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書籍紹介「ランチェスター戦略。弱者逆転の法則」福永雅文 著

動画版は、こちら。


本書は、戦国マーケティング株式会社の代表を務める、ランチェスター戦略コンサルタント福永雅文氏によって書かれた解説書です。

ランチェスター戦略とは

第一次世界大戦中にイギリスの技術者FWランチェスターが提唱した戦争における戦闘の勝ち負けの法則です。この法則は第二次世界大戦のとき、アメリカ軍の作戦研究班によって応用され、戦争全体の勝ち負けの法則としてクープマンモデルに発展します。日本との戦争においても使用されたと言われています。

日本においてはコンサルタントの田岡信夫氏が、市場占有率を判断基準とする競争に勝つ販売戦略の理論と実戦の体系として確立しました。日本における競争戦略、販売戦略のバイブルと呼ばれています。

ランチェスターの法則は、第一法則と第二法則からなります。

1.第一法則:一対一の法則。戦闘力は兵力数と武器性能の掛け算で決まる。

2.第二法則:集団戦、広域戦の法則。戦闘力は兵力数と武器性能の二乗で決まる。

これらの法則を現代のビジネス戦略に適用することで、弱者である中小企業や新規参入企業が強者である大企業に対抗する方法を見出すことができます。

立場で変わる戦略を正しく理解する

弱者と強者の戦略は根本的に異なります。また、弱者、強者の定義は単なる規模の話ではなく、局面ごとの弱者、強者であるという点が重要です。例えば特定の絞り込まれた市場セグメントにおいては弱者も強者になり得ます。

弱者とは、競合局面において負けているシェア1位以外のすべての企業を指し、強者とは、競合局面において勝っているシェア1位の企業を指します。ただし、後述の市場影響シェアである26.1%に満たない場合は、シェア1位でも強者の戦略をとることができません。

弱者の基本戦略は差別化戦略。弱者は武器性能を上げることが至上命題です。武器性能を上げることをビジネスの文脈で差別化に置き換えます。独自性や質の優位性を指します。差別化こそが弱者の生き残る道です。

強者の基本戦略はミート戦略。先行する弱者が開拓した市場機会に対し、模倣して規模で勝つ。マネシタ電器とも揶揄されたパナソニックの事例が象徴的です。

パナソニックが松下電器産業だった頃、家電業界には松下マネシタ商法という言葉がありました。松下は他メーカーの新製品の同等品を後から出して市場シェアを逆転して1位になることを得意の勝ちパターンにしていました。

後出しジャンケンのようなそのやり方を業界関係者はマネシタと当てこすっていたのです。松下には新しいモノを生み出す力がなかったのか? そうではありません。当時の松下には圧倒的な兵力数がありました。街の電器店です。松下系列店の数が他を圧倒していました。圧倒的な兵力数があれば、同等の武器であれば勝ち抜けることを知っていたからです。

他所さんの品もんのええ所を徹底的に研究して、何か一つか二つ、足せばええんやとは松下幸之助さんの言葉です。わずか3か月で先発メーカーの製品に一工夫を加えた製品を市場に投入する力があったからこそできたことなのです。

差別化の定石は商品の機能・性能・品質といった基本価値での差別化。本書では、以下の事例が一例として紹介されています。

  • ピーターパン:常に焼きたてのパン。

  • セルコ:占積率96%の最小サイズで最大エネルギーを出力するコイル。

  • 山本化学工業:世界最速のスピードが出る水着。

  • ハードロック工業:絶対にゆるまないナット。

弱者の5大戦略

1.局地戦:ビジネスの領域を絞る。大きな市場全体で戦うのではなく、市場を細分化し、自社が強みを持つ特定のセグメントに集中します。これにより、限られたリソースを効果的に活用できます。
2.一騎打ち:1社限定と競合する。取引先の多い顧客ではなく、1社としか取引していない顧客を狙う。
3.接近戦:敵ではなく、顧客に接近する。顧客密着、地域密着で勝負する。
4.一点集中:1点に絞って戦う。顧客層、地域、販路、商品などを細分化、重点化、集中する。局所で量的優位を形成する。
5.陽動作戦:競合相手の裏をかく戦法。自分達の動きを悟られないようにおとり的な動きをし、相手をかく乱する。効率重視の強者が嫌がる多品種少量生産を敢えて選択するのも陽動作戦のひとつ。

価格破壊を通じてビジネスモデルを革新したドトールコーヒーの事例。

1980年、ドトールコーヒー1号店が原宿にオープンします。当時、1杯150円は普通の喫茶店の半額程度です。同じものを同じ売り方で半額にしたわけではありません。セルフサービスで、忙しい現代人が10分程度、やすらぐ店です。店づくりを変えたことで、低価格でも成り立つビジネスモデルです。 コーヒーや軽食類の味は、安かろう、悪かろうではありません。平均的な普通の喫茶店よりも美味しいと評価する人も多いです。カップもチープなものではありません。平均的な普通の喫茶店よりも上質なものです。 ドトールは喫茶店の安売りではなく、喫茶店の新たな業態で、低価格を実現したのです。

