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【完結】アルバイトを辞めさせられた話

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大学時代、喫茶店のアルバイトを「辞めさせられた」話。
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アルバイトをやめさせられた話

アルバイトをやめさせられた話

昨日の私に立てられた「思わぬ悪評」を読んで、数人が直接メッセージをくれた。

この質問、実はちょっと答えるのが難しい。

いや、そもそも法律上、アルバイトを「辞めさせる」なんて出来ないじゃないかと言われればその通りだし、かと言って自ら望んで円満退社、というわけでも全くない。

というわけで、バカみたいに安直なタイトル通り、私がアルバイトを「辞めさせられた」話の経緯を書いていこうと思う。

「辞めさ

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アルバイトを辞めさせられた話②

アルバイトを辞めさせられた話②

私が電話で話した女性について、実は他のアルバイトたちから噂だけは聞いていた。

「一言でいうなら、ヤバい人」

私が一番と言っていいほど慕っていた先輩が、顔を歪ませながら言ったのを覚えている。

随分と若いときから長年勤めているらしく、仕事ができる、なんてレベルじゃない。常人を超える記憶力と動き方で、ランチタイムの想像を絶する忙しさを易々とさばいていくのだという。

「ただなぁ…性格がバカみたいに

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アルバイトを辞めさせられた話③

アルバイトを辞めさせられた話③

新しい女店長が私を心の底から可愛がることが出来ない理由。
それは、いわば嫉妬に近いものなのだと思う。

「もときさん、最近なにか面白いこととかないんですか?」
「もとっきー聞いてよ〜、大学でさ〜」

 出勤日数の多かった私は、元来ある性格も相まって、他のアルバイトたちとあっという間に打ち解けることが出来た。先輩後輩、同年代や社員も関係なく、プライベートで遊びに行くことも多かった。

「もときさんが

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アルバイトを辞めさせられた話④

アルバイトを辞めさせられた話④

 アルバイトや社員のかたと、仕事終わりにご飯に行ったりするようになる中で、特によくお誘いをくれる人がいた。
私よりも少しばかり年上の社員のかたで、私のようなウェイトレスではなくキッチンを担当していたかただ。
約半年ほどご飯に誘って誘われてを繰り返すうちに、私とその人は恋人関係になることになる。なのでここでは彼、と呼ぶことにしよう。

私にとってはアルバイトで荒む気持ちを、彼と過ごす時間で少なからず

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アルバイトを辞めさせられた話⑤

アルバイトを辞めさせられた話⑤

 それはある日の夜。キッチンの新人スタッフがなにかをやらかして、私が珍しく声を荒げてしまったのだ。

珍しく、と言っても生まれ育ちのせいか私は人よりも口が悪いのだけれど。職場では極力隠すようにしていたのに、ついつい感情的になってしまったのがいけなかった。

 その日の仕事終わり、ミスをした新人スタッフに声を荒げてしまったことを謝りに行くと、案外相手はけろっとしていて。

「大丈夫よ、私が悪かったん

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アルバイトを辞めさせられた話⑥

アルバイトを辞めさせられた話⑥

「辞めさせる?誰が、誰を?どうやって?」

 目の前にいる彼はただ事実を伝えてくれただけで、何ひとつ罪などないのに。分かっていながら、私は自分の声を低くして詰め寄ることを止められなかった。そんな私を落ち着けるつもりでなのか、彼はそっとまだ残っている私のアイスコーヒーのグラスを少しだけ私に寄せる。私は素直にそのグラスを手に取って、一口だけコーヒーを含んだ。

「…ムカつくって、子どもかよ」

 自分

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アルバイトを辞めさせられた話⑦

アルバイトを辞めさせられた話⑦

 東京にいたことを理由に、シフト希望を出さなかった私。
するとシフト希望の提出期限を過ぎた2日後、ついに女店長から連絡がきた。

『シフトについてお話があります。お忙しいところ恐れ入りますが、一度お店に来ていただく時間はありますか?』

 この人、ちゃんと社会人だったんだな。と、失礼も承知だが本気で思った。
慇懃無礼とも取れるバカ丁寧なメッセージに、私も必要以上に丁寧な返事をした。とんとんと話は進

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アルバイトを辞めさせられた話⑧

アルバイトを辞めさせられた話⑧

「私が辞めてほしいから、辞めてもらう」

 私は熱に浮かされた頭で、一体どんな言葉を返すのが正解だったんだろうか。やけに勝ち誇った顔の女店長を、私は黙って見つめることしか出来なかった。

 その私の無言をどんな風に捉えられたのかは分からないが、そこから女店長は苛立ちを隠そうともせずに、今までの私の行動とそれに対する見解を長々と話し始めた。

 私の憶測にしかすぎないけれど。女店長の中で、私はとんで

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