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デフレ世代30代の反ワクチンとアフターコロナ

就職氷河期と余波を受けた世代が反ワクチンの中心層を成しています。奪われるだけで得るものがなかったデフレ時代の世代が国の方針に従わなかったのは当然だったのかもしれません。

著者:ケイヒロ、ハラオカヒサ

折り返し地点を通過して

証言から──
(デモや講演会の参加者について)
「30代。40代でも若めの人。ノリがいい年代で子供のワクチンに神経質になっているのかもしれないですね。年齢高めの女性も多いです」
「リーダー格だと平塚正幸は39歳、池田としえは60歳くらいだったはずです」

過日『30代に何が? 反ワクチンの世代』と題した記事を書いた。記事では反ワクチンなどの活動に参加している人々に30代が多いという証言と、この年齢層にワクチン忌避率が高いことを示すデータを示した。

その後、反ワクチン運動から離脱した方々からも「自分が見てきた集団と同じだ」と反響をいただいた。

いま新型コロナ肺炎は第5波が収束して発症者、死亡者ともに昨年までとは異なる様相を示し、パンデミックが折り返し地点を通過したのではないかと考えさせられる。そうだとすれば、コロナ禍収束も現実味がましてくるうえに反ワクチン運動も意味のないものになるだろう。

反ワクチン運動が終わるときさまざまな副産物が残されるはずだ。また年齢層に特有の傾向も消えてなくなるわけではない。そこで前回に引き続き反ワクチン・反マスク・コロナはただの風邪の中心を成していた30代(30代半ばを中心に40代前半に及ぶ)について考察しようと思う。

今回は活動家や周辺に大麻(マリファナ)の使用のほか、マルチ商法やマルチまがいが広がっているとされる証言を紹介し、この運動と参加者の傾向からアフターコロナを考える。

まず反ワクチン派とはどのような背景を持った人々なのか明らかにしていこうと思う。

世代


日本の反ワクチン世代とは何なのか

前回の記事で以下の図を用いてワクチン問題と世相を中心に30代(30代半ばを中心に40代前半に及ぶ層)の背景と現在を説明した。

忌避世代


現在の30代と40代は、物質重視や公害問題を深刻に受け止めて成長した世代の子として生まれた。また国のワクチン政策が退行したり停滞した時期に幼児から子供時代を過ごした人々だ。自然志向やオカルトなどを後から知った世代ではなく、生まれた時からあたりまえに存在していた世代だったのも忘れてはならない。

これだけでも陰謀論やワクチン忌避に傾く下地があったのがわかる。しかし、20代もまた自然指向やオカルトがあたりまえの時代に生まれているし、50代に至っては後述するオウム真理教世代とも重なる。

そこで今回は、経済と社会の動向から現20代、30代、40代、50代を比較することにした。

全世代20304050


反ワクチン派は反マスク・コロナはただの風邪派と重なることが多い。この人たちは、30代半ばを中心に40代前半に及ぶ層がボリュームゾーンをかたちづくっている。同時に、就職氷河期世代や余波を被った世代とほぼ一致している。彼らは経済の縮小が止まらないデフレスパイラルの只中に生まれ育った層だったのだ。

39歳の平塚正幸はコロナはただの風邪派の代表格であるし、反ワクチンの主張で目立っているU医師が46歳なのはとても興味深い。医学部を卒業して研修医を終えるまでの期間を考えると、彼の医師としてのデビューは就職氷河期の渦中だったのがわかる。

では彼ら以外の世代から見ていこう。

まず50代。

50代はバブル景気を青年期前後で通過し恵まれた世代と言われている。だが彼らの幼年期からバブル突入前はオイルショックと狂乱物価の時代や、その後の世界同時不況の真っ只中にあった。現在40代の幼年期がバブル景気の最中さなかだったのとは対照的だ。

次に20代。

20代はバブル景気崩壊後に、前述の50代層などの子供として生まれた。1990年代にはバブル景気崩壊以外に阪神淡路大震災がありオウム真理教問題が浮上しテロも発生したが、彼らは生まれていないかあまりに幼かった。そしてゆとり教育が行われた時代と長期政権となった安倍政権の時代を経て現在に至っている。

