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コロナ禍を騒がせた彼らはさっそく忘れられてなにも解決されないままひとつの時代が終わるのか

コロナ禍が“原因”で反ワクチンや陰謀論の騒動が“結果”なら、この結果が原因になって新たな問題が登場しても不思議ではない。あの奇妙な人々の騒動が賞味期限切れの話題になっても、彼らは消えていなくなったわけではないのだ。

彼らは消えていなくなったわけではない

2020年1月に国内で新型コロナ肺炎の感染者が見つかってから、私たちは今まで経験したことのないできごとに翻弄され続けてきた。こうしたできごとには変異株が登場したように人智の領域を超えたものもあったが、多くは人間が右往左往したため生じたものだった。

なかでも社会の耳目を集めたものにマスク反対とワクチン反対を声高に叫んだ人たちの街宣活動や陰謀論者の奇妙な言動があり、後者では逮捕者を出して報道が加熱した。では、その後どうなったのか。

賞味期限切れの話題と感じられ後日談が語られる機会も減っているが、彼らは消えていなくなったわけではなく、相変わらず似たようなことをどこかでやっていたとしても人それぞれ異なる状況に置かれている。しかも得意満面だった頃には想像だにしなかっただろう惨憺たるありさまになっている者が少なくない。


何ひとつよい話を聞かない

これまでに私のもとへ寄せられた報告やインタビューで得た反マスク、反ワクチン、陰謀論の事例でハッピーエンドがあったとすれば、2021年の夏までに考えを改めた数件だけだった。その後も「こんなに人生が好転しました」という報告が一件くらいあってもよさそうなものだが皆無なのである。

惨憺たる現状を紹介しよう。

ある女性は反マスク運動の催しで新型コロナ肺炎に感染して、療養後も重い倦怠感と味覚嗅覚障害が後遺症となって尾をひいている。彼女が反マスク運動に参加するようになってから夫と社会人の娘とは関係が悪化し、感染後も反ワクチン運動をしているとあって二人は家を出ていった。

ある男性は陰謀論集団の神真都Qに参加したが構成員が逮捕されたのを知って退会を決意した。だが冷静になって身辺を見回すと周囲の人々は彼のことを避けているだけでなく、構成員だったことが広範囲に知れ渡っていた。まともに相手をしてくれる人がいなくなり、小さな地方都市中に悪名が知れ渡ったような疑心暗鬼に陥って彼は苦しんでいる。

このほか結婚を考え交際していた相手が家族ごと陰謀論に取り憑かれたり、年老いた父親の行動が常軌を逸して娘夫婦が疲れ果てたり、以前紹介した家庭内で暴力をふるう夫の例では離婚が成立している。

当人だけでなく家族などを巻き込んでまったく救いがない例が多い。

過日、上松正和氏が主催したツイッター・スペースにスピーカーとして参加したとき社会が用意すべきセーフティーネットに話題が及んだ。そこでも説明したが、新たにセーフティネットを設けても網から漏れる人がいるのを前述の事例からわかってもらえるだろう。

こうした現状を、反社会的な行動を取ったり奇妙奇天烈な考えかたをするようになった者の自業自得と切り捨てたい人々もいるはずだ。しかし、家族や恋人たちの苦しさに思いを馳せてもらいたいと思う。

また家族から見捨てられた女性、地方都市中に悪名が知れ渡ったのではないかと怯えて身動きがとれなくなっている男性、DVを繰り返し離婚された荒みきった男性が放置されても、世の中にあまたある問題は何ひとつ解決されない。そればかりか放置された人々によって新たな社会的な問題が発生しかねないのだ。


彼らにとっての二年半とは

そもそもあの人たちは何者なのだろうか。なぜ、あのような考え方や行動をするのだろうか。

取材を通じてわかったことを書き出してみよう。

彼らは2019年までの暮らしを期待したまま、現実に即して願望を修正することを拒んだ人たちだった。期待していたのは大それたものではなく、マスクをしろと求められなかった暮らしや、ワクチンを打たなくてもよい日常にすぎなかった。だが、なぜか彼らにとって期待は人格と一体のもので、期待を否定されるのは人格を攻撃されるのと等しかった。このため自分の存在を肯定してくれる都合のよい情報だけを取り入れた。

信じ難いことかもしれないが現実に即して期待を修正できない人は多く、これが露見したのがコロナ禍だった。彼らはマスクやワクチン、悪の組織などと戦っているのではなく、実際には自己肯定感を傷つけるものに感情をたかぶらせて意固地になっているだけだ。しかし都合のよい情報ばかりを集めて切り貼りを繰り返して自己肯定の道具に使ううち、デマや陰謀論に支配されてしまったのである。

