発語と理解(配信#2)

podcast「オトコの子育てよももやまばなし」の第2回が配信されています。テーマは「パパって呼ばれるのが苦手勢の呼び名談義」です。

要は自分の子どもから何て呼ばれたいかという話で、一般的には「パパ・ママ」が多いかと思います。ただタイトルにある通り、番組の相方である清田も私もそれぞれのパートナーも、パパ・ママと呼ばれることに抵抗感があり、ではそれぞれどうしているのか……みたいなことを番組では話しています。ぜひ聴いてみてください。今回は、配信後に読んだある本とリスナーさんからいただいたメールをもとに振り返りを書いてみたいと思います。

この「子どもからの呼び名問題」は妻と私の間で少し前から議論していて、未だ決着していません。ただしワイちゃんはまだ言葉を発しないので、現段階ではワイちゃんにどう呼んでもらうかではなく、「ワイちゃんに語りかける時に、自分を何と称するか」あるいは「身近な人がワイちゃんに語りかける時に、自分たちのことを何と称してもらうか」が問題となっています。
この議論の前提には、「呼び名がバラバラだとワイちゃんが混乱してしまうのではないか」という懸念があります。自分たちの両親もそこを気にして決めてほしいと言ってきたし、私も関係者内では統一した方がいいだろうと直感的に思いました。
しかし実はこの前提がちょっと怪しいというか、そんなこと気にする必要ないんじゃないかという考えが収録後に浮上してきました。というのも、次回配信に関連して『赤ちゃんはコトバをどのように習得するのか』という翻訳本をパラパラと読んでいる時に、次のような一節に行き当たったんです(著者はフランス人)。

(一歳半をすぎたぐらいのコドモは)ひとつのモノがいくつか名前を持つことがある、ということをすぐ学習する。たとえば「イヌ」は動物であり、「メドール」とか「ワンちゃん」と呼ばれることもある、というふうに。このことはコドモにはごく自然のことのようだ。「パパ」が「ムッシュー」でもあり、また「ピエール」とか「ポール」とか「あなた」と呼ばれるのを当然のことと思っているのである。

『赤ちゃんはコトバをどのように習得するのか』(B・ド・ボワソン=バルディ、藤原書店)

つまりこの本によると、例えばワイちゃんに話すときに私が「お父さん」と自称し、妻が私のことを「モリちゃん」と呼び、母が私を「パパ」と称しても、ワイちゃんは別に混乱しないということになります。子どもからの呼び名と夫婦間の呼び名が違うのはごく普通のことなので、よく考えると当たり前のことのような気もするし、でもやっぱりちょっと不思議な気もします。
そんなことを考えていた矢先に、第2回配信を聴いてくれたリスナーさんからメールをいただきました。

私は結婚してからも夫のことを「佐藤さん」と名字+さんづけで呼んでおり、会社の先輩だったときから付き合い時代、夫婦時代と呼び名を変えずに生きていました。(中略)
子どもの前でもそのまま「佐藤さん」と呼び続けました。
すると、子どもが発語を始めたころ「おとう…さとう…おとう…さとう…」と、一瞬ですがおとうさんorさとうさんで混乱していた時期がありました。ちょっと面白かったです。(中略)
夫婦での呼び名があっても、子どもは勝手に自分だけの呼び方で呼んでいます、という一例として参考にしていただければ幸いです。

投稿名「閣下」さんからのメール

この子は明らかに、父親が「お父さん」であり「佐藤さん」であることを理解しています。「おとう」と「さとう」のかわいい混乱は、私が懸念していたような意味理解的な混乱というよりも、音韻が似ているがゆえに生じた出力のバグみたいな印象があります。脳内辞書から引き出す時にどちらにするか一瞬迷う、みたいなイメージです(いい加減な推察です)。

翻ってみると私には、赤ちゃんが「発語する言葉」と「理解している言葉」は一対一で対応しているという、変な思い込みがあったような気がします。それはたぶん発語に重きを置きすぎている考え方で、どう発語するかばかりに思考が囚われていたような気がします。
実際のところ、発語と理解って別のレイヤーの話のようです。上述の本によると、赤ちゃんは、発語する言葉よりもずっと多くの言葉を理解しているとのことです。しかもその脳内辞書には「イヌ=ワンちゃん」みたいな類語の情報も記載されているわけで、こちらが思っているより複雑で豊かなんだろうなと思います。
そんなことを考えていると、ワイちゃんがどの呼び名を選択するのか、俄然興味が湧いてきました。これ本当に一回しか観察できないことだから、あまりコントロールしようとせずに見守りたいと思っています。

さて、今日は大晦日なので、2回目にしてこれが今年最後の更新になります。
こんなに長文を書くつもりもなかったんですが、閣下さんからのメールに触発されて気持ちがドライブした感じです。「エピソード数珠つなぎ」が桃山商事の持ち味なので、配信を聴いて思い出したことがありましたら、みなさんぜひお便りください。
来年もよろしくお願いいたします。

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