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ミステリー小説 ロンドの旅 Chap3.東京の事件 9.逃走

 少し休んだら良くなったわ。…さすがにパパを騙し続けるのは限界があるわね。でもいつから?
 
 ソナタを探すこの旅を始めた時から、端末のことは気づいていたよ。いくら同じ機種で同じ色のものを使っていても、細かな傷の大きさ、位置、数までまったく同じにすることはできないからね。あと、この国に着いてから、メライは僕の言うとおり素直にGPSを切っただろう?ソウルでは通信を切ったらすぐ"上"にバレてしまうと懸念していたのに、不自然だと思った。通信を切らないよう誘導した別の理由があるんじゃないか、ってね。

 たしかに不審かも知れないけど、それだけで私が内通者だと確信できたわけ?

 いや、一つ一つの出来事は仮説に過ぎない。確定している情報がすべて揃ってることなんて、ほとんどないからね。ただその仮説や不確かな情報をパズルのピースのように繋ぎ、確かなものにしていけば、やがてパズルは完成するんだよ。ただ今回はここまでの状況が揃っていればメライから"自白"してもらえることを期待して、証拠がないまま僕の推理を投げかけたのは事実だね。

 私とメライはお前とソナタを会わせたくないという共通の思いがあった。だから協力していたんだ。だが、ソナタは私たちの思惑を察し、お前にだけわかる方法で自分の現在地を伝えたってわけさ。

 私は"あの人"のせいでパパがおかしくなったと思ってる。

 私はソナタの安全のためだ。我々は今彼女を失うわけにはいかない。ソナタはお前をいまでも信用しているが、私にはそうはできない。

 …2人の考えはよく分かった。だが僕はソナタに会わなければならないんだ。

 残念だが、それはかなわない。

その瞬間、部屋中に潜んでいた者たちが一斉に飛び出しロンドとバルカを取り囲んだ。2人は顔を見合わすと、ゆっくりと目を瞑った。

 なあ、2つ、お願いがあるんだけど。

 …ははは。こんな状況でよく言えるな。

 君は僕を信用していなくても、僕は君を信用しているからね。1つ、メライをしばらく預かってほしい。2つ、メライと一緒に先生の事件解決を頼む。

 1つ目については最初からそのつもりだ。お前を捕らえ、メライとバルカは私が責任を持って保護し、何一つ不自由はさせない。2つ目は…まずは自分の身の心配をしたらどうだ?

 パパ…

 メライ、君は僕の娘だ。必ずまた家族みんなで暮らそう。絶対に迎えに行く。

その言葉を合図に小柄な黒いスーツの1人の女性が入口から現れ、同時に部屋の灯りが消えた。父親は次女を抱え上げると闇に乗じて包囲網を掻い潜り、部屋を後にした。その際、次女は入口付近にポケットに入れたメモを丸め投げ落とした。女性は2人を追いかけようとする者たちを次々に薙ぎ倒し、行手を阻んだ。

 ちっ…この展開を読まれていたか。"上"へ連絡したようだな。メライ、その電話を持って一旦私のところへ。

 分かったわ。

彼女は電話をバッグへ詰めるとゆっくりと入口に向かって歩き始めたが、何かに気づき立ち一度立ち止まる。そこには丸まった紙切れが落ちていた。

 これは…

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