販路の差別化で市場を開拓した缶コーヒーの事例。

 かつて人々は駅のミルクスタンドで瓶入りのコーヒー牛乳を飲んでいました。そんな1970年代にUCC上島珈琲が缶コーヒーを普及させます。普及の起爆剤となったのが自動販売機です。コーヒー飲料は牛乳販売店チャネルから自動販売機チャネルへ、販路が変化します。その結果、UCC、ポッカ、ダイドーといった会社が大企業へと飛躍することになります。一方、コーヒー牛乳をつくっていた乳業メーカーはミルクスタンドを守ろうとしたのか、チルド管理が必要な乳製品と缶が合わなかったのか、缶コーヒーに進出しませんでした。結果として、コーヒー牛乳は衰退していきます。

強者の5大戦略

弱者の戦略の裏返しが強者の戦略となります。

1.広域戦:大きな市場をねらう。
2.確率戦:アイテム数を積極的に増やす、新製品を積極的に売り出す。
3.遠隔戦:広告などを大々的に行って離れて戦う。
4.総合戦:すべての武器、力を総動員して勝負する。
5.誘導作戦:こちらの戦いやすい場所に誘導して勝負する。

クープマンのマーケットシェア理論

アメリカの数学者クープマンがランチェスター戦略モデル式を参考に導出した、市場シェアに関する目標値。対象市場における企業や商品の市場におけるポジショニング、競争上の優劣を評価することができます。

1.独占的市場シェア:73.9%
独占的寡占状態となり、トップが絶対安全かつ優位独占の状態を築くことができる。市場をコントロールすることが可能となり、他社は短期的な市場シェア奪還が困難となる。

2.安定的トップシェア:41.7%
3社以上が参入している市場の場合、業界における強者として優位な地位を確保でき、安定した事業展開が可能となり、下位企業はシェアアップが困難となる。

3.市場影響シェア:26.1%
一般に、業界トップないし市場に影響力を有する地位を確立できる。このシェアを獲得した企業が新商品投入等の行動を取った際に、競合企業も同調を含めた対抗手段を行う必要がある。

4.並列的競争シェア:19.3%
複数企業で拮抗する競争状態によく見られるシェアで、安定的トップの地位をどの企業も得られていないケースが多い。競合他社に先んじて市場影響シェアを獲得することが目標となる。

5.市場認知シェア:10.9%
生活者において純粋想起がなされるレベルのシェア。市場においても競合他社から存在を認められるようになるが、シェア争いも激しくなる。

6.市場存在シェア:6.8%
生活者において助成想起がなされるレベルのシェア。市場においてようやく存在が許される、最低レベルの位置づけ。

ランチェスター戦略における3つのグランドルール

1.ナンバーワン主義:ランチェスター戦略の結論は、ナンバーワンになること。しかも2位を圧倒的に引き離した1位で、それ以下は2位であっても弱者という考え方です。その際のナンバーワンは総合力ではなくて、ある市場においての1位となります。

2.一点集中主義:一点集中主義は、攻撃目標を1つに絞り、達成するまで集中して攻撃し続けるという考え方です。たとえば、勝ち目のある商品、地域、流通、顧客を設定して、そこに経営資源を集中して投入します。要素を分散させずに、集中させて競合相手から負けない状況を作り出します。

3.足もとの敵攻撃の原則:自社の1ランク下の競合他社、足もとの敵を攻撃しシェアを奪うという考え方です。理由は自社よりも強い敵と戦って消耗するのではなく、勝ち目のある相手と戦う。1ランク下の敵を倒せば自社のシェアを伸ばし、下位シェアとの差を広げられます。

まとめ

ランチェスター戦略は、リソースの限られた企業が大手企業と戦う上で非常に有効な戦略フレームワークを提供しています。市場の細分化、リソースの集中、差別化といった基本原則は、現代のビジネス環境においても十分に適用可能です。

しかし、ビジネス環境は常に変化しており、ランチェスター戦略を機械的に適用するのではなく、自社の状況や市場環境に応じて柔軟に解釈し、適用することが重要です。また、デジタル技術の進化やグローバル化といった新たな要素も考慮に入れる必要があります。

最終的に、ランチェスター戦略は弱者が強者に勝つための方法論を提供していますが、真の成功は顧客に価値を提供し続けることから生まれるということを忘れてはいけません。戦略の適用と同時に、常に顧客視点を持ち、革新的な製品やサービスの開発に努めることが、持続可能な成功への鍵となるでしょう。

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