匂いと記憶

匂いと記憶って深い所で結びついてると思うんです。殊更プラスな思い出に関しては。
というのも、私が石油ストーブの燃焼する匂いを嗅ぐと、ポケットモンスターパールが頭の中に浮かぶんです。

私が小学生4年生の頃のクリスマスの朝、寝返りを打つと頬にヒンヤリと冷たい感覚がありました。
目を開けると、視界の半分は黄金が占めていました。
そこで私はガバッと上体を起こし、ぼやけた目を擦りながらその黄金の物体を見つめました。
金ピカのラッピングに包まれた、正方形の薄い箱状のものでした。
私はこの中身が何であるかは、もちろん知っていました。
私はここで取り乱すと子供じみててダサいと思い(別に誰かが見ているわけではないが)、落ち着いて、しかし早足でリビングに向かいました。
リビングのローテーブルの上には、今日のために前日の夜たっぷりと充電していたDS初期型を用意していました。
私はリビングの電気をつけ、延長プラグのコンセントを挿し、石油ストーブの電源を入れました。これから燃焼を始めるため、すぐには暖かくなりません。
ついでホットカーペットの電源も入れ、最高温度までツマミを回した所で、やっと例の物を手に取り直しました。
封蝋を模したシールを剥がし、中のものを取り出すと、それはDSソフト、ポケットモンスターパールでした。

何度もCMやゲーム雑誌、店頭で見ていたパッケージが、手に伝わる冷たい感触と共に現れたのです。
パッケージはキラキラとラメ加工されており、本当に宝物のようでした。
開けると、左に厚めの説明書、右にゲームカードです。私は一目散にゲームカードを「パキッ」と取り出し、予め空けておいたDS本体のカードスロットに差し込みました。
DSの電源をつけ、ゲームカードが認識されていることを確認し、ゲームを開始しました。
間もなくオープニングが始まり、新しい冒険に対する私の興奮は最高潮に達しました。
ちょうどその頃、私の横の石油ストーブが「チチチチッ」と音を立てました。
「ボボボボッ」と燃焼音を出しながらほのかに赤く光りだし、しばらくして暖気がやってきました。
そして石油ストーブの匂いを嗅いだのです。
ポケモンパールに対しての興奮と、石油ストーブの匂いが同時に来たことにより、この2つは強く結ばれ、記憶として私の脳に刻まれたのです。
なので、未だに石油ストーブの匂いを嗅いだらポケモンパールを想起させますし、逆にポケモンパールをプレイしたりゲーム映像を見たりすると、石油ストーブの匂いを思い出します。一方的な矢印の方向はなく、2つは相互的に補完し合っています。

他にも事例はたくさんあります。実家の車の車内の匂いと、その車内で家まで待ちきれずに説明書を読み倒したGCソフト「どうぶつの森e+」や、親戚の家の畳のカビの匂いと、その親戚の家で読んだ漫画「焼きたて!!ジャぱん」など。

これからの生活の中でも、そういった印象的な出来事と匂いの結合が行われていくのでしょうか。また偶然嗅いだ匂いが、今まで忘れていた記憶を思い出させるのでしょうか。楽しみです。