「自傷的自己愛」の精神分析を読んだら空から着地地点の景色が見えた

最初に結論を言うと、斎藤環先生の新作は自分が嫌いな人間に新たな視点を与える本だった。この本はあらゆる人に読んでもらいたいが私はとくに精神科や心療内科に勤めている医者の人達、育児に関与している人や、毒親育ちの人や虐待された人達にもおすすめしたい。苦しんでいる本人から、頑張っている自分と違ってあの人は楽なはずなのにどうしてそんな卑屈なのだと腹が立つ人にもおすすめできる。自己啓発本や自己肯定感の本を読んだりそれらの本で疲れたことがある人も手にとってみてほしい。

何年もずっと自分は駄目だという感覚に悩んでいたので、本のタイトルを見て買おうと思った時にはもう買っていた。親のトラウマと学校のトラウマに苦しみ、何もかもが私の受け取り方が悪く人を悪くいうのは失礼だと言われ家族に受け止められることもなく怒りの感情さえ抑圧してきた家庭にいた後遺症は重く、逃げるように結婚したり、自分の出来る範囲のことをいくらしても全く自己否定が止まらないのだ。大体のことは失敗したり否定されて自己嫌悪を深めて終わるのである。自己肯定感を高めようとして逆に自己否定感を募らせることもしてしまう。

最初は自分のことを指摘されてグサグサと傷つき消耗する本なのかと警戒ほどドキリとするタイトルだが、実際には現代社会の負担になる風潮に気が付かせてくれて、自己啓発本に疲れた人にも納得の言葉を届けてくれるので、弱点を突かれる本というより天井にいた曲者に気が付いて成敗してくれる本である。現代はアドラー心理学で自己責任論が流行るような時代なので、そうした時代に否を唱えてくれるのはかなり心強い。

そして親子関係にも話は広がる。家庭のトラウマというものは多くの人が抱えているものだと思うが、そんなトラウマにも種類があることを教えてくれる。夫が私ほど親の影響を気に留めていないこともなぜかわかってすっきりとした。医師の人達にはこの本を読んで通院している人に一人暮らしの選択肢を積極的に与えてあげて欲しい。母子密着に本人が気づくのは大変なので第三者が促さなくてはならない。私自身は改めて子供をコケにするような親には倫理も道理もいらないとより決意を固めていきたい。依存症になったり親を許さないことを本人の責任として責めたてる医師ばかりではないのを久々に見ることができて少し安心した。

ちなみに着地地点に辿り着いたわけではないのはトラウマ化やフラッシュバックのリスクが多い人間には金銭的余裕を含めた環境探しか困難なことだ。資本主義の壁が厚すぎる。相談してもカウンセラーに否定されたり親から否定されたりした私にとって支援者は開かなかったパラシュートも同然であり、そうした医療や福祉のトラウマをケアしたりそれにより悪化した状態に対する保障のようなものはこの世にない。

とくに明るく元気になることに固執した母のせいで、一般的にはポジティブな言葉が人格否定の言葉になってしまい、トラウマがある人に考慮したような言葉さえもフラッシュバックのトリガーになり、治療という行為そのものが否定と重なってしまう。支配的な環境の前ではどれだけ強制力のない一人の感想にも強制力を覚えてしまう。そのせいか解決方法の項目を読んでいるだけで身体が強張っていってしまう。身体の症状を自覚してからむやみに解決しようとしてはいけないと痛感したのである。

本にも書いていた通り鈍感さは強みだし、考えずに行うことも大事だが、当たって砕けた後のケアがなかった後に当たって砕けてもどうにかなると思うことは難しい。オープンダイアローグという治療法にアクセスできるのに技術を持った人間が少ないことはもちろん、どのくらい事前に本人が回復している必要があるのだろう。複数人に囲まれても警戒心でおかしくならない程度に怒りと恐怖を和らげる工程は必要だろうし、人の話を静かに聞いてそれが自分とは反対の価値観でも自分への否定を感じずに聞けるほど落ち着いた状態になるという道筋が想像できない。想像しただけでどうせ私を否定するんだろう!もう聞きたくない!やめてくれ!と壁に頭を打ち付けながら耳をふさぐ自分の姿が見えてくる。どんな本でも解決方法の項目を読んでいると追い詰められていくのは助けてと言っても助けてもらえなかった影響なのだろうか。

とはいえこの本の目的は気づくことであり、長い目で見れば悩みの言語化や原因の明確化がなされることで荷が降りることもまた事実。自分を理解する本になることは間違いないだろうと思った。オープンダイアローグという選択肢が広がって不適切な対応をする医師やカウンセラーが減り、子供の頃からオープンダイアローグが存在する世界になることを願うばかりだ。

最後に、私も文部科学省は真面目に怒られていいと思う。私はいじめによるトラウマで同性である女性の声が駄目になってしまった。学校自体は不登校の子供が通いクラスに丸投げに加害者に対するお咎めなしな挙句に、教師が現場を見たのに無視して通り過ぎたことなどがあった。そんなことがあったのに配慮していますよと言わんばかりにPTSDについて解説しているページが文部科学省に書いてあるのを見た時は腸が煮えくり返るような思いだった。

知ってるなら学校をすぐに停止して防ぐ方法もっとまじめに考えてよ!無責任に人に通うよう強制させて壊しておいて、何事もなかったように社会に戻る努力してくださいなんて身勝手すぎる!そのくせ保険診療外の医療も多すぎる!補助金狙いの福祉施設に金をばら撒いてるからいつまでも金が入ってこない!もっと医療に回してくれお願いだから!

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