見出し画像

2021/09/04 即興詩「追憶のオーバーラップ」

あんなに鳴いていた蝉の声が
いつしか鈴虫の鳴き声にすりかわり
線香の香りがどんどん薄れ
知らない間に 扇風機が仕舞われている

久しぶりに
熱いコーヒーを入れた
飲み終わる頃には
次なる暖を探すことと思う

そうやって流れていく季節に
だんだん何も感じなくなっていく
夏の終りに感じていた寂しさが
まるで事務処理のように
シュレッダーにかけるものになる

カレンダーに目をやると
時折 ふと思い出す
高校の時の球技大会の日付が
オーバーラップする

土埃の香りや
もう諦めるようになった学力テストの空間
文化祭はそれなりにテンションが上り
間に挟まれた定期考査に嫌気が差し
友達の別れ話にうんざりし
でも 女子の別れ話に少し高揚する

そんなとき
事務処理で片付いていたタスクは
突然 手も足も出ないものになる
溢れ出す感情を
ただ 諸手を挙げて
俯瞰することしかできなくなる

ひとしきり感情を表に出したあと
僕は「現在」に戻る
戻ろうと思って戻るのではなく
伸びたゴムが戻るように
自然に

夕食は何にしようか
昨日買った鶏肉と白菜で
鍋でもやろうか

溢れ出した感情に未練もなく
僕は
日常へと踵を返した

———

この季節になると、9月一周目の学力テストと必ず誕生日が被る友人のことを思い出すのですが、誕生日が毎回テストというのもあまりテンションが上がらないなあと今更同情をしてみたりします。もう、17年も前の話。
しかし、物心ついてから10年分くらいの記憶は、断片的にですが同じ粒度で思い出せる気がしています。
当時は、なぜだか忘れないようにと何度も出来事を思い返すようにする習慣がありました。忘れないように。忘れないように。

昨年亡くなった祖母も、忘れないようにと亡くなる直前まで紙に僕ら家族や実家の住所を書き付けていたそうです。
人の心からその出来事がなくなったとき本当の終わりがくる、とはよく言ったものです。
しかし、それもまた自然の摂理であることに疑いようはありません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?