たとえばイベルメクチンが新型コロナ肺炎に効くと言い張る人には、この病気が風邪薬を飲むように治療できるものであってほしいと期待している人が多い。こうした期待にたまたまイベルメクチンが合致しただけにすぎなかったが、予防効果と治療効果がないと伝えられると期待が挫かれて人格まで否定された気がした。そしてイベルメクチン賛美のエコーチェンバーの中に閉じこもり、ますますデマに支配されていった。

金銭への期待が裏切られ続けたのもコロナ禍だった。

自粛要請を受けて仕事がなくなったタレントや飲食店経営者などから、新型コロナ肺炎がただの風邪であってほしいと期待する者があらわれたが、期待は裏切られ続け収入は減るいっぽうだった。このなかから「コロナは茶番」と連呼して状況を変えようとし、ワクチンを接種する必要はないと言い張り、やがて陰謀論者になった者がいる。反自粛運動から反ワクチンを経て陰謀論に飛躍した理由は、不安を打ち消して自己肯定感を高めるためだったのだ。

失恋や仕事の行き詰まりや人生の曲がり角で自己肯定感が低下していたところに、新型コロナ肺炎への甘い期待が打ち砕かれて更にストレスが高まりデマや陰謀論に逃げた人も多い。

他のきっかけや理由によって反マスク派と反ワクチン派、陰謀論者といった集団に閉じこもった人々もいるが、自尊心を保てる居場所として利用している点は共通しているようにみえる。

かつて彼らは集団ではなくばらばらだった。「これほど迷惑な人だとは思わなかった」と家族が証言するくらい集団化によって一人ひとりの影響力がふくれあがり、集団そのものも処置のしようがないものになった。すべては自己肯定感を高めて自尊心を守るため、こうなったのだ。


奇妙な人々をコンテンツ化してはならない

いまワクチン反対運動は新たな賛同者を生み出せないまま同胞同士で共感しあうだけのエコーチェンバーと化している。陰謀論者も同様だ。

拡大も過激化も止まったかに見えるなか、「賞味期限切れの話題」と感じるのは彼らの奇矯さがコンテンツとしてパッケージングされ消費された結果であり、なにひとつ解決されないまま次の時代に課題が持ち越されようとしている。

まず彼らは群れに安住することと、自己肯定感を維持するため群れで外部を攻撃することを憶えた。そして、自己肯定感を維持しようと都合のよい話だけを取り込むため、コロナ禍の終焉が群れを解散する理由にはならないのだ。

さらに反ワクチン派や陰謀論者を再組織化して囲い込もうと、彼らが期待する通りのストーリーで日本と世界の情勢を語る政党が続々と登場している。なかでも参政党は参院選で議席を獲得するのではないかと言われるほど支持者層を拡大させた。

神真都Qの構成員は13,000人だが、反ワクチン強硬派と陰謀論者を合わせるとさらに多い。オウム真理教の国内信徒数が最盛期で15,000人だったことを考えると、この何倍もの現実から目を逸らし続ける層が政党と結びつく影響の大きさが想像できるだろう。

これが目を離した隙に事態が進行し新たな局面を迎えた一例だ。このほかニセ医療と投資詐欺への誘導も顕著になっている。

反ワクチンや陰謀論は標準医療を否定しているので、塩や重曹やクエン酸を使った治療から波動検査やホメオパシーに接近するのはとうぜんの成り行きと言ってよいだろう。既に、ワクチン忌避から医療陰謀論に走って自費診療クリニックの怪しい治療や治療機器に散財してしまった女性がいる。この女性は治療機器会社から儲け話を持ちかけられ、彼女曰く国産車1台分の金額を騙し取られた。

一般的と思われる詐欺の手口は、預金封鎖が近々行われるので資産を今すぐ海外への投資や不動産に変えておけという類のもの、紙幣が無効になるので金属でできている硬貨に両替しろと言いながら貴金属への投資に誘うものなどがある。預金封鎖に備えて多額の現金を口座から引き出すだけであったり、これらすべてを硬貨へ両替するだけで留まっている人もいるが、口車に乗って投資や儲け話に大金を注ぎ込む人が出てくるのは時間の問題だ

政党による陰謀論の利用と囲い込みは、たとえ弱小政党とはいえ国民全体に影響を与える。これは山本太郎氏とれいわ新選組で私たちが経験してきたことだ。ニセ医療と投資詐欺は当事者だけでなく家族や周囲に負担と悪影響を及ぼす。しかもインチキな商売を放置すればあらたな被害者が反ワクチンや陰謀論と無関係に増えるいっぽうだ。

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今回からしばらくハラオカヒサはnoteの記事作成や管理をおやすみします。



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