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ミステリー小説 ロンドの旅 Chap3.東京の事件 10.出立

彼女はその場で"上"の端末を開いたが何をしても画面は真っ暗で、起動すらできなくなっていた。恐らくこれまでの一部始終が伝わったため、"上"が遠隔操作で利用不能にしたのだろう。それを確認すると入口へ向かった。

 そこ、退いてくれる?

女性は表情を変えず無言で道を開けた。

一方、彼は部屋を出た途端、次女を降ろし手を繋いでのんびりと歩いていた。きちんとチェックアウトをして、外で待つ車に乗り込んだ。運転手は先ほどとは別の小柄な黒いスーツの女性である。

 君、報告を頼めるかい?僕らは先生の事件を捜査する、と。あと、最寄りの駅まで送ってほしい。

女性は無言で頷いた。

 ありがとう。

駅に着くと車を降り荷物を降ろして女性の車を見送った。

 "あのひと"

 うん。今のは僕の"上"へのフェイクだよ。すぐにバレると思うけどね。ソナタとはどうしても"上"抜きで話がしたいんだ。

 …。

 まだ小さい君を世界中連れ回し、負担をかけて本当にすまない。メライにあんなことまでさせてしまったのも僕の責任だ。次の場所で彼女とは決着をつけて、この旅を終わらせる。長旅になるから今夜はホテルでゆっくり休んで、明日の朝旅立つよ。

 …。

ホテルまではタクシーで移動した。ルームサービスで簡単に食事を済ませたあと、寝支度を整えた。

 バルカ、今日は疲れただろうからゆっくり休んでくれ。おやすみ。

 …。

長女と離れ離れになった悲しみや寂しさから、2人は寄り添うようにしてベッドへ入った。次女は父親がいる安心感ですぐに眠りにつくことができた。いくら訓練されてるとはいえ、今日の出来事は幼女には精神的なショックが大きい。父親は幼い我が子の寝顔を見ながら、光と闇の狭間で揺れ動く自分を感じつつ、微睡んでいった。

翌朝、次女は目が覚めるとムクッと起き上がった。

 おはよう。

 …。

父親にベッドから下ろされ、共に洗面所へ向かい、顔を洗った。

 朝食を摂りながら、暗号の答えと旅の目的地の話をしようか。そしたら出発だ。あ、結論だけ先に言っておくね。ソナタは、ラトビアで待っている。

 …。

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