磯焼けの全体像を知るための本「プロダイバーのウニ駆除クエスト」
先日、磯焼け問題を解決する技術を学びに、地域おこし協力隊として壱岐島に渡った名子さんのインタビューを掲載した。
「磯焼け」という言葉を検索すると、日本各地の海のニュースが出てくるし、対策だけでも、
①食害生物の駆除&蓄養(ここは、割とブームらしく、たくさんヒットする)
②鉄鋼スラグと腐葉土をセットで海岸に埋めて海に足りない栄養を増やす(製鉄会社の肝煎りで主に北海道で行われている印象)
③海藻の種苗生産&海への移植(東北が先進地という印象)
などが話題として上がってくる。けれど、それらを個別に見ていた時には、本当の問題は何なのかがよくわからなかった。全体像を掴みかねていたという方が正確だ。
こちらは、そんな磯焼け問題ビギナーの私の頭の中を整理してくれた本。「ウニを倒すと、海が平和に?!」というサブタイトルから、「ウニを駆除することが磯焼け問題解決の正解だ」という主張が並ぶのかと思いきや、実はウニも被害者だという視点で海を見ることを教えてくれる。いろんな生き物が繋がって生態系を作り上げている以上、何か一つだけが悪者になることはないのだ。
名子さんのインタビュー前に、読んでおきたかった必読の書であった。
著者の中村拓朗さんは、YouTube「スイチャンネル」を運営するプロダイバー。こちらのチャンネルで得られた収益で海の保全活動を行っている。中村さんのすごいところは、一般に「こうであろう」と言われている理屈を、鵜呑みにしないところだ。一つ一つ自分で検証し、真実に辿り着こうとする。
「ウニを駆除すれば、海藻の森は復活する」は、間違いであること。ムラサキウニは、背の高い海藻に自力で登って食べることができないこと。ただし、背の低い海藻は食べてしまうので、ウニ漁を行って間引きし、数を調整することが大事であること。こういった事実を、年単位の観察から見つけ出していく。
これらは、今後、各地で磯焼け対策を行う人たちに、「答え」ではなく「考え方」を教える最高の教科書になるだろう。
名子さんや中村さんを見ていると、フレデリック・バックの「木を植えた男」を思い出す。広すぎる海の問題に怯んだり、無力感に打ちのめされたりせず、自分にできることを淡々と実践する人たち。日本中のあちこちにいる「木を植えた男」が、海の磯焼けを食い止め、生物の豊かな海を取り戻すのだろう。
磯焼けのない豊かな海で、私が遊ぶことが叶わなくてもいい。何世代かのちの子どもたちが、歓声を上げながら、豊かな生態系を取り戻した海に飛び込んでいくところを想像するとワクワクする。