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野生動物との共生問題

田中淳夫著【獣害列島 増えすぎた日本の野生動物たち】という本の第5章「獣害列島の行く末」に私が日頃から考えていたことについての重要なヒントが書かれていたので紹介したい。

都市の中でも野生動物が適度に出没して、たまに目にしたり触れ合ったりする……そんな日常が送れたら、精神的な暮らしの質は豊かになるように思うのだ。(187ページから引用)

前後の文章も示唆に富んだ内容なので、なんか面白そうだなぁと思った方には是非とも本書を読んでいただきたいところ。
私が住んでいる秋田県北秋田市では年々ニホンジカやイノシシが増えてきており、農作物の被害額が増加している。
獣害対策は「駆除」だけではなく「防護」と「予防」が何より大事ということは徐々に知られてきているが、それと同時に【人間が野生動物の知識を身につけ、危険性と対応の仕方を深く知らねばならない】ということも普及していきたい。

本書にも書かれているが「獣害対策をしたうえで動物との接触を楽しめる環境をつくれないか」という問いは、これからも野生動物が増え続ける日本全国において、ますますピックアップされてくると思われる。特にアフターコロナのインバウンド観光において、マタギ文化をPRしていく当地域にとってはとりわけ重要な考え方だ。動物を「迷惑なもの」「かわいいもの」という単純明快なカテゴリーに収めることなく、もっと動物と一緒に生きる方法を学べる場が必要だと思う。

目を向けるべきは人間の都合だけの駆除ではなく、極端な動物愛護でもない。人と動物が共存する地域の生態系であり、それらすべてを含む社会の豊かな未来だろう。(187ページから引用)

共存共栄は難しい。大昔は共存共栄というより、動物と人間、お互いがせめぎ合ってギリギリバランスが取れていた時代がほんの少しの間あったという見方が正しいのではないか。
今は動物愛護活動や毛皮反対、動物福祉、菜食主義など、すべてではないが、中には極端な活動も多くなり、人間社会でもバランスが崩壊しかかっていると思う。
はっきりと線引きしたい気持ちはわかるが、所詮は人間も動物の一種。もっと自然と動物、人間が交わる「滲み」の部分を大事にしていきたい。私がイメージする共存共栄の地域像は「滲み」である。お互いのエリアは確保しつつも、溶け合っている部分を保ち続けたい。

そんな思いから昨年立ち上げたのが「森吉山こども自然塾」である。
まずは観光目的というよりも、教育分野から。北東北の教育熱心なご家族に向けて、森吉山麓の動植物の生態や自然環境を学習できるスペースを用意した。パンフレットのデザインは地元北秋田市の「コマド意匠設計室」さん。

パンフレットの前面に私の共存共栄のイメージである「滲み」を押し出していただいた。
このゲストハウス・自然塾からどれだけ美しい滲みのグラデーションを広げていけるか。それは私の一生をかけた挑戦である。野生動物との共生の問題は、地方消滅の問題から考えてみると、一生なんて悠長なことを言っている暇がなく、あと数年でタイムリミットとなってしまうかもしれないが……。私たちは何を残して、何を変えていけるだろうか。

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