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「絶景ではなく、車窓の風景のような人間でいたい」〜丹波篠山の旅行記を添えて〜

こんばんは。

前回に引き続き、仕事を早く終え、近所のコメダに来て至福の時間を過ごしている。
隣の席から早速面白い会話が聞こえてきた。私と同じくらいの年代と思われる女子2人が交わした「休日、部屋では何を着て過ごすか」についてのちょっとした会話だ。

●「ねえ、一日家にいる日ってパジャマから部屋着に着替える?」
◆「いや、着替えん。」
●「やんなあ。○○ちゃん、部屋着に着替えるらしいで。意味分からん。家の中の制服はパジャマやん」

「家の中の制服はパジャマ」
家の中ではパジャマでいいでしょっていう内容をなんと面白く表現するんだろう、と感心してしまった。と同時に、「私は絶対部屋着に着替える派!○○ちゃんと同じ!」って会話に入りたくなる気持ちを何とか抑えた。

前置きはさておき、今日は、最近自分が思い描いている将来の理想像について書き残してみる。

私が最近「いつかはこうなりたいなあ」と思った人間像とは、見出しにも書いた「絶景ではなく、車窓の風景のような人間」だ。

見出しの文章は、朝日新聞の1面に毎日掲載されている鷲田清一さんの「折々のことば」シリーズで、ある日紹介されていたものだ。
それによれば、安西水丸さんという絵本作家の方の画文集『一本の水平線』での一文らしい。

鷲田さんの解説の一部は以下の通りだ。
「目立ちたいとも、強い印象を残したいとも思わない。一人ぽつんと立っていても、土地に溶け込み、周囲や背後にいる人、いた人のことまで匂わせる、そんなきちんとしたワン・オブ・ゼムでいたいということか。」

これを読んでから1ヶ月ほど経った1月下旬の土曜日、私は神戸から2時間弱ほど離れた丹波篠山で一人旅をしていた。

旅の途中で出会った素敵なお兄さんと素敵なおばあちゃん・おじいちゃんとの思い出を振り返っていた時にふと、見出しの文章を思い出したのだ。

まず素敵なお兄さんについて。この方は、夕方に訪れた喫茶店兼宿のオーナーさんだ。
すらっと高身長。メガネをかけ、ノーカラーの真っ白いシャツにエプロン。装いからしてカフェのオーナー感満載だなあと思いつつ、素朴な感じもありつつ。でも少し話しかけにくそう。第一印象は大体こんな感じだった。

お店の中の棚には本が並んだコーナーがあり、そこでどんな本があるかなあと眺めていたら、オーナーのお兄さんが声をかけてくれた。
「近くの本屋さんが選書してくれているんですよ」
どうやらここの喫茶店では、近くの本屋さんが選書した本を並べ、カフェにいながら読むこともできるし、購入して持ち帰ることもできるとのことだった。



そこから話は私の夕飯のお店をどうするか、という話題に移った。
夜ご飯のお店は下調べしていたものの、せっかくなら地元の人に聞くのがいいと思ったのだ。
「夕飯、おすすめの場所ありますか」
私のこのなんでもない質問に、それはそれはとても丁寧に向き合ってくれた。
串カツのお店を薦められたので、「昼ごはん随分と量が多かったので結構お腹がいっぱいでして、、」と正直な気持ちを吐露すると、「そしたら、○○って居酒屋さんいいかもしれないです」と教えてくれた。私以外にお客さんがいなかったこともあり、パソコンまで開いて色々調べてくれ、幾つかおすすめを教えてくれた。

そこから次は丹波篠山とはどんなまちかという話題に移った。
まず、本棚の、扉が閉まっていて見えていなかった部分から丹波篠山を特集した雑誌2冊を引っ張り出し、私の机に置いてくれた。私がペラペラめくっていると、「丹波篠山は陶芸が盛んでね」と。詳しくは忘れてしまってとても悔しいのだが(その日中に書き残せば良かった)、もの作りに真摯に取り組む人がこのまちには多いという話をしてくれた。丹波篠山への愛が伝わってくるような内容だった。まちへの誇りが感じられた。多分この方は、このまちに住むたくさんの素敵な方と交流してきたんだろうなあ、このまちを愛する人をたくさん知っているんだろうなあ。そんなことが伝わってくる話ぶりだった。それもとてもとても柔らかい話し方で。

もう一つは素敵なおばあちゃん・おじいちゃんについて。
喫茶店で紹介してもらったお店は外から見えた限り満席のようだったので、通りがかりに見つけたお寿司屋さんに入ることにした。素敵なおばあさん・おじいさんはそこで出会った二人だ。

外からは店の中の様子が伺えず、入るのには少し勇気が要った。一人でお店に入る時は、一人でも入りやすい店かどうかをお店の雰囲気で判断するものだが、中の様子が全くもって分からなかった。とはいえ他にあまり候補はなく、「私のことなんて誰も見ていない」と暗示をかけ、いざ入った。

入ってすぐ近くにおばあちゃんがいた。見た目からして90歳はいってそうな、背丈が150センチくらいの女性だった。カウンター席とお座敷があって、お座敷に中年男性4人組がいるのみだった。4人組はぱっと見すごい柄が悪い感じではなく、かといっておとなしい感じでもなかったが、「まあこれならいける」って感じで、カウンター席にしれっと座った。もちろん入店した以上、もう引き返すことは難しかったが。

メニューを持ってきてくれたおばあちゃんが「おすすめはちらし定食」と教えてくれた。グーグルで調べた限り、鯖寿司がおいしそうだっただけに、私は随分と迷ったが、ここはおすすめを信じようとちらし定食を注文した。

ちらし寿司を作ってくれるのはどうやらおじいちゃん。目の前でご飯の上に順番にお魚をのせていってくれているのがわかった。
そうこうしてテーブルに届いたちらし定食はなんとも鮮やか。ちらし丼は私の想像をはるかに超えて、それはそれはたくさんの海鮮がぎっしり詰まってた。えびに白子にかずのこに鮪にぶりに鯖に卵焼きにかんぴょう。ちらし丼以外にもお盆には味噌汁に山芋に煮物の小鉢。こんな豪華なちらし定食が1400円だなんて、と思い、おじいちゃんに「たっぷりで嬉しいです」ってお声がけしたら、「正直赤字だよ。でもみんなが喜んでくれるから」と。

そこから少しお話しすると、注文の応対をしてくれたおばあちゃんがお店の3代目だそうで、前身のお菓子屋さん時代も含めたら、もう90年くらい続いているお店とのこと。そんなお話しをしていたら、「これも食べな」と言っておばあちゃんが炊き込みご飯を持ってきてくれた。すでにお腹がいっぱいに近かったけれど、あたたかいおもてなしがただただうれしかった。

おばあちゃんは帰り際にはみかんまでくれた。それも2個も。惜しみなく人に与えるってことをする方なんだろうなと思ったし、そうやっていろんな人を迎えてきたんだろうなと感じた。90年も続いた理由がなんとなくわかった気がした。お店を出る時におじいちゃんおばあちゃんに「また来ますね」と伝えると、「私たちが生きてるうちにね」と笑って返してくれた。

素敵な出会いに溢れたひとり旅だった。
背景にはたくさんの人が感じられる、そんな御三方だった。
そんな御三方が私にはとにかくまぶしかった。とにかくかっこよかった。「私もこんな人に将来なれたらいいな」と純粋にそう心から思った。

とてもとても長くなってしまった。ここまで読んでくださった方、ありがとう。

2023/04/05 モロヘイヤ





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