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反ワクチン派の正体とこれから彼らが社会にかける大迷惑をあきらかにしよう

著者:ケイヒロ、ハラオカヒサ

それを理解できない隣人たち

新型コロナ肺炎ワクチンの接種を拒否する人にはさまざまなタイプがある。単なる注射嫌いや医者嫌いで拒否し続けている人もいれば、他人から強制されるのを嫌う人やワクチン接種は陰謀だと信じ込んでいる人もいる。

これらのうちワクチン害悪論や陰謀論を信じる人は、接種率が80%程度に達しているにもかかわらず未だに他人の接種に口出しをしてやめさせようとするし、自分の思い通りにならない人を甚だしく小馬鹿にしたり激怒する。

いま重篤な症状になっているのは圧倒的に非接種者なので勝手にしろと言いたいところだが、医師や看護師の方は迷惑を被っているし、届いた接種券を身内に捨てられるなど厄介なできごとも発生している。

そしてどう考えてもコロナ禍の終了とともに人柄が元通りになるはずがなく、こうした人たちとは社会の一員として付き合い続けなくてはならない。彼らは何者なのか知るのは、面倒を被ったときのリスクとコストを減らすため重要なことだろう。

反ワクチン派の言い分を取材していくと、害悪論や陰謀論を主張する人たちに、いくらやさしく説明してもワクチンに限らず科学的な話題を理解できない人がいることがわかる。

これを裏付けるデータを内閣府が公表している。

「科学技術に関する知識はわかりやすく説明されれば大抵の人は理解できる」かという問いに対して、あまりそう思わないが19.3%、そう思わないが16.0%、両者をあわせた「そう思わない」人たちは35.4%だった。(内閣府/平成19年12月調査/科学技術と社会に関する世論調査)

つまり新型コロナ肺炎ワクチンについて、ワクチンとは何か、なぜワクチンを接種しなければならないのか、ワクチンがどのような効果をもたらしたかをわかりやすく説明しても理解できない、または理解する気がない人が相当数いるのだ。


彼らの敵は新型コロナ肺炎でもワクチンでもない

筆者に反ワクチン集団の内情を教えてくれる元陰謀論者の20代女性も「科学の説明はわからないことが多くて頭に入らない」と言い、同じような傾向の人が集団内にたくさんいたと証言している。しかし彼女はおかしな考えを捨てることができ、そうではない人々が集団に残った。

違いはどこにあったのだろうか。

この女性は「説明が頭に入らない」と言うが、ワクチンについて説明をする人を嫌う気持ちはないという。彼女のさまざまな証言を元に考えると、集団には害悪論や陰謀論を信じる前から専門家や医師を嫌っている人が多いのがわかった。彼らはわかりやすく説明されても理解できない人であるだけでなく、説明する人を嫌う人たちなのだ。

おかしな考え方と出会う前から専門家や医師を嫌っているなら、こうした傾向を正当化するため陰謀論を利用している人もいるだろう。説明をする人が嫌いだから専門家の説明を退けるし、説明されても理解できず、こうした自分を正当化するために害悪論や陰謀論を利用してワクチン接種を嫌がり、考えをあらためてもらおうと説得する専門家を嫌い──と悪循環が発生する。

ではなぜ、専門家を嫌うのだろうか。

この疑問への答えも前述の女性の証言にあった。ワクチンを勧める専門家の説明を理解できないのに、わかっているふりと論破できているふりが甚だしいという。また期待通りの話をする人だけを仲間とする意識がとても強い。

劣等感があるからわかったふりをする。意に反した情報を伝える人は敵、期待通りの話をする人は味方という極端な価値観を持っている。思い通りにならない話をする専門家を馬鹿にしたり激怒するのも、劣等感と敵味方の価値観ゆえだ。

ここで図にまとめてみよう。

これまで、まず何らかのきっかけがあって害悪論や陰謀論と出会って反ワクチン派になると考えられることが多かった。確かに、こうした例もある。しかし、実際にはもっと複雑なのではないか。説明が理解できない故に劣等感を覚え、期待通りにならないから敵対視してワクチンを疑い、これを正当化するため害悪論や陰謀論を取り入れる。

彼らの敵は新型コロナ肺炎でもワクチンでもなく、理解できない説明や指導をする知的エリートなのだ。


そして、他人の接種に口出しをしたがるのも劣等感があるからではないだろうか。彼らは懇切丁寧なイラスト入りのチラシを配ったり、ワクチン接種について悩む人に名医のような振る舞いで助言をしている。もちろん味方を増やしたいのもあるだろうが、専門家と同等の立場に立った気になり、専門家のように影響力を行使したい願望があるように見受けられる。

これがワクチン害悪論者や陰謀論者のすべてではないが、このような人がかなりの割合で含まれているのは間違いない。またワクチン害悪論や陰謀論に限った話ではない。

癌の標準治療を否定する人の証言にも自分の期待通りではないものを否定する傾向があり、標準治療を勧める医師を馬鹿にする人がいる。

癌の民間療法や代替医療、医師によるおかしな治療法では「標準治療は金儲けのために行われている」と言われることが多い。ワクチン害悪論や陰謀論でも「製薬会社と医師の金儲けのため」と言われるのはご存知の通りだ。

わかりやすく説明されても理解できない人は、専門家は常に自分を騙そうとしていると思い込みやすい。ここに期待通りではない情報を伝える人を敵と断定する意識も働いている。これらは劣等感と結びついている。こうした自分の考えを正当化したり補強するのが「あいつらは金儲けのためにやっている論」だ。

また、金儲けのためにやっている連中を糾弾する正義の意識も芽生える。

金儲けでやっている論は、説明を理解できない人を釣り上げるのに格好の餌になる。そしてこれが、害悪論や陰謀論を信じている人と、彼らを生簀に入れて商売にする者との相関関係だ。


迷惑は10年前から10年後まで

こうした人はコロナ禍になってはじめて登場したわけでも、いままでトラブルを起こさず暮らしてきたわけでもない。反ワクチンの人々とかなり重なりあうレイヤーが日本社会に10年前から存在するのだった。

それは、反原発の主張をするだけでなく「鼻血」「癌」「奇形」「関東から避難しなければならない」など被曝デマを流していた人たちだ。

反原発を標榜するツイッターアカウントを2017年に1000件抽出し、のちに凍結や休眠などで消えたアカウントを除いた805件を2020年に確認すると、曖昧なものを含めワクチン害悪論や陰謀論に傾いている例が多かった。

このレイヤーが初期の反ワクチン勢の底流にあり、以後右派または民族主義者が増え続ける。どちらの側も、いくら説明されても事実がわからない人や、劣等感から専門家を小馬鹿にする人で、専門家には騙されっぱなしと考える似た者同士だ。

つまり反原発運動のローエンドからボリュームゾーンは、原子力ムラがいいように儲けているとか、御用学者に騙されていると言われて集まってきたとも言える。デマによる風評加害が根強く続いているのはこの層が分厚いからだ。

彼らが反ワクチンへ移行したように、コロナ禍で目覚めてしまった人たちもさまざまなワクチンデマをばら撒き続けながら、新たな問題でも厄介者になるのは想像に難くない。

私たちの社会が専門家からの説明や解説、指導を必要とするとき、つまりそれなりの非常時に、理解できないことで劣等感を抱く人々が解決の足を引っ張るだろう。そこまで非常時ではない日常のなかでも、非科学的であったり感情的な態度でシンプルな解決策を遠ざけるのは目に見えている。

では反ワクチン派に、これから私たちはどのように対応したらよいのだろうか。

まず、科学や医学についてわかりやすく説明されても理解できない人たちが2割程度はいると覚悟しなければならない。この人たちは期待通りのアドバイス以外は敵からの攻撃と考えるので、心変わりさせるための説得はほぼ不可能と考えたほうがよい。

説得は無駄でも、政府や自治体の広報、メディアの報道、SNSの発言で彼らに向けて説明を尽くすのはある程度理解できる人や、理解できるが迷いがある人にこそ効果がある。

だが反ワクチン派をつくらないことが何より大切だ。

私たちに貴重な情報を与えてくれた前述の女性は、2020年末から2021年初頭に溢れたワクチン忌避を煽る報道で反ワクチン派になった。医師さえ接種したがらない危険すぎるワクチンと報道されたことと、SNSでネガティブな話題として取り上げられたため彼女はワクチンは危ないものと恐れた。

彼女は反ワクチン集団の仲間割れに嫌気がさしたとき、ワクチンの不安を解く情報に触れるのを躊躇わなくなった。SNSではワクチンについて淡々と手短に少しずつ説明している医師の言葉に耳を傾けてみた。しばらくするとワクチン忌避を煽る報道に触れる前の状態にリセットされた。

彼女は例外的な存在かもしれないが、海外から輸入された陰謀論以上に国内の報道が反ワクチン派を生み出していないか検証すべきで、ツイッターやフェイスブックがワクチンについての誤った情報をもっと早く、もっと的確に削除していたら反ワクチン派の大増殖は防げていた可能性を示唆している。またワクチンの効果と安全性を伝える方法は適切だったかも問い直す必要があるだろう。

大量の情報から適切なものを選択して解釈するためには家庭での教育も大切だが、小中学校で現実に即した情報リテラシー教育を徹底するほかない。

わかりやすく説明されても理解できない2割程度の人々のなかから、わずかであっても事実にたどりつける人をつくることで社会のリスクとコストを大幅に下げられるはずだ。


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