなければならないフェーズでは、ブランディング重視の施策が必要になります。
オウンドメディアの成功事例として代表的なサイボウズ式も、獲得型のマーケティングをやりきった結果として、新しいコミュニケーションを模索することを決めたところから始まっています。
もし、あなたの会社がコンテンツマーケティングを検討していて、コンテンツを通じた獲得への貢献がまだできそうという場合。ブランディング重視の施策よりも、獲得型の施策を行ったほうが良いでしょう。
プラットフォーム
ここではまず、記事メディア型のコンテンツだけにとらわれないということを頭に入れてもらえればOKです。ベストな媒体・形式でコンテンツを作っていくのがよいでしょう。
わかりやすい例は、2度目になりますが特にBtoBサービスにおいて「サービスサイトのコンテンツを充実させる」という観点です。記事メディアよりもサービスサイト上にランディングされたほうが、CVRが格段に高くなります。サービスLPにランディングされるのがベスト。にもかかわらず、サービスサイトはほとんど空っぽで、記事メディア上でSEOを頑張っているというケースをよく目にします。
また、新しいプラットフォームは次から次へと現れます。マーケティング投資が成り立つようになるタイミングは見極めが難しいですが、早めに参入することで後々効果が爆発する可能性もあります。
マーケティング環境① 予算の有無
自社のマーケティング環境も非常に重要です。はじめから潤沢な予算をもとに外注を使ってガンガン攻められるのか、少額もしくは人件費のみで頑張らねばならないのか。
予算を確保するための戦いも必要です。今ある手札で最大限成果を出し、徐々に予算やチームを拡大しましょう。検索ニーズがあるジャンルなら、まずはSEOをベースとした獲得型の施策をやりきるのがおすすめです。早めに成果を実証して予算を拡大していきましょう。
マーケティング環境② 専門性の有無
専門性は、数年前から加速度的に重要度の増している項目です。Web上のコンテンツが飽和し、だれでもそれなりの情報にアクセスできるようになったいま、より深く・より正確なコンテンツが求められています。
特に医療・健康分野を始めとするセンシティブな領域においては、専門性や権威性を持たない記事やドメインはほぼ検索で上位に来ることができなくなりました。逆に専門家がガツガツコンテンツを作れる環境を持っていれば、こんなに有利なことはありません。
おそらくあなたの会社にも、そのジャンルで「専門家」と呼べる人がいるはずです。そうした人の専門性を活用できないかどうか、トライしてみましょう。社内で専門性を担保できない場合は、社外と連携するというのも手段の一つです。
マーケティング環境③ インフルエンス力の有無
最後に、SNS時代により重要になっているのが「インフルエンス力の有無」です。フォロワーの多いインフルエンサーがいるかどうか?というのも重要ですが、会社の知名度なども影響します。知られていて、口コミの発生しやすい会社やプロダクトであればSNS施策は行いやすくなりますが、SNS上の影響度が低い場合はイチからインフルエンス力を作っていく必要があります。
最近は、「企業からの情報発信」は圧倒的にスルーされる方向にあり、「個性を立たせた会社」もしくは「具体的な中の人」でないと影響力を持つことができなくなっています。僕の所属するReproでも上述したYou Tubeチャンネルをつくるなど、個人をフィーチャーしてインフルエンス力を高めていくといった取り組みにチャレンジしています。
まとめ
いつのまにか7000文字を超えていました。各パートで話したいことはまだまだあるのですが、ちょっと一つの文章にはまとめきれそうにありません。笑
僕がコンテンツマーケティングの設計を行う際は、こういった項目を総合的に組み合わせて勘案しながら、あーでもないこーでもないとわずかな勝ち筋を探していきます。上述した表のセオリーに外れていても敢えてチャレンジするのも、勝算があるならアリです。光が見えたら、それを手繰り寄せるための施策を全精力を持って地道に実行していく、という流れです。
一つ一つの項目をみながら、自社の場合はどうだろう? ということを考えてみていただければ幸いです。コンテンツマーケティングは時間がかかるので、目的に向かう方角が間違えていないことが重要です。
やっていることがズレてそうだな、と感じたら、軌道修正を試みて下さい。あるいは、僕に直接相談いただいても構いません。DMどうぞ。
コンテンツマーケティングは難しいし、時間がかかります。でも、うまくハマった時の効果は凄まじいですし、継続的に事業に恩恵をもたらす、唯一無二の施策です。また、コンテンツの持つ二次的・三次的効果で、事業や会社自体をエンパワーメントする力を持っています。僕はコンテンツマーケティングのそんな所が好きです。
このnoteによって、コンテンツマーケティングに自信を持って取り組める人が一人でも増えれば幸いです。
では!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?