役職定年とどう向き合うか
「人生百年時代」とか、「70歳までは働かなくては」などと言われます。以前は60歳が主流だった定年も、65歳に引き上げられ、70歳定年が一般的となる日も近そうです。60歳定年が義務化された1980年の平均寿命が男性73歳、女性79歳であったのに対し、2023年の平均寿命は男性81歳、女性87歳ですから、70歳まで働かなくては、という意見はそれほど違和感のあるものではないでしょう。
一方で日本の大企業の多くが「役職定年」という制度を設けています。これは企業によって多少の差はありますが、おおむね55歳前後で部長や課長などの役職を解かれて降格し、給料も下がるという制度です。乱暴な言い方をすれば、55歳以降の従業員には今後の成長は見込めないので、若者に道を譲りつつ、負担の少ない仕事で余生を過ごしてもらおう、ということです。この制度が導入されたのは、60歳定年が努力義務化された1986年ごろからと言われています。定年が60歳ならば、50代後半で役職を降りて5年程度を緩やかに業務を若手に引き継ぎながら過ごすというのもそれほど違和感のないものであったかもしれません。それ以前はそもそも定年が55歳の企業が多かったので、それほど受け入れにくいものでもなかったのでしょう。
しかし、会社で働く年齢が65歳から70歳と伸びてくると、役職を降りてからも10年以上あることになり、引き継ぎながらのフェードアウト期間としては明らかに長すぎます。実際、役職定年を廃止する企業も増えてきているようですが、まだ多くの企業がこの制度を存続させています。企業側にはいくつかメリットがあるためでしょう。
役職定年のメリット
まず、組織の新陳代謝が促進されます。仮に65歳なり、70歳なりまで役職を外れないとした場合、多くの企業で大量の社員がいるバブル期採用の人々がずっと役職を占有することになり、その下の世代の人たちにはなかなかチャンスが巡ってきません。ようやく大量採用時の人々が定年退職するころには、下の世代も50代、60代を迎え、新たに管理職に登用するには年を取りすぎているということになりそうです。
次に中高年社員の人件費が削減できます。役職定年になると年収が3割~5割程度減る企業が多いようです。更に、60歳を過ぎると再雇用となって給与計算のベースが完全に別テーブルになる会社もあります。こうなると、全盛期の1/3程度の給与になってしまうケースも珍しくないようです。職責を変えずに給与だけを下げることは難しいので、人件費を削るには職責・職位を下げる必要があるわけです。
役職定年のデメリット
ではデメリットはどうでしょうか?
何といっても大きいのは、ベテラン社員のモチベーションが大きく下がることです。実際に経験した事例をお話ししましょう。
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