では反ワクチン層のボリュームゾーンである30代半ばから40代前半はどのような時代を生きてきたのか。

前述のように彼らと就職氷河期世代や余波を被った世代はほぼ一致していて、バブル崩壊や阪神淡路大震災、オウム真理教テロなど騒々しく禍々しい1990年代に幼年期、少年期、青年期があった。続く2000年代にはリーマンショックがあった。2010年代には東日本大震災が発生した。

そして消費税だけがあがっていき、生活するだけで奪われる感覚に満ちた時代だった。デフレ下の苦しみと閉塞感しか知らない世代と言ってよいだろう。就職氷河期の上限世代の40代半ば以上は力尽きようとしていて、30代半ばから40代前半のデフレ下世代に不信や不安や怒りが集中しているのを感じる。

この間、国は緊縮政策を取り続け、経済界は新自由主義に覆われた。格差拡大以前に、出端でばなを挫かれた彼らには永遠に落ちて行く過酷な感覚しかないと言っても過言ではないように思われる。

証言から──
「オウムをよく知らない世代ですがヤバい印象はあるんですよ。だけど僕らや少し若い世代にはヤバさを感じない人がいて、反ワクのなかに共感してるのがいました。ぜんぶひっくり返れって……」


反マスク反自粛から反ワクチンに至る

就職氷河期世代といっこうに生活が楽にならないデフレ世代は、時代に翻弄されて幸福や安定を得るためには高過ぎるハードルを超えなければならなかった。また実力だけでなく運にも左右された。

彼らにとって同世代は出し抜かなければならない競争相手で、上の世代はうまいことをやって地位と金と名誉を手に入れた既得権益の世代と見るほかなかった。他人を信頼するより、社会のバグを見つけて利用するめざとさのほうが重要だったかもしれない。

国は彼らを積極的に救わなかっただけでなく、存在しないかのように扱い、いまだ本格的な救済策はとられていない。だから国に見捨てられたと考えるだけでなく、見捨てたわりにさまざまなことを要求して奪って行くと怒りを抱く人が多いのは何ら不思議なことではない。

以前、SNSの会話に就職氷河期世代と思われる人が割り込んできて、震災や原発事故の被災者に向けて次のように言ったのが忘れられない。

「家もらって相手にしてもらって楽しそうだな」
(家=仮設住宅)

かなり悪質な発想をする人物なのは間違いないが、この言葉を発言を目にしたとき怒る気になれなかった。被災すれば依怙贔屓えこひいきされるという曲解や揶揄だけでなく、彼の正直な感想であるのが透けて見えたからだ。

「国に見捨てられ、見捨てた割りにさまざまなことを要求して奪って行く」と不信感を募らせている人たちが、国からの自粛要請に従うはずがない。国だけでなく、自粛や新しい生活様式を提言した専門家や医師もまた彼らにはとって敵になった。

これは自粛だけでなくマスクとワクチンについても言える。

さらに、マスク不足に陥った2020年3月から4月は世代間の分断があらわになった。早朝からドラッグストアに行列してマスクを買い占めていたのが年金生活者で、高齢者を感染させないために若年層は行動を自粛しなければならないとされたあの時期のことだ。

こうした老人の姿を街角や報道で連日見かけたのだから、現役世代の若手層30代が怒り心頭に達したのはとうぜんだろう。

マスク若年

マスク若年77aacb


国への反感。引退世代の年金受給者への反感。これらが国が接種を決めたワクチンへの不信や不満につながったとするのは突飛でもなんでもない。

ワクチン接種をめぐっては推奨派の医師に対して風当たりが強かっただけでなく、医療崩壊を危惧する病院からの説明にも罵声が飛んだ。いずれもコロナ禍を利用して儲けているという声が多かった。国と老人に加え、反ワクチン派の「うまいことをやっている連中リスト」に医師が加えられているのは間違いない。

このような反ワクチン派の特徴を独立行政法人経済産業研究所が調査から明らかにしている。

反ワクチン派の貧困や低学歴もさることながら、接種に積極的な人は他人を信用するとあり、つまり反ワクチン派は他人を信用せず疑うことが日常になっているのではないかと類推される。就職氷河期世代でもある彼らは信用や信頼の感覚が根幹から崩壊しているのではないか。

政府調査XX


いま反ワクチン運動はどうなっているのか

30代(から40代前半の幅を持つ反ワクチン層)の背景がわかったので、反ワクチン派はどのような集団なのか考え、運動と彼らのこれからを考察して行くことにする。

反ワクチン派というと、コロナ禍で陰謀論や平塚正幸のような活動家と出会って組織化された人々を思い浮かべるかもしれない。

だが実際の反ワクチン派は、小さな集団をつくるか個人のまま現実社会でもネット上でも散在していてまったく組織化されていない。平塚正幸は国民主権党を率いているが、他の反ワクチン派の人たちを組織化しているわけではない。

政治家では池田利恵の反ワクチン活動と母体となる「全国子宮頸がんワクチン被害者を支える会」が有名だが、ここに他の反ワクチン派が合流することはあっても組織として結びついてはいない。

反ワクチン派にもインフルエンサーを中心とした規模が比較的大きな集団がある。しかしインフルエンサーと他の小集団は一方通行の情報で結ばれているにすぎず、やはり大多数の反ワクチン派は横の繋がりが希薄なまま独立している。

つながり


横のつながりが希薄で縦の指揮系統もない反ワクチン運動で、重要な位置付けにあるのが[代替医療・その他ビジネス]をしている人々だ。彼らのSNSや彼らが主催したり登場するデモやイベント、講演会は散在する反ワクチン派のハブとなって機能しているように見える。

[代替医療・その他ビジネス]の人々は陰謀論をそのまま利用する人もあれば、陰謀論と距離を置いたり否定する人もいる。だが大筋では国家や権力者の支配と悪行を解き、これを信じる人は自分が被害者であると位置付けている。この点は就職氷河期世代の被害意識とマッチしやすく親和性が高いと言ってよい。

[代替医療・その他ビジネス]の人々は商売のため反ワクチン派に接近しているが、資金力や権威、パブリシティー力の強さが相まって反ワクチン運動の動向を左右しているのは間違いない。

筆者がインタビューしてきた運動家と活動から退いた人々からの情報をもとに整理すると反ワクチン派は、

[自然派]
[スピリチュアル]
[陰謀論]
[儲け優先・享楽優先]
[代替医療・その他ビジネス]
[独自派]

に分類された。

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これらは完全に別個のものではなく、それぞれ他の要素の影響を受けている場合がある。また本人が特に意識せず、うっすらと傾向を帯びているだけの人もいる。

それぞれについて説明する。

[自然派]=科学、化学、医学、工業を否定的に考える。有機農法や薬草や漢方のほか民間療法を信頼する。

[スピリチュアル]=精神性、霊性という独自の概念に最上の価値を置く。オカルトとの親和性が高い。

[陰謀論]=既に妥当な説明があるにもかかわらず、邪悪で強力な集団による陰謀が関与していると断定する説を信じる。

[儲け優先・享楽優先]=倫理観や社会性に欠く儲け優先の態度で商売をする人々と、同様に享楽に耽る人々。

[代替医療・その他ビジネス]=本来代替医療は通常医療を補完する手段の意味だが、エビデンスのない偽医療行為をする人々や薬や器具を販売をする人、および同様の商売。

[独自派]=上記の影響下になく、それらの色彩の強い運動と距離を置いている場合が多い。だが主張は他の層と似ているかまったく同じだ。

これらのうち[自然派][スピリチュアル][陰謀論]が一体化した層が代表的でもっとも人数が多い。


では、反ワクチン運動と30代(30代半ばを中心に40代前半に及ぶ層)のこれからを考えて行こうと思う。

反ワク構造1

反ワクチン派は、主に[自然派][スピリチュアル][陰謀論]が一体化した層と[代替医療・その他ビジネス]派の人々の関係で動いてる。このため運動の動向を左右している[代替医療・その他ビジネス]を中心に据えて整理すると反ワクチン派の動向がわかりやすい。

[代替医療・その他ビジネス]派はコロナ禍が終わったあと新たな稼ぎどころを求めて新天地を目指すだろうし、[儲け優先・享楽優先]の層もワクチンや感染症にこだわる必要がなくなる。

それまでは[代替医療・その他ビジネス]派は[自然派][スピリチュアル][陰謀論]層や[独自派]層のなかで金払いのよい人々を囲い込んで行く。クラウドファンディングでは8,000,000円の集金実績があり、U医師の書籍は発売2ヶ月で13万部を売り上げていて、こうした活動は個々のビジネスへの誘導も目論んでいる。

反ワクチン運動は「ワクチン接種を拒否する運動」のはずだが、接種は強制ではないため騒いだところで当人をめぐる状況はほとんど何も変わらない。したがって就職氷河期世代とかぶる30代(を中心にした世代)がうまいことをやっていると思い込んでいる国や医師などへ反抗しているだけと醒めた見方も可能だ。さらに[代替医療・その他ビジネス]層が反ワクチン運動を養殖いけすのように利用して、これが運動の現在を方向付けている。

30代を獲得すればあと数十年間手を替え品を替え商売が続けられることになり、この世代は代替医療や後述するビジネスに顧客としてロックオンされたと言ってよい。どこをどうやって刺激すれば彼らが熱狂的に反応するのか実証実験済みなのだ。


不信と反抗の30代に食い込み蝕むもの

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証言から──
(反ワクチン内でマリファナを吸引する人を見たことがあるか)
「見てはいません。大麻の匂いを消すスプレーを話題にしている人たちがいて『くさいにおいで鼻をバカにするだけかもしれない』とか言っているのを聞いたことがあります。ほかにも『調子のって吸いすぎ』てどうこうとか

活動にはさまざまな人々がさまざまな思惑で参加していた。

そのなかで[自然派][スピリチュアル][陰謀論]は違いに親和性が高く一体化している。そしてSNSやリアルな活動のほかオフ会で交流し影響を与え合っている。

たとえば漢方や松葉茶その他民間療法の類は、もともとは陰謀論者と無縁のものだった。寝ているだけで治療や浄化が可能だというカプセル式ベッド(メドベッド)は陰謀論者が持ち込んだ情報で自然派やスピリチュアルの層にとって縁遠いもののはずだった。しかし、これらの情報を彼らは共有している。

情報交換や文化の混淆のなかで大麻(マリファナ)とマルチまたはマルチまがいビジネスの浸透があった。

証言から──
「ヘンプオイルとか、そういうのをやっている人の上を行く感じなんだろうと思います。吸ってるらしい人も興味津々の人も、どっちもぐいぐい寄っていってました。勧めたり売ったりがなかったというほうが不自然です

もともと[自然派][スピリチュアル]を背景にした層のなかに大麻に関心を持っている者や、ヘンプオイルなど大麻関連製品の使用者だけでなく吸引者もそれなりの数で存在した。なぜなら、自然派は自然回帰を目指すなかで大麻の効能が説かれていて、スピリチュアルな人々は高次元の精神を得るため大麻を神秘的な力を持つものとして取り扱う傾向があるからだ。

さらに[享楽優先]層にも大麻使用者がいた。

また精油や民間伝承の薬草など売るマルチ商法に組み込まれる人々がいた。

証言から──
「大麻やマルチ。人が集まればそういう人が来ます。……宗教関係も多いですから。もとから素で宗教がかってます。自分が見てきたのは、そういう雰囲気でした
──素で宗教がかってるとは?
魂やパワースポットとかなにかの水とか浄化されるとか。手を洗わない、風呂に入らないとかも。清潔どうこうではなく、そういう宗教っぽさという説明でわかりますか?」

国や社会への不信感と反抗。うまいことをやっている連中が儲けているとする感覚があった。だからこそ世代内でも世代間でも相手を出し抜くことが賢さで、そうでもしなければ人並みの安定を手にすることができないという思いがあった。ここにワクチンへの反抗が忍び入り、大麻やマルチビジネスが入り込んだ。

国や専門家を信用しないで、信じたのがデマや陰謀論だけでなく代替医療ビジネスや大麻、マルチビジネスだったということだ。

しかも反ワクチン派が集まる小集団と彼らの交流範囲の規模が、大麻やマルチ商法の勧誘と浸透に向いていた。

この先に彼らのアフターコロナがある。これまでの反ワクチン運動は反抗の目標を失う。小集団は解散するか、しないなら代替医療の生簀や大麻やマルチビジネスの温床化するかもしれない。あるいは散り散りになった人々が、これらの文化やビジネスを引き継ぐだろう。

これもまた彼らの反抗であり意思表示なのだ。

最後に反ワクチンをやめた人の証言と、警察庁が公開している大麻犯についてのデータを紹介して記事を終える。

「マリファナもヘンプオイルも区別ないんじゃないですか。そこにまだ一線があるから参加してる人がみんなやり始めたりしてませんが、ハードルの低さとか感覚とか桁外れの違いかたをしている人が集まっています。自分もその中にいたわけですけど」

大麻犯




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