見出し画像

バロット

某新聞社にエッセイとして応募してみようかと書いた文章をとりあえずここに載せてみることにした。私の日常をただ記したエッセイ。さて、如何なものか。

ーーーーーーー

コロナウイルスの影響で外出自粛生活が続く中、最近の楽しみの一つといえば料理だ。共働きの両親の負担軽減という目的もあるが、何より料理が大好きだからだ。

「この人参はどうやって切ろう」「今日のジャガイモは芽が出すぎているなあ」と食材や料理の工程だけを考えていられる時間は、他の雑念にとらわれないで済む貴重な時間であり、リラックス効果がある。

ある日曜の昼下がり、前の晩の夕飯で余った卵白を活用しようと紅茶のシフォンケーキを作ることにした。パソコンを開き、検索をかけ、ちょうど良さそうなレシピを見つけた。卵3個との指示通りに冷蔵庫の卵専用エリアからいつも通り卵を取り出していざ料理開始。卵2個目まで順調に卵黄と卵白に分け、最後の1個。

卵を割った瞬間、時が止まったようにびっくり仰天、なぜならそこには成熟した固まった卵がいたのだ。

「何が起きている?」「日本でもこんなミスあるんだ」などと留学から帰国したばかりの私は頭が混乱しかけた。

その直後に台所へ母が登場、一瞬びっくりしていたものの「それゆで卵だよ!」との母の声とともにお互いに顔を見合わせて大爆笑。腹を抱えて笑う、とはこのことかと思うほどに二人で笑いころけた。

どうやら母は作り置きのゆで卵を冷蔵庫の卵専用エリアに戻して置いていたらしかった。成熟した卵が私の目に飛び込んできた瞬間、私はフィリピンで出会った珍味「バロット」(孵化しかけたアヒルの卵)をふと思い出した。あの衝撃的な出会いがこの平凡な日常の中で急に思い起こされた。この平凡な今が過去の色鮮やかな出来事によって面白おかしく色付けされたようだった。過去にはそんな効用もあるのか、と。次にフィリピンでバロットと再会する時にはこの出来事を思い出すのだろうか。自由に海外旅行できる日が早く訪れるといいなあとの思いを馳せて。

ーーーーーーー

バロットを知らない方はぜひ検索をかけて画像をみて欲しい。ちょっとグロいので苦手な方は見ない方がいいかもだが。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?