見出し画像

18歳未満のうちから風俗がどんな世界かを伝えることは過激な性教育なのか。




 元ゲイ風俗ボーイのゲイがエッセイ作家としてSNSで活動していると、こういった意見も届けられるし、ネットの反応で見受けることがある。

風俗あがりの人間にこんなにも発信の機会を与えて有り難がるのはおかしい。一度風俗で働いた人間に影響力や社会性を持たせてはならない。本来ならSNSアカウントも社会秩序(公序良俗)の面で停止すべきだ。陽の当たらないところで一生生きるべき」

「誰もが見られるネットの世界で、そして子どもも見ているTwitterやInstagramというSNSの世界で風俗の話をするなんて非常識だ。子どもに悪影響を与えてどうするつもりなのだ。やっていることは女衒と同じであり、児童売春を間接的に肯定しているのと何が違うのだろう」

「あなたはゲイで子どもが作れないから無関心なのかもしれないけれど、教育や子育てに関わっている人間や、結婚して家庭を持つ普通の人からすればLGBTや風俗経験者・水商売従事者は危険で悪影響です。本の出版停止の意も辞さない」


 ーーこれらは当事者が深く傷つく言葉だと思う。偏見や差別的な感情が無いとは思わない。だけどその辛辣な意見の中でも一部はあたいも賛同する。

 まず、風俗勤務が《裏社会を通して強くなるスゴい社会経験》だなんて肯定されるのは、あたいもちゃんちゃらおかしいと思うし、その経験が人に達観さを見出させ、その人自身を人間的に偉くさせるようなことはないと思う。もちろんそういった風潮や構造への批判があっても、働く人間の人格が過度に貶められるのも違うとは思うけれど。

 そして第二に、確かにあたいは直接的に子どもと関わる機会は少なかったし、これからも代理出産には反対し、仮に同性婚が日本で法制度化しても自身が利用しないと考えている以上、里親になることもないだろうと思う。

 けれども、子どもに無責任であることが許されていると考えているわけでもない。LGBTであろうと社会人の一人なのだから、間接的な責任は果たして生きるべきだと感じている。

 さらに言えばあたいは自身の活動を通して、作家としても作品としても過度に持て囃される必要は無いーーと批判者と同様に考えている。

 たとえば、あたいのエッセイが「未成年でも家出してから風俗で頑張って大学に行って偉い!」なんて全面的に褒めそやされたりしているのはおかしいと感じる。こういった同情ももちろん大事だけど、それだけに留まらず同様の立場の未成年や若者がいることに目を向けてくれたらと感じている。

 ましてや「奨学金を借りたり国に文句を言うよりも、この人みたいに体売ってでも大卒になる方がいいだろ」みたいな極端な自己責任と家庭責任を増長するつもりもない。子どもや大人にそういう選択肢や判断を与えることない社会である方が、本来はよっぽど健全だと思う。だから自身の過去を棚上げするつもりもない。

 あたいはすけべでエロいが、偉くはないのだ。

 なのであたいはこの意見をくれた方々が、守りたい社会や人間や世界があり、そこにあたいが入っていないだけだと感じた。

 だからこそ異質で外敵にあると感じているあたいや、同様の属性や経験を持つ者を危惧して批判しているのだと思う。そんな彼らの恐怖心を煽ることなく、あたいが発信を続けるには、やはり傾聴と自省と、なにより誠実さが必要だと感じた。

 そのことについて今回はのんびり書いていく。



 あたいは全年齢向けのコミックエッセイ「ゲイ風俗のもちぎさん」や「
ゲイバーのもちぎさん」という本を上梓している。


 これらの拙著はどちらともに抜群に面白く、そろそろ国から直々になんらかの賞が授与されてもおかしくない傑作だ。待ってるで、岸田さん。いつでも電話してきてええからな。

 内容はタイトルに冠してある通り、風俗や水商売という18歳未満厳禁の大人な世界を舞台とし、あたい自身が実際に目の当たりにしてきた経験をストーリーの基にしている。ジャンルはコミックエッセイだ。当時の業界の実態をあけすけに書くにあたって避けられなかったすけべな表現は、あたいのちょっぴり愛嬌のあるチン……ポンチ絵(挿絵的なイラスト)で描くことで全年齢の範囲に収めた。

 ただし、描写に工夫をいくら凝らしても、やはり内容はアンダーグラウンドかつセンシティブなテーマなので出版への道のりはなかなかに大変だった。様々な会議を通し、校正さんや編集の方々のお力添えをいただき執筆し、幾度も推敲や添削を経て上梓している。

 あたいが主に力を借りた部分は、言葉の取捨選択や表現の可否(出版コードの面)、モザイクの強度。あとは打ち合わせと称して一緒にゲイバーでお酒を飲んだり、うめぇ飯もたくさんご馳走になった。ほんと色々お世話になりました。これからもお世話になります。永遠(とわ)に……。

 とりわけ慎重な打ち合わせを必要としたのは、全年齢向けの出版物である限り避けられない《未成年・青少年への影響》のことだった。

 これに関してはあたいのスタンスである《風俗の経験を美化せず、この仕事を推奨せず、また業界全体や自身の行いに対して贔屓目の無い批判の目を向ける》という執筆の方針にも合致していた。

 つまり大前提の、未成年に対して“生活に困れば風俗がある“というメッセージを受け取らせないように書くことは双方ともにすでに了承済みだった。

ここから先は

4,405字

ここはあなたの宿であり、別荘であり、療養地。 あたいが毎月4本以上の文章を温泉のようにドバドバと湧かせて、かけながす。 内容はさまざまな思…

今ならあたいの投げキッス付きよ👄