観劇感想/『パラサイト』

俳優さん達が豪華すぎるので是非とも観に行きたいと思っていたこちら。
東京で持っていたチケットの日が惜しくも公演中止になってしまったので、大阪で急遽チケットゲットして観劇。

原作の映画は、公開してた頃に映画館で鑑賞。
印象的だったことと漠然としたストーリーは覚えていたのですが、細かいことは記憶から抜け落ちていたので、観劇直前に再度見返してから行きました。

もしかしたら…直前には見返さずに観劇に行ったほうが楽しめたかもしれない。

というのも、映画の記憶が鮮明にあると、細かいところの比較ばかりしてしまって、作品として楽しむという体験が薄まってしまったなぁという感覚です。


内容について。

鄭義信さん演出ということだけは予備知識として持っていたのですが、どの程度のテイストを加えてるのかは知らなかったので、登場人物が関西弁で話し始めて、なるほどやっぱりそう来たか、となりました。

以下は多分にネタバレが多くなります。ご注意ください。



映画では、

半地下に住む家族たちはとにかく荒みきっている。
仕方がないとはいえ姑息でやり口が汚く、全面的に共感はし辛い人達だなという印象。
そして豪邸に住む社長一家は、本当に浮世離れしていて、金持ちなのに嫌味なところが感じられず、生まれもっての自然体の裕福な家庭、というイメージ。

一方今回の芝居では、

半地下(ではなく今回はバラック長屋)に住む家族たちは貧乏ながらもなんだか和気あいあいと楽しそう。
全員愛嬌があって、愛すべきキャラクター達として描かれている。
豪邸に住む社長一家は、成金の金持ちっぽく、金持ちのくせにケチ臭いところがありそうな、見栄っぱりの「嫌な金持ち」感が強い(とは言えコミカルに演じてるので面白さはある)。

なので、かなり半地下家族側に感情移入しやすいような作りになっている印象を受けました。

これをすごくあっさりとした言葉にすると、
映画の方の主軸は「貧富や身分の差」
芝居の方の主軸は「家族愛」にあったのかなと感じられました。


ということもあって、映画のイメージを鮮明に持って観劇すると、映画のテーマ「貧富の差」の方の、辛さやもどかしさの要素がちょっと足りないような気がして、なんだか芯がぶれているようにも感じられ、ちょっと物足りない感覚を覚えた。

特に「半地下の奴らからは独特の臭いがする」という件が、映画のほうが胸にぐっと来るものがありました。


なので、いっそのこと、原作はストーリーの大まかな流れを汲む程度で、もっともっと日本芝居版としての新要素を加えまくったほうが、別の作品として捉えることができて楽しめたのかもしれない。


特に、舞台時代設定が、
映画では韓国の半地下と高級住宅街、そしてスマホを使いこなす現代、

それに比べて芝居は、
関西(おそらく神戸〜芦屋・六麓荘などの高級住宅街)、時代も阪神淡路大震災の頃を舞台にしてると思われるのですが、これをもっと序盤から明確に示してくれたほうが、受け取り手としては物語にすんなり入れたのかもしれません。

私も関西に生まれ育った身として、阪神淡路大震災の知識は幼い頃から学校で教えてもらいました。
当時はまだまだ木造建築が多く、火災による被害がとても大きかったこと。なので実際、あまり裕福ではない家のほうが被害は大きかったという事実はあったのかもしれません。

神戸に「人と防災未來センター」という施設もありますが、そこでは全面スクリーンで震災当時を体験できるブースがあるのですが、あれぐらいの恐怖が迫る演出があってもよかった。
「地震があった」と台詞で説明せず、その瞬間を舞台上でやってほしい、と思いました。


芝居の方が圧倒的に楽しかった点は、
前半のバラック長屋の家族たちがトントン拍子に、大豪邸で仕事を得ていく過程。
映画よりもよっぽどスムーズで、コミカルに進んでいくので、気楽に観ることができる。

映画だと、笑える台詞などでも、全体に流れるシリアルな空気感のせいか、心の底から笑いにくく一体どういう感情で観たらいいかがいまいち分からなかったので、

「思いっきり笑ってください!」を全面に押し出してくれた今回の芝居は方向性が明確でよかった。笑いのレベルもキャストの力で最高だったので!

ただ、もし映画を知らずこの舞台だけを観に来た人は、ストーリーにちゃんと付いていけるのかな?と心配になるくらい、テンポが早かった。これは観客によって良し悪しが分かれるところかもしれません。


しかしながら、後半シリアスになっていく展開は、
やはり映画のほうがよっぽどゾクゾクした。

芝居の方はシリアスなタームポイントとなる瞬間瞬間の見せ方などが、ちょっとインパクトに掛ける印象で、前半があまりにコメディに振りきっていることもあり、正直そのシリアス展開に観客の心持ちとしては着いて行き辛い。


それと一点、舞台装置について。私の願望を…。

地下室はセリなどをつかって実際に物理的に「上下」の関係が分かるような作りで見てみたかった・・・。
たぶんあのリビングルームの舞台装置が、二幕で初めてぐーっとせり上がって、地下室が出登場したりすると、ほんとにゾクッとしたと思う。

盆回りで場面転換をしてしまうと、「上」と「下」の関係性が直感で伝わらず、どうしても大事な主題部分がもの足りない、そんな気分になってしまいました。



俳優さんたちはみなさん最高でした。ほんと豪華なキャスティング。これでチケット売れないわけがないという完璧な布陣(笑)

特にキムラ緑子さん。前半のコミカルからの後半の迫真の演技。生で見られたことが嬉しかった。

宮沢氷魚さんは他でもお芝居拝見したことがあり素晴らしい役者さんですが、今回の役は単純に合ってなかったかな〜。という印象。

それと伊藤沙莉さんは関西出身じゃないのになんであんなに関西弁上手いの?!典型的な関西人の私は中途半端な関西弁にはついついピクついてしまうのですが(笑)、伊藤沙莉さんはほんとに自然すぎてすご!って思いました。

個人的に気になったのは真木よう子さんの滑舌。元々ハキハキ喋るタイプの俳優さんでないのは知っていますが、聞き取りにくいところが多く。東京公演の中止って、真木さんが体調不良のお一人で、若干喉や鼻に後遺症が残ってるのでは?と心配になるレベルでした。残念というよりとにかく心配です。ただ調子が出てないだけならいいのですが…。(ほんとにただの憶測です。ご了承ください。)


話題の舞台を観られて大満足でした!

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