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補正納得できないマン

補正通知を受けましたが全く納得できず2日間にわたってやり合ったお話です。

※なお、断っておきますが、本調査官の方を批判する意図は一切なく、また私は普段から登記官/調査官をやり込めたことを「勝った」と表現するタイプの人間ではありません。

概要

1人株主・取締役Aのみの株式会社が、取締役会設置会社に移行するとともにいくつかの定款変更を行うことになりました。併せて、取締役BC、監査役Xを追加し、取締役Bを代表取締役とすることになったため、変更後定款の附則に以下のような規定を定めたうえで、登記を申請しました。

附則
1 取締役会設置後の最初の代表取締役は●●とする。
2  本附則は、2023年●月1日の経過とともにこれを削除する。

ところが、完了日の3日前に「代表取締役を選定した旨の取締役議事録を追完してください」という通知が来ました。


電話でのやりとり

「いやいや定款で選んでますがな。見落としたのかな?」と思い、電話でやり取りをしたところ「定款に定めがない」「だから取締役会で選ぶしかない」と言われたので「いや附則に書いてありますよね?」「定款に定める場合は『代表取締役を●とする』としなきゃダメですよね?」「いやだからそう書いてますよね?」「消除しているじゃないですか」「いや時限的な定めにしてますよね」「取締役会で選ばない場合は定款の規定が必要ですよね?」「いやだからそう書いてますよね附則に。直接選定してますよね。」「じゃあ代表が変わるたびに定款変更するんですか?」「いやだからね、…」とこちらの言ってることと向こうの言っていることが全くかみ合わず、補正の意図がわかりませんでした。
ただ、どうも電話でやりとりをしているなかで、そもそも本ケースにおいて代表取締役を定款で直接選定ができる旨の認識があるのかよくわかりませんでした。ですので、登記官が知らないなんてことあるのかな?と思いつつも「では資料を送るので確認していただけますか」と伝えて受話器を置きました。

意見書1

電話を切った後、一応手元の書籍を何冊か確認し、改めて自分の見解が誤っていないことを確認したうえで、下記意見書をFAXしました。

「取締役会設置会社の代表取締役を定款で直接選定することについて」

1.取締役会設置設置会社は取締役会で代表取締役を選定する(362条2項)ことになっておりますが、定款の定めにより株主総会で選定することもできるとされております(295条2項)。
2.この場合でも、取締役会の選定権限は奪われず、選定権限は併存するのが通説です(ハンドブック390ページ)。
3.上記のように、定款の定めにより株主総会で選べる、つまり間接選定ができるのであれば、定款で直接選定(29条)も当然できると考えるのが解釈上自然だと考えます。
4.なお、別添登記情報539号19ページにおいて、会社法立法担当者が定款直接選定の方法を許容しております。


先方からの回答書

上記を受け、その日の午後に下記のようなFAXが届きました。

 取締役会設置会社の代表取締役選定方法は,①取締役会決議による方法②定款にその定めを設けることによる株主総会決議による方法③定款で直接選定する方法の3通りありますが,② ③の方法によって行う場合は, 定款にその旨が記載されていることが前提です。
②については 「代表取締役は株主総会の決議によって定めることができる」といった記載を指しますし(ハンドブックにも同主旨の記述があります),③は定款の役員の項目中に「当会社の代表取締役は●● とする」といった記載がされることを指すと考えます(本日のお電話で「代表が変わるたびに定款変更するんですか」とお聞きしたのは③を指します)。
当該会社の変更後定款にはこれら②③に該当する記載がないため,株主総会終了後 の代表取締役選定方法は「取締役会決議による方法」に限定されます。
以上のことから,附則で記載されている条項は,上記で規定している選定方法のど れにも当てはまらない余剰記載だと考えます。
なお、登記情報 5 3 9 号で触れられているのは, 補欠の予選が「できるか否か」をテーマにしているのであり, 「法や定款で定めた方法」によって「できる」と記述されているのであり,取締役会設匿会社の代表取締役選定方法が,定款の定めなくして他の方法で行えるという趣旨ではないのではないでしょうか。


意見書2

上記FAXを受け取りまして、どこを争点としているのか、なにをもって補正としているのか、正直まったく意味が分かりませんでした。
本件はクライアントから完了を急かされていたこともあり、このような意味の分からない補正で足踏みをしている場合ではなかったし面倒だったので一瞬補正に応じようかとも思ったのですが、やはりこれは認めてはいけないなと思いなおし、下記意見書2を再送いたしました(めちゃ長い)。

いつも大変お世話になっております。お忙しいところご回答ありがとうございました。
回答書を拝見しましたが、ご認識の相違があると考えますので”取締役会設置会社においても定款での直接選定(以下この規定を「定款直接選定規定」といいます)が可能である”という共通認識をもっていただいている前提で、下記ご回答いたします。

1.『③は定款の役員の項目中に「当会社の代表取締役は●する」といった記載がされることを指すと考えます』という指摘について
⇒当該規定の必要性について異論はありませんが、あくまで代表取締役の選定時に必要な定めであり、選定後にその規定が削除されることは当然ありうることで、当該規定が継続して定款に定められている必要はありません。先に申し上げた通り、定款直接規定を定めたとしても取締役会での選定権限は奪われず、選定権限は併存するため、定款直接選定規定が削除されれば、対象会社の以後の代表取締役は、取締役会で選定(以下この規定を「取締役会選定規定」といいます)されることになります。
株主総会議事録に添付した変更定款案附則2項において「本附則は、2023年●月1日の経過とともにこれを削除する。」とあることから、1項は2023年●月2日0時に消除されますが、一方で、1項の効力は1号議案可決時に発生していることから、代表取締役B氏の選定時には、対象会社の定款には定款直接選定規定があり、それが翌日の0時に消除されるだけのことで、繰り返しになりますが、●月2日以降は取締役会選定規定(本定款xx条)のみが残ることになります。
つまり、御庁が指摘する『当該会社の変更後定款には③に該当する記載がないため,株主総会終了後の代表取締役選定方法は「取締役会決議による方法」に限定されます。』は誤りだと考えます。
※なお、直接は関連しませんが『本日のお話で「代表が変わるたびに定款変更するんですか」とお聞きしたのは③を指します』という指摘についても、認識相違があると考えます。当該附則1項が消除されなかったとしても、記載してある通り「取締役会設置後の最初の代表取締役は~」とあるので、2人目以降の代表取締役については当該規定で選定することはできず(それこそ余事記載になると考えます)、対象会社の定款xx条に従い取締役会でしか選定できないと考えます。

2.『なお、登記情報539号で触れられているのは,補欠の予選が「できるか否か」をテーマにしているのであり,「法や定款で定めた方法」によって「できる」と記述されているのであり,取締役会設匿会社の代表取締役選定方法が,定款の定めなくして他の方法で行えるという趣旨ではないのではないでしょうか。』という指摘について
⇒登記情報539号をお送りしたのは、大前提として「定款で直接選定するのは当然に可能である」ことは立法担当者も認めていることを立証するためです。
当初のお電話の際、当職より「定款の定めに基づく株主総会での選定が可能とされているのであれば、定款で直接選定するのは当然に可能である」と主張しましたが、会話のなかで、そもそも御庁において取締役会設置会社において定款直接選定規定が当然に認められることの御認識があるのか、という点がはっきりしなかったためであって『定款の定めなくして他の方法で行える』ということを主張したかったわけではありませんし、当初よりそのような主張はしておりません。
上記1.で主張済みのとおり、代表取締役選定時に定款直接選定規定は存在しております。

顛末

さてどうなるか、いずれにしても早く回答してほしいなと思いながら、翌日の朝イチに意見書2をお送りしたところ、その日の14時に「このまま進めます」との連絡がありました。
特に理由も言わなかったため「結局どこが引っかかっていたんですか?再度お送りした私の見解についてどうお考えですか?」と聞きましたがむにゃむにゃといまいちはっきりしない見解を述べてらっしゃってたので、まあとにかく今日が補正日なので必ず今日中に上げてほしい、そちらの見解相違で2日間も消費しているので1秒でも早く完了していただきたい、とだけ伝え、電話を切りました。

まとめ

認めるべき補正/認めていい補正(という表現が適切かわりませんが…)がある一方で、認めてはいけない補正があると考えています。今回の補正通知も、取締役会議事録を添付したり、株主総会で選定する形に修正すればあっさり調査が進むことになったかと思います。
しかし、「定款で直接選定ができない」「この記載では定款直接選定規定だと読み取れない」という見解は明らかな誤りであり、これを認めてしまうと、以後、私だけでなく他の代理人の申請もその誤った見解で審査することになります。

登記官と司法書士をはじめとする申請代理人は、商業登記法第1条にあるように「商法・会社法その他の法律の規定により登記すべきと定められた一定の事項を、商業登記簿という国家が備えた帳簿に記録して広く一般に公示することで、商号・会社等に係る信用の維持を図り、かつ取引の安全と円滑に資する」という共通のゴールを目指しています。
我々が誤っていることもありますし、その逆もありますが、お互いに正しいロジックを確認し合いながら、正確な登記手続きを進めなければならないと思います。

そのためにも、もっと研鑽を積んでいかないといけないな、と改めて思った一件でございました。おわり